よく赤也が、精市、弦一郎、そして俺の3人のことをバケモノ呼ばわりしているようだが、それに関していささか不満があるのが本音だ。赤也としては、テニスの腕前を認めたうえで敵わないと判断し、更に入学時に俺たちに歯が立たなかったことへの皮肉としてバケモノという名称を使っているようだが。まぁ精市のことをバケモノと呼びたくなるのは、少しわかるような気はする。しかし弦一郎はバケモノというよりも意思能力を備えた獣と言ったほうがよいかも知れない。……俺か?俺は3人のなかでは一番バケモノらしくないのではないかと、自分では思っているが。

「そしたらこの間、青学のくせ者に会ってよ〜」
 雨の降る放課後。もちろんテニスコートが使えるはずもなく、いつもの通り校内の教室でミーティングをしていた。しかし普段とひとつ違うことといえば、弦一郎がこの場にいないことであった。別件で教師に呼ばれていて、少し遅れると連絡を受けていた。精市も未だ入院中であり、圧力感のない教室内は雑談で和やかな雰囲気になっていた。
「えっ、くせ者ってあいつッスか?ダンクスマッシュとかジャックナイフとか使ってくる」
 この間の休日に東京に遊びに行ったというブン太が青学の桃城と出くわした話を始めると、すぐに赤也が食いついた。身を乗り出すようにしてブン太へ顔を向ける。
「そうそう、そいつ。道歩いてたらバッタリ」
「なんかしゃべったんスか?」
「あー、まぁお互い暇だったしな、歩きながらしゃべってたんだけど…」
「だけど?」
「いつの間にか食い物の話になっててよ」
 不意にブン太の口からグリーンアップル味のガムで作られた風船が現れる。このタイミングで膨らます確立86%…予測通りだ。
「丸井先輩らしいっすね…」
「しっかしよー、意外とあのくせ者、話が合うんだよなー」
「食い物の話が、か?」
 いままで無表情で話を聞いていたジャッカルが口を挟む。その目はいつも真剣に話を聞いているものと変わらない。
「おう。あいつもケーキバイキングが好きみたいでよ」
「えっ?あのくせ者野郎、ケーキとか食べるんすか?」
 大食いそうッスけど、甘いもんとかあんまり食いそうな感じじゃねぇなと思ってたんスけど。赤也が少し驚いた顔をしている。そう言えばこの間久しぶりに貞治と連絡を取ったときにも言っていたな。桃城の食べっぷりがよすぎて見ていてたまに少し具合が悪くなる、と。それなりの練習をしているために消費する量として過多になるものではないが、感覚的に見ていての感想だそうだ。
「俺も意外だと思ったんだけどよ、甘いもん好きらしいぜ。ケーキバイキングでの最高記録は48個って言ってたな」
 ふむ。桃城の体格と運動量からしても、ケーキバイキングで48個のケーキを食べるというのは全く問題はない。しかしああいったものは味覚からくる気分の問題であって…
「うっげ…よんじゅ…」
 赤也の眉尻が下がっている。驚愕、呆然、そして少し想像して気持ち悪くなった…そんなところだろう。
「ああいうのって、胃の大きさより感覚の問題だろ。麻痺してんじゃねぇのか」
 ジャッカルが引いているのがわかる。ついでに窓際で雨を眺めていた仁王が小さな声で「きもいナリ」と言ったのが聞こえた。その横の柳生は、相変わらず読書に夢中のようだ。
「で、でも、ケーキバイキングのケーキってちっさくないすか?」
 どうにも話を受け入れがたい赤也が声をあげる。驚愕して脱力していた身体を正し直したようだ。
「だとしても48個だぜ…?」
 しかしすかさずジャッカルの声が続く。なんだあいつ信じられねぇという空気の中、ひとりだけ飄々としているブン太の次の言葉に、誰もが耳を疑った。

「俺は最高50個だけどな!」

 いやー本当はもっと食えたんだけどよ、店員さんに止められちまってよ〜と楽しそうに笑うブン太に、誰も何も言う言葉はなかった。

「赤也」
「…なんスか?」
「バケモノが増えたな」
「……あれは一生、潰す気になれないバケモノッス…」




















***

潰す前に自分が潰れる。笑





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