「んだよ」
 ついじっと見つめてしまっていると、じろりと睨まれた。別に怒っていてやっているわけではないことくらいわかっているけど、それでもハッとして「すみません」と声が出た。
「あー別に怒ってるわけじゃねーからな」
「わかってます」
「ていうか、俺なんかじろじろ見てたって面白くもなんともねーだろーが」
「そんなことないですよ」
「あ?」
「あっ、いえ、そういう意味じゃないです!」
「じゃあなんなんだよ」
「いや、宍戸さん髪伸びたなぁって思って」
 俺が言うと、宍戸さんが少しだけ目を開いた。かぶっていた帽子を脱いで、自分の髪をわさわさ触ってる。
「長太郎、お前わかんのかっ?」
 突然、腕を掴まれる。びっくりして、背を反るようにして距離を取ってしまった。
「えっ?はい。ちょっとだけ、伸びてきましたよね」
 そんな状態でも感想を正直に話すと、宍戸さんの目がちょっと輝いているように見えた。気のせいかな?いや、気のせいじゃないかもしれない。
「そうなんだよ、やっと伸びてきたんだよ髪がよお!ったく、髪が長いうちはあんまり伸びたかどうかなんて気にしなかったけどよ、やっぱり切っちまってから気になって仕方なくてな」
「でも宍戸さん、髪伸びるの遅いですよね」
「だろ?もう切ってからだいぶ経ってるぜ…早く伸びろって念じてんだけどな」
 ぽつりと言ってから、自分の髪をひとつまみ摘んでグイグイ引っ張る仕草をした。あ、これ最近よくやってる癖だ。ちょっとでも早く髪を伸ばしたくて引っ張ってたんだな…。
「また前みたいに伸ばすんですか?」
「んー…どうだろうな」
「あれ、でも早く伸びろって思ってるんじゃないんですか?」
「…それがよ、短くすると髪洗うのが楽だからよ」
「乾くのも早いですしね」
「それに案外、悪くねーなって思ってんだ」
「あ、それ俺も思います。いきなり切っちゃったときは本当に驚きましたけど、短髪も似合いますよ」
 いつの間にか開放されていた腕に気がついて、引っ張られた袖をさりげなく整えた。すると宍戸さんがちらりと照れたような視線で俺を見てから帽子をかぶりなおした。
「よせよ、お世辞なんて言われても何もないんだからな」
「お世辞じゃないですよ。正直な感想です」
「…そんじゃ、ありがたく受け取っておくぜ。ありがとな」
 すい、と拳を作った右手を出される。その意図を読み、俺も同じように右手を出して宍戸さんの手にぶつけた。
「うっし、急ぐぞ長太郎。遅れると跡部がうるせーからな!」
「はい、宍戸さん!」
 小さく走り出した宍戸さんの斜め後ろを離れまいとついていく。ちょっと前までその後頭部に揺れていた尻尾のような髪の毛を思い出してなつかしくなるのと同時、今見えている、帽子の下から覗く髪がやっぱり綺麗でなんだか嬉しくなった。

























***

ロン毛も短髪も、どちらも素敵ですよ宍戸さぁぁぁぁん!!!!




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