「あっつー…」
 思わず呟いた言葉に、幸村くんが反応した。視界の端っこで、土いじりの手を止めて顔を上げたのが見えた。
「大丈夫かい、丸井」
 すいすいと流れるような動作でこちらに寄ってきた幸村くんはあまり暑がっているようには見えない。確かに首や額に汗を浮かべてはいるものの、なんだかさわやかだから不思議だ。
「幸村くんはあんまり暑そうに見えねーよな」
「そうかな」
 ふふ、と笑う声がまた夏らしくないというか。見てみろ俺なんて汗だくだぜ?あーもう怒られてもいいから制服のまま水かぶりたい。
 俺は幸村くんと校舎の前に配置された花壇の前に来ていた。正直俺は幸村くんとそんなに言うまで親しくはない。現にくん付けだ。だけどなんで二人でいるのかというと、それはただ単に幸村くんが気まぐれに花壇の手入れに行こうと思いついたからであって、たまたま近くにいた俺に声をかけたからであって、俺も俺でいつも帰宅してからは弟たちの相手になってることが多いからたまにはいいかなと思ったからであって。こうして二人で花壇に向き合ってると変な感じがしてくる。だいたい俺が花壇の前にしゃがんでる姿が悲惨だ。もしこの姿を赤也が見たら爆笑すんだろうな、俺だって笑いたいくらいなんだから。
「丸井は汗だくだね。風邪ひかないようにしないとな」
「だな……ていうか幸村くんもそうだけどよ、柳なんてひどいと思わねーか?」
「ふふ、そうだね。柳はいつでも秋らしい姿だよね。暑くても寒くても表情ひとつ変えないんだから」
「ポーカーフェイスでも気取ってんのかな」
「目が開いてないからそう見えるだけだよ」
 幸村くんのサラリとした物言いに思わず少し吹き出す。そして何故か周囲に人がいないことを目視で確認してから幸村くんに顔を寄せた。
「やっぱりそう思うか?どう見ても目ぇ開いてないよな、柳って」
「ああ。あれは開いているうちに入らないよ。でもあの状態でもボールは見えてるんだから不思議だよ」
 ふふ、と笑う幸村くんの声を聞きながら、脳裏に柳の姿を思い出す、すらりとした長身に、小さい顔。でもその目は普段あんまり開くことはなく、たまに本気になると開くことがあるからドキッとする。いや、悪寒的な意味で。
「さて、あとはここに土を盛って、」
「んっ?おいおい、そんな茎んとこまで土かぶせていいのか?」
「うん、ここに土を盛らないと、水やりをした時に根元がむき出しになることがあるんだ。それを防ぐためだよ」
「へぇ…」
 ぽんぽん、と右手に持っていたスコップで土を軽く叩いた幸村くんがすっと立ち上がる。それを見てから俺もゆっくり立ち上がる。
「ん……」
 すると幸村くんが半歩だけ後ろに下がる様子を見せた。
「どうしたんだ?幸村くん」
「ん、ああ。ちょっとだけ立ちくらみがしてね。ずっと膝を折って座ってたからだな」
「完全復帰したとはいえ、なんかハラハラすっから気をつけてくれぃ」
「ふふふ、丸井は心配性だね。さすが二児の兄」
「まーな」
 ぽん、と幸村くんの右手が俺の肩に触れた。俺は身長が低いこともあってあまり兄らしく見えないことが多いらしいが、なんだか幸村くんにそれを言われるとムズムズするというか、妙に照れくさく感じる。柳や柳生と話してるときも感じるんだよな、このどっかで俺を見透かしてるような空気。悔しい気もすんだけど、それ以上なにも言ってこないから俺もなにもできない。
「よし、それじゃあ俺はスコップとか戻してくるよ」
「ああ、そしたら俺はここで待っとくぜぃ」
 幸村くんがスコップをちょいと掲げてみせたので、頷いてからここで待っていることを言うと、「え?」と言ってその目が驚いたように少しだけ見開かれた。
「ん?どうかしたか?」
 不思議に思って声をかけてみれば、今度はその顔がふっと柔らかく笑った。これが女子が騒ぐほどの笑顔なのかなと思ってじっと見つめてみたが特になんとも思わなかった。いや、そりゃ確かにイイ男なんじゃねーかとは思うけど。
「ふふ、丸井はこういう時さっさと帰っちゃうイメージがあったから」
「なんだよ、そんなに薄情に見えんのかよ」
「そういうわけじゃないさ。単なるイメージだよ、イメージ」
「それが問題なんだっつの」
「ふふふ。じゃあすぐに戻ってくるから、大人しく待っとくんだよ」
 ひらりと踵を返して校舎のほうへ歩き出す幸村くんの背中を見ながら、俺は犬かよ、と呟いた。夕日に照らされたレンガ造りの校舎の壁が、尚更真っ赤に染まっているのを見た。

























***

やべーぜ。わけわかんねー感じだぜ。
ていうかアレですかね、やっぱり丸井も「幸村」呼びですかね。ファンブックの立海ページで丸井が「幸村くん」って言ってたんでくん付けなのかなと思ってたんですが。



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