「金ちゃーん。ゴンタクレー。どこにおんねやー」
 俺らしくもなく歩きながら金ちゃんを捜していた。オサムちゃんに『遠山のゴンタクレ呼んできぃ』と言われ、早速走って捜しに行こうかとしていると白石から『お前が走って捜しに行ったら絶対見落とすから走んなや』と釘を刺されたからだ。
「…なにごともスピードが命やろ」
 しかし金ちゃんを捜すにあたり、どこにいるかもわからんから確かに歩いて捜したほうが効果的かもしれないと自分に暗示のようなものをかけつつトボトボ歩いていると、見たことのあるデカイ靴が横から出ていた。ちょうど中庭の茂みの部分だ。
「まさか……ってオイ」
 このデカイ足は知っとるでぇ、千歳や!と思って起こしてやろうかと茂みを覗くと、そこにいたのは仰向けで寝転がっている千歳と、その千歳を敷布団にしてうつ伏せに寝ている金ちゃん。なんとも仲良く眠っているが、身長差もあるせいか親子のようだ。
「おい千歳、金ちゃん、起きや」
 とりあえず千歳の頭側へまわって声をかける。すると千歳が一度唸ってからゆっくりと目を開ける。
「んん…?誰ね…ケンヤ…?」
 眩しそうに目を細めている。
「せや。俺や。いつまで寝てんねん。ていうか敷布団の代わりにされてるで」
 俺が金ちゃんを指差せば、ああ、と笑うて両手を組んで頭の下に敷いた。こいつ起きる気ゼロやん。
「そういや金ちゃんが乗っとったね。やけん苦しかったったいね」
「いや笑うてる場合ちゃうやろ。ほら!金ちゃんも起きんかい!オサムちゃんが呼んでるで!」
 いつまでも千歳の上で寝ている金ちゃんの頭を叩く。すると顔だけで起き上がってこっちを見た。しかしその動作こそ素早かったものの、目が開いていない。
「あー……なんや、誰や…」
「俺や。浪速のスピードスターや」
「なんやケンヤかぁ…邪魔せんといて、今たこ焼き8個目やねん」
「なんの話や」
 ほら、起きんかい!もう一度、今度は金ちゃんのデコを叩く。すると「いでっ」と声を上げてから金ちゃんが目を開けた。
「なにするんやケンヤー!ヘタレのくせに生意気や!」
「ちょ、ヘタレのくせにって…白石の真似せんでええねん!」
「っはは、わがたちゃ騒がしかねー」
 自分の頭上と腹の上で展開される言い合いにケラケラと笑っているのが千歳らしくてなんか気が抜ける。
「まったく、とにかく金ちゃん、いつまで千歳の上に乗ってんねん。はよ降りやこのゴンタクレ」
「いーやーやー。やって千歳は芝生と違うてあったかいしふかふかやし大きさもちょうどええんやもん」
「…お前本気で千歳を敷布団やと思うてへんか?」
 じろりと金ちゃんと見ると、金ちゃんがいつもみたいににーっと笑った。
「でもなー、こうやって千歳の上に乗っとると思うんやけどー」
 すると今度は金ちゃんが千歳の顔を見ながら足をバタつかせる。
「これってアレみたいやん。千歳はトトロみたいやな!」
 にかーっと笑う金ちゃんの発言に、つい俺は吹きだす。
「千歳がトトロて!図体のデカさだけで言うとるやろ」
「ははは、そしたらアレばい、俺の上に乗っとる金ちゃんはメイたいね」
 しかし千歳自身もおもしろがって話に乗る。にこにこしながら金ちゃんと目を合わす様子がやっぱり親子みたいというか、白石同様、金ちゃんの扱いに慣れてる感じがする。なんやねんコイツら。
「えー、メイって二つ結びのちっこいほうやろー?」
「なんね、金ちゃんもちっこかたい」
「んーせやったらー、ケンヤ!」
「なんや」
「ケンヤはサツキやな!」
「はぁ!?」
 ただそこに居合わせただけで勝手にサツキに任命された。千歳も尚おもしろがって「さつきばいね」とかなんとか言うてくる。ったくコイツらアホやな。もう完全にメイとサツキがトトロの上に乗っとる画しか浮かばへんわ。
「あーったくお前らしゃーないわ!わかった俺はサツキやなー!」
 もうなんか俺もおもろくなってきて、千歳の上に乗ってる金ちゃんの上に乗った。
「いでででで、痛いでケンヤ!」
「苦しかっ、無理って!」
