*ジャッカル桑原の場合


 ドンッ。鈍い音がした。布にくるまれた荷物がふたつ、衝突するような音。それとともに、右足の側面に固いものがぶつかったような衝撃がした。運動神経は悪くないほうなので、多少よろけるまでに留まった。
「おっと…」
 ちらりと横を見れば、4〜5歳くらいの男の子が立っていた。その表情は怒っているのか拗ねているのか、はたまた泣いてしまいそうなのか、とにかくあまり良くないものだった。しかし大きな瞳は確実にジャッカルの目を捉えていて、身長差のせいでかなりの上目遣いになっている。
 とにもかくにも人通りの多い駅の中だったため、どうしようかと迷ったが迷子かもしれないと思いとりあえずしゃがみこんだ。ぶつかったのが柱のそばで良かったと思った。柱に寄ることで、人波から逃れることができる。
「ごめん、大丈夫か」
 右手を少年の肩のそっと置いて尋ねると、少年は不機嫌そうな顔をそのままに、じっとジャッカルの顔を見つめる。
「…おにいちゃん、外国の人?」
「ん?ああ…外国人の血が混じってるな」
「にゅーはーふ?」
「ぶっ……ちげーよ、ハーフだ、ただのハーフ」
 思わず笑うと、少年の顔がみるみるうちに不機嫌でなくなっていく。子供というのは本当に単純だな、と思いながら、ブン太や仁王にからかわれてすぐ拗ねる赤也を思い出した。
「お前、ひとりなのか?」
「んーん、お母さんがね、一緒だよ」
「お母さん?…どこにいんだ?」
「んーとね、あそこ」
 本題を尋ねると、少年が指差した先。行き交う人で見えづらかったので一旦立ち上がる。そっちのほうには、トイレしかない。
「トイレ?すぐ戻ってくるんじゃねーのか?」
 再びしゃがみこんで言ってやるが、少年はまた拗ねたような顔をして首を横に振った。
「トイレの前で待ってたんだけど、ユウキくんのお母さんみたいな声の人とお喋りしてるみたい」
「おしゃべり?」
「うん。うちのお母さんとユウキくんのお母さんは仲良しだから、よくお喋りしてる。今もね、ずーっとお喋りしてて、全然戻ってこないんだよ」
「ふーん…」
 どうやら母親が偶然トイレ内で知り合いに会って話し込んでいるらしかった。俗に言う井戸端会議というやつだ。とにかくこの少年は待っているうちに暇になって走り回ったりして遊んでいたのだろう、と推測してみた。
「でもトイレから離れたら、いざお母さんが出てきた時に心配するだろ」
「うん、でも終わりそうにないもん」
「……仕方ねーな」
 立ち上がって、ほら、と手を差し出すと、少年がキョトンとした顔をして首を傾げた。お母さんが出てくるまで一緒にいてやるから来い、と言うと、うん、と返事をして小さな手がジャッカルの手を握った。






















***

このシリーズで一番最初に思いついたのがジャッカルでした。チョコボール!←



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