練習試合をしていた。俺はもちろん長太郎とペアで、準レギュラーのペアとダブルスをしていた。俺たちがリードしていた試合。長太郎のサーブで、俺はネットの前に前かがみで構えていた。
「一…球、入…魂!!」
 いつもの掛け声が聞こえたと同時に、後頭部にものすごい衝撃が走って、俺は倒れた。そこまでは覚えている。そして気がついたら病院のベッドだった。
「宍戸さん!!」
 ゆっくり目を開けると同時に長太郎の声が響いて頭がガンガンした。
「いっ…てー…」
「あ、す、すみませ…」
 勢いですごい至近距離にいた長太郎が、すとんと椅子に座りなおしたため視界が鮮明になった。白い個室で、傍らに俺の制服と鞄が置いてあった。
「おい長太郎…俺どうしたんだ?」
 情けない話だが、いまいち自分がどうしてこんなことになっているのかが全く理解できずに長太郎を見る。すると俺を心配そうにじっと見ていた長太郎がいきなり椅子から立ち上がる。それはもう、そんな長身から見下ろされて、見上げているこちらは首が痛い。すると不意に泣きそうな顔になって、声もなく頭を下げた。
「長太郎!みっともない真似すんじゃねー、頭あげろ!」
 そこまで来ている肩をガシッと掴み、起き上がらせようとするが長太郎はびくともしない。
「すみません宍戸さん!俺のサーブが宍戸さんの頭に直撃したんです!」
 その声は震えて、しかし声を張り上げて、今にも泣きそうな雰囲気を残したものだった。
「わかったから、頭あげろ。人と話をするときは目を見るのが常識だろうが」
 はぁ?長太郎のサーブが当たったぁ?と思ったがとりあえず長太郎を座らせたかったのでなだめた。すると長太郎は「はい…」と小さな声で言って頭をあげ、静かに椅子に座った。しかし俺の目は見ることができないようで、俺の肩元の白いシーツを見ていた。
「…で、お前のサーブが俺の頭に当たって、このザマかよ」
 俺が自嘲気味にため息をつくと、長太郎はパッと顔をあげて俺の目を見た。
「宍戸さん、本当にすみません!俺が…コントロールさえ良ければ…。パートナーにボールをぶつけるなんて初心者のやることです。しかも俺の渾身のサーブが直撃して気絶させてしまうなんて…」
 そこまで言ってから自分の両手で顔を覆い、「パートナー失格だ…」と小さく言葉をこぼした。
「ばーか」
 俺はそんな長太郎のうつむいた頭を、片手でぱしっと軽く叩く。
「お前のコントロールはこれから直しゃあいいじゃねぇか。パートナーの俺が付き合ってやるってんだから絶対によくなる。ていうか、パートナー失格ってお前が決めることじゃねーし」
 後半笑いながら言うと、恐る恐るといった様子で長太郎が顔をあげる。
「本当ですか…?」
 瞳に涙が溜まっていたのか、なんだかすごく水分が多いようだ。
「何回も言わせんな。俺はこれから先、お前以外とはダブルスを組む予定はねー」
 言って、さっき叩いた手で、今度はよしよしと撫でてやる。すると長太郎の瞳から水滴が落ちて、宍戸さぁぁん!!と声を張り上げると俺に抱きついてきた。「気色わりー!やめろ!」とつい声が出たが長太郎はそれを聞いていないようで、「俺、宍戸さんが倒れたときは本当にどうしようかと思って怖かったんです!」とバカみてーな力で俺を抱き締めた。正直、気色悪いうえにめちゃくちゃ苦しい。なんでもないように装っているがもちろん後頭部はまだ痛いわけで、響くからおとなしくしていてほしかった。
「宍戸さんが死ななくて良かった…」
 殺傷力のあるサーブなんて聞いたことがねぇ。と思いながらも、これほどまでに自分を心配してくれた相棒を叱るという選択は、俺にはできなかった。
























***

氷帝小ネタでした。






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