 すると俺に乗られた金ちゃんはもちろん、二人分の体重がかかっている千歳が苦しがる。しかしなんや二人とも笑うてる。やっぱりこいつらアホや。ていうかアホな集団や、もともとからうちの学校は。笑かしたもん勝ちやさかいな!
「………ごほんっ」
 すると不意に後ろからわざとらしい咳払いが聞こえた。ん、と思って振り返ってみると、片手を腰にあて、咳払いのときに口元に当てていたであろう左手を今まさに腰に置いた白石が立っていた。
「……あ」
 つい口から声がもれる。
「…あ、やないでケンヤ。金ちゃん捜しに行ったままえらい帰ってこんからオサムちゃんから捜索指令が出たんやで」
「なんや白石かー、今な、ケンヤと千歳と3人でトトロごっこやってんねんでー」
「金ちゃん。だいたい金ちゃんがいきなりいなくなるからケンヤが捜しに来たんやで?」
「んー、せやけど白石ぃ、ケンヤも結局遊んどるし」
「せやな。このアホんだらを捜索に向かわせたのは失敗やったってオサムちゃんも言うとった」
「誰がアホんだらや」
 金ちゃんが顔だけで白石を振り返って喋ってるうちにいそいそと上から降りる。すると千歳がふーっと息を吐いた。
「てかこれ誰や、千歳か?」
 ちょうど白石からは一番下に敷かれている人物が見えていなかったようで、ちょっと覗き込む仕草をする。
「よっ」
 それに対して千歳が片手をあげて返事をすると、白石が眉を困らせた。
「千歳ぇ。このゴンタクレと一緒に寝とったんか?」
「ていうか気がついたら金ちゃんが腹ん上に乗っとったばい」
「千歳…もう金ちゃんも50キロ以上あるんやし、乗られたことに気がつくやろ普通」
「ははは、なんか苦しかねーとは思うとったとばってん」
 あいかわらず笑っている千歳。そんなに芝生の上で寝るのが気持ちええんやろか。さっきからずーっと笑うてるわ。
「とにかく金ちゃん、そろそろ部活行かな、テニスしたいんやろ?」
 ぐいっと、白石が包帯の巻いてある左手で金ちゃんの豹柄のタンクトップを掴んだ。すると首もとが絞まって金ちゃんが慌て出す。
「わわわ、わかっとるって白石!豹柄が破れるさかい引っ張るんやめてくれへんっ?」
「あーせやなぁ。この豹柄のランニング、ラケットの次に大事やもんなぁ」
「…白石ぃ、ランニング言うなって言うたやん。おっさんくさくなるやろ。これはタ・ン・ク・トッ・プ、や!」
「はいはいタンクトップな、タンクトップ。ええから行くで」
 白石が今度は金ちゃんの肩を掴む。それが相変わらず左手やったもんやから、金ちゃんの表情が一瞬にして青くなる。お、と思った瞬間にはその足が動き出しとった。
「やめや白石ー!毒手でワイん肩触んなやぁぁぁぁ!」
 言いながら、バタバタとコートの方へ走って行く。その逃げ足があまりにも速く、なんだか俺の中で衝動が爆発する感覚がした。いや、速いものを見ると追い抜きたくなるやろ?浪速のスピードスターとして、そして先輩として、金ちゃんに負けるわけにはいかへんのやっ!
「金ちゃん待ちやぁぁぁぁ!!」
 金ちゃんの背中を目標に走り出してすぐ、あっケンヤ!と白石が言うたのが聞こえた気もしたけど、俺はそのまんま突っ走った。後ろで「大阪っておもしろかとこばいねって、最近つくづく思うばい」と千歳が呟いたことも知らず。

 その後金ちゃんとともにコートに到着、ふたりして財前に足をひっかけられてスライディングでオサムちゃんの前に飛び出した俺らは、いつの間にか野球部のユニフォームを着ていたユウジと小春からアウトの審判を受ける。ちっくしょー、間に合わへんかったわ!……って俺らってテニス部やんなぁ。テニスせぇへんの?
 小さな疑問はオサムちゃんの豪快な笑い声に消された。


























***

どうしたコレ。ぐだぐだにもほどがある。ちょっと頭打って三途の川渡ってくるね!



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