部活に行く途中、歩道の脇に植えてあるでっかい木の枝が不自然にバキバキ言うてるのを聞いた。なんやろうと思うて近付いて見上げてみれば、そこには見慣れた豹柄が見えて、俺の口からは自然と溜め息がもれた。
「…金ちゃん。なにしてんねん」
「おー!白石ー!今な、トカゲさん追いかけてんねん!」
 声をかけると、金ちゃんが俺に気づいて手を振ってくる。たぶん、その間にトカゲさんは逃げとるはずやけど、金ちゃんはそんなこと考えることなくニコニコとした笑みを俺に向けた。
「トカゲさんなんて捕まえてどないすんねん」
「んー…どないしようかな…って!ちょっ、トカゲさんおらんなったで!どこや!どこ行ったんや!」
「あー、トカゲさんならな、たぶんもう木を降りて逃げてったで。せやから金ちゃんもはよ降りてきーや。部活行くで」
 それだけ言うてから、くるりと背を向けて歩き出す俺。すると金ちゃんが「待ってーな!」と言って木から飛び降りて俺に追いつく。身体についてる葉っぱに気づいていないあたり、金ちゃんらしくて思わず少し吹き出した。
「…なんや?いきなり笑うて」
「金ちゃん、葉っぱだらけやないか。ほら、ちょっと背中向けてみ」
 歩きながら、金ちゃんが俺に背を向ける。顔だけでちょっと振り向いてこっちの様子見とるもんやから、背中についてる葉っぱをひょいと取ってから見せてやる。
「ほら見てみ、こんな葉っぱがたくさんついてるで」
「うわー、全っ然きづかへんかったわー。ワイ、げきださやな!」
「…金ちゃんそれ、どこで覚えてきたんや」
「えーっとな、宍戸先輩や!」
 俺が次々に拾っては落とす葉っぱの数を見て、金ちゃんが"激ダサ"とか言い出した。どこで覚えたのか聞けば"宍戸先輩"やて。なんや、なんで宍戸クンは"先輩"ついてんねん。こいつが先輩ってつけて人のこと呼んでんのなんか聞いたことあらへん。
「鳳クンと喋ったんか…」
「おお!ようわかったな!こないだのテニスの大会、鳳が見に来てんの見つけたんやー」
「そうなんか。わざわざこっちの大会見にくるなんて熱心やな」
「なんや知り合いが関西に住んでんねんて」
「へぇ」
 金ちゃんが宍戸クンを先輩ってつけて呼んでる理由はすぐに検討がついた。鳳クンや。鳳クンは礼儀正しいから、年上の人にはちゃんと敬称をつけて呼ぶ。そのうえ宍戸クンとはダブルス組んでるから一緒におることも多いやろ。せやから自然と会話の中に宍戸クンの話題が出てくる。金ちゃんが宍戸クンを宍戸先輩と呼ぶのは鳳クンの影響や。そればっか聞き慣れすぎて、まるで名前の一部であるかのように先輩をつけて呼んでしまうようになってんねや。それからその"激ダサ"っちゅー言葉…それもたぶん、鳳クンの話の中にでも出てきたんやろ。
「せやけど金ちゃん、正直なところ激ダサっちゅー言葉を使うてるほうが激ダサやで」
「えー、そないなことあらへんと思うねんけどなぁ…」
「けっこう恥ずかしいで。聞いとるほうが」
「じゃあ白石のエクスタシ〜♪とどう違うねん」
「…なんで音符マークついてんねん。ちゃうわ。俺の絶頂はそんなもんやない。ええか、こうや!」
 言うてから、いつもの調子で"んんーっ、エクスタシー!"ってやると、金ちゃんがしらっとした目で見てきた。ちょ、なんやねん。なんでそんな目ぇすんねん。傷つくやろ。
「白石ー、激ダサとたいして変わらんのとちゃうん?」
「いや、ちゃうで。俺のエクスタシーのほうが10倍は決まる」
 片手で拳を作りながらキリッとした目つきで金ちゃんを見下ろすと「せやけどワイは激ダサ派やなー」とか言うからその拳で軽く頭を叩いてやった。
「いでっ!なにすんねん!」
「なんで金ちゃんはこんなに近くにおんのに俺のキメ台詞の良さがわからへんのや」
「キメ台詞っていうかー…ただ自分に酔いしれとるだけやろ?」
「…そら思い通りに完璧に点取れた時は誰だって"アカン!俺、かっこいい!"って思うてまうやろ」
「んー、まぁワイもバチコーン!って決めれたときは嬉しいけどー」
「せやろー?」
 今度は金ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でまくってみると、いかにもうっとうしそうにして嫌がった。頭撫でるとすぐ「子供扱いすんなやー!」って怒るねんな金ちゃん。そうやって怒るとこが余計に子供っぽいっちゅーのに。かわいいやっちゃ。
「白石ぃ!子供扱いすんなや!」
「あーはいはい、すまんすまん。金ちゃんはもう子供とちゃいましたねー」
「うむむむ…腹立つわー…」
 俺の乱された髪の毛をまた自分でわさわさと触りながら納得のいかない顔で睨んでくる。なんや余計に髪が乱れてしもうてて、仕方なしにまた手を伸ばす。
「なんや!」
 しかし俺の手が髪の触れそうになると、それを認識した金ちゃんが飛び跳ねるようにして一歩下がった。また叩かれるかわしゃわしゃ触られるかのどっちかやと思うたらしい。頭を両手で押さえたポーズで、ギラギラした目を向けてる。でも正直、金ちゃんに睨まれてもまったく恐怖も何も感じられへん。
「大丈夫やって。ほら、ボサボサになってしもうたやん。こっち来んかい」
 そんな金ちゃんの姿に少し笑ってから近寄って、改めて手を伸ばすと今度はおとなしく触らせてくれる。その口は何故か尖ったままやけど。
「なーんかアレやなー。やっぱり白石はオカンみたいや」
「まぁそう見えるやろな」
「自覚あるんかい……」
「よう言われるからな」
「そか。せやったらオトンは誰や?」
「オトン?……せやなぁ……」
 オトンか…。二人でぼんやりとテニス部のメンバーを思い浮かべて無言が続く。それから俺の「銀さんかな」という声と金ちゃんの「銀やな」という声が同時に発せられた。思わず顔を見合わせてから二人で笑い出す。
「そらあの器やろ、銀さんしかおれへんで」
「せやろなぁ!銀は大きゅうて頼りになるしな!オトンやな!」
 整え終わった金ちゃんの髪から手を離して、再び横並びになって歩き出すと同時、突然後ろから「ワシがなんやて?」と太い声が聞こえて、金ちゃんと一緒に肩を跳ねさせて驚いたのは言うまでもない。




























***

ザ・強制終了。冒頭のトカゲの話とか本気で意味皆無(笑)





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