「偶然じゃないか」
 はっはっはーと笑う俺がいたのは数分前。今はひたすら沈黙に耐えていた。目の前には、立海大附属中テニス部の副部長、真田弦一郎が座っている。この空気、気まずいことこのうえない。関東大会の時には突然の勝利宣言をしてしまい、尚且つ本当に勝利してしまったのだからそれはもう、いつ鉄拳が飛んでくるのかわからないような状態だ。ああ、胃が痛い。
「大石」
「なななななんだいっ?」
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。どもりまくりだ。ああ、真田が凝視している。怖い、怖すぎる。手塚、お前だったらこのピンチをどう乗り切る?
「何をそんなに緊張しているのだ」
「いやっ、そ、そんなことないよ!ははっ!」
「………」
 ああああ会話が途切れた!なんか言ってくれないか!俺はもう限界だよ!さっきから天気の話やら、近所で子犬が生まれた話や、もうとにかく何の話をしても続かない。ああなんで「そこの喫茶店にでも入って話さないか?」と言ってしまったんだろう。神奈川という慣れない土地で知っている人を見つけて安心してしまった俺がバカなだけなんだろうな、きっと。ああ自己嫌悪。胃が痛い、胃薬を飲みたい。
「ところで、」
 こんな俺の心境を知ってか知らずか、いきなり真田のほうから話を振ってきた。思わず「うんうん!」と言って身を乗り出す。
「あの時は驚いたぞ」
「あのとき?」
「関東大会で最初に握手をした時だ」
「…あー…あの…あれは、」
「黙り込んだと思えばいきなり大声で勝利宣言とはな」
「い、いやぁ、その…」
「大したものだったな、今思えば」
「へっ?」
「その時は、たわけが、と思っていたが…実際に我ら立海は負けてしまったからな」
「う、うん…」
「俺たちは一人一人が自分のテニスに自信を持って挑んでいる。今までも無敗が続いていたのだから、これからも必ずや勝てる。そう、思い込んでいたのかもしれない」
「………」
「お前たちを見くびっていた、ということも、正直ある」
「…ああ、」
「手塚や不二など、個人が強いことは噂にも聞いていた。しかしここ最近では全国にも行っていなかっただろう。そこまで強く意識していなかったというのが現状だ」
「………」
「蓮二も後に言っていた。もっとよく見ておくべきだった、と。お前たちのように、窮地に立たされて成長する選手はそう多くない。俺たちはそこを見抜くことができなかったのだ」
「…そう、か」
「だが大石」
「なんだい?」
「次は…全国では絶対に負けない。同じ過ちは二度しない。覚悟をしておけ」
「…ああ。全国で、また対戦しよう」
 いつの間にか、俺の心は落ち着いていた。関東大会の時に見た真田は恐ろしかった。しかし今目の前にいる男は、ただの怖いだけの男ではなかった。目が、語るように。全国で待っているからそこまで這い上がって来い、と、言っていた。手塚…この真田弦一郎という男は、日本男児だ。ただ強いだけではない。その瞳の奥に、人情が見え隠れする。きっとこの男、部長代理を務めるに値する信頼を得ているに違いない。
 チャリ、と小さな音を立てて「ではそろそろ失礼する」という言葉とともに、真田はお金を置いて席を立った。
「ああ、じゃあな」
 その長身の背中を見送ってから、少し残っていたお茶を飲み干して、俺も席を立った。
























***

ザ・副部長ズ。大石くんは神奈川の親戚を家族で尋ねていて、その合間に街に出掛けたのですが母親がデパートに入って長らく出てこない、って時に真田に遭