「なぁなぁ千歳ぇ〜」
 聞き慣れたちょっと高い声が後ろから聞こえた。同時に制服の裾をぐいぐい引っ張られる。
「なんね?」
 ちらりと低い位置を振り返ると、言わずもがな金ちゃんがこちらを見上げていた。身長が伸びることを予測して購入された制服が若干だぼついているのが何度見てもおかしい。
「ケンヤから聞いたでぇ、東京にな、ごっついテニス強いやつおるんやて!」
「あー、なんか言うとったね。青学におるとやろ?」
「せやで。めっちゃ図太い身体でな、指から毒素を出し、三つの目でごっつう睨んでくる、アメリカ帰りの大男やねんて!戦ってみたいわー!」
 えらく目をキラキラさせて語る金ちゃんだが、話の内容はどう考えてもおかしい。何をどう説明したらそんな人物になるのかがよくわからない。俺もあまり詳しく聞いていないのでわからないが、とにかく強いらしいということは確かみたいだ。
「でもそぎゃん大男やったら、金ちゃん負けるかもしれんたい。今でも白石の毒手ば怖がるくらいやけんね、指から毒素出されたら終わりじゃないと?」
「うっげぇー、そうや、ワイ毒出されたら終わりやんけー…まだ死にたないなぁ。なぁ千歳ぇー、どないしたら毒から身を守れるん?」
「そうやねぇ…毒に触らんとが一番たい」
「せや!ジャージ着て試合したらええやん!」
「服に染み込んだら一緒ばい」
「うっ……いーやーやー!死にたないけどコシマエと戦いたいー!どないしたらええんやぁぁ!」
 あくまでも場所は3年の教室のある階。ちょうど階段をのぼってるところだったから、もちろん通りすがりの生徒もたくさんいる。そこで服の裾を掴まれた状態で金ちゃんがわめこうものなら、視線が集まるのも簡単なことで。
「なんや千歳のやつ、久々に学校来たらさっそく遠山につかまってるやん」
「見てあの身長差。すごいよね」
 いろんなところから声が聞こえる。男子も女子も、みんな一度は振り返る。もともと他人よりも背が高いので目立つらしく視線を浴びることは多いが、それでもこの状況はちょっと恥ずかしさを感じる。その間にも金ちゃんは俺の服の裾を掴んだまま左右に振ってわめくのをやめない。
「金ちゃん、服伸びるけんやめんしゃい」
「いーやーやー!やって手ぇ離したら千歳帰るんやろー!」
「いや、まださっき来たばっかりやし。今日はちゃんと部活終わるまで帰らんつもりばい」
「ほんまか?」
「ほんまよ」
 関西弁を真似てから、にっと笑って左手で金ちゃんの頭を撫でてやると、いつもみたいににーっと笑ってから金ちゃんが大きく頷いた。
「じゃあ千歳、ワイから千歳に宿題や」
「金ちゃんからの宿題かー…なんか嫌な予感のするね」
「部活始まるまでに考えとくんやで!内容はな、コシマエの毒素対策を考えてくること!」
「…金ちゃんそれほんなこつ言いよると?」
「あたりまえや!ワイ、コシマエと試合したいけどまだ死にたないんやもん!」
「いやいや、金ちゃん。普通、指から毒素出せる人間なんておらんと思うばい」
「おるでー、現におるやん、白石が」
「じゃあ金ちゃんは白石実際に毒手出したと見たことあると?」
「……ないなぁ…」
「そうやろ?あれは嘘たい」
 黙り込んだ金ちゃんに諭すように話していると、不意に誰かが横に現れたのが見えてそちらを見る。すると、噂をすればなんとやら、白石が微笑んで立っていた。
「千歳ぇ、余計なこと言うたらアカンでぇ」
「あー、ごめんごめん」
「…白石ぃ、それ、毒手じゃないん?ワイ、それほんまに毒手やと思うててんけど」
「ふふふ…金ちゃん。ええか、千歳にもな、見せたことないねん毒手。やから千歳は、俺の毒手のことを嘘やと思うてんねん……けどな、これ、ほんまに毒手なんやでぇ…」
 白石がにやにやしながら金ちゃんに詰め寄って言うと、金ちゃんの顔が一気に青ざめる。
「ややややややややっぱり毒手なん?いやや、まだ死にとうない!堪忍してーな白石っ!」
「えー?見たくないん?毒手、見たいんやったらいつでも…」
「いややー!まだ死にたない!」
 白石が包帯の端を持ってほどく用意をしながらじりじり詰め寄れば詰め寄るほど、金ちゃんと白石が俺を囲んでぐるぐる回るような形になる。金ちゃんが俺の後ろに隠れれば白石が俺を利用して、金ちゃんを右から覗いたり左から覗いたりして遊んでいる。移動するたびに金ちゃんが俺を盾にしようとして服を掴むから、ちょっと…いや、かなりヨレてきた。アイロンかけんばたいね。
「二人とも元気のよかねぇ…」
「金ちゃーん。ほらー、見たいんやったら、見せたるでぇ」
「いややー!遠慮するわぁ!」
 ぽつりと呟いた声も、二人の声にかき消されてしまった。



























***

四天宝寺ではこの三人が大好きです。
しかし熊本弁って難しい。九州出身なんですけどね。←



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