*天根ヒカルの場合



 近所のスーパーに来ていた。母親に買い物を頼まれたからだ。まったく…人使いが荒い人妻…プッ。頼まれたものはすべて見つけ、レジに並んで会計も済ませた。品物をエコバッグに入れていき、さて帰ろうか、と思った瞬間、横から思い切りぶつかられた。
「いてっ」
「ぎゃっ!」
 衝撃に思わず呻いたが、ぶつかった相手のほうがオーバーリアクションだった。オーバーなオバさん…。そして、すぐにチャリーン、と、お金の落ちる音。見れば、五円玉が一枚、転がっていた。
「五円だけに…ごえんなさい」
 しゃがみこんで、拾ってやる。渡そうとすると、ぶつかった相手が5歳くらいの男の子だったことを知る。黄色のTシャツにハーフパンツ、なんとも元気そうな彼は、走ってきていて俺にぶつかったらしかった。走るときには前に注意しなければ…特にネズミには、チューいしなさい…プッ。
「…ありがと」
 俺から五円玉を受け取って、キャラクターのプリントしてある小銭入れに入れてからジッパーを閉めた。
「前をよく見ておかないと、大怪我をする」
「うん、気をつける」
「木には気をつけなさい……プッ」
「………おもしろくないよ?」
 男の子が首をかしげて、表情も変えずに言った。むむ、心を抉るその一言…。暴君のハートが、ブロークン…。
「ショックな食感…」
「おもしろくないってば」
「…ん、ああ、すまない……5階にいるゴーカイジャー…」
 男の子が持っているキャラクターの小銭入れ、最近あっているらしい戦隊物のものだった。六角テニス部予備軍の中に、小さな弟を持つやつがいて、たまにそういった話を聞くためにたまたま知っていた。
「お兄ちゃん、ダジャレ言いすぎ」
 相変わらず表情が変わらない少年だが、ちらりと自分の小銭入れを見てから、それが話題にのぼったことが嬉しかったのか少しだけ笑ってくれた。
「あれは、お母さんか」
 ちょうどレジで支払いをしている女性がチラチラとこっちを見ているのに気づき、少年に声をかけると大きく頷いた。
「ゴーカイジャーのね、レンジャーキー買ってもらった」
「そうか、それはよかったな」
 レンジャーキー?なんだそれは…?と思ったが、知っているふりをしておいた。ここで話し込むわけにもいかない。
「あ、じゃあお兄ちゃんにこれやる!」
 すると少年が再びその小銭入れを開けて、中からお金よりも少し大きなものを取り出した。ずいっと差し出され、それをつまむようにして受け取る。
「それ、オーメダル。同じやつもう一個あるから」
「オーメダル…?」
「仮面ライダーオーズだよ」
 黄色い枠に、中が赤っぽいオレンジ色のメダルは、なんだか六角の色に似ていてちょっとばかし嬉しかった。
「仮面ライダーのライターよりも、目立つメダルのほうが嬉しい……プッ」
 つい口からダジャレがこぼれ、また『おもしろくない』と言われるかと思ったが、少年は笑いながら頷いてくれた。
「じゃあね、おもしろくないお兄ちゃん」
「俺のダジャレは面白くなくても、白い犬は尾も白い…」
 ついでに青学の桃城も、面白い……。少年がレジで会計を終えた母親のもとへ走って行ったのを見送ってから再び歩き出そうとすると、後方でチャリーンと、お金の落ちる音がした。そちらを振り向けば、少年がまた小銭入れを開けっぱなしにしていたらしく、母親が仕方なく拾ってやっている姿があった。拾うたびに、疲労がたまる…。なんとも微笑ましい親子の姿に、なんだか予備軍と遊びたくなってきて、歩き出した足は小走りになっていた。























***

かと言ってゴーカイジャーを見ていたわけでも、オーズを見ていたわけでもないんです(笑)



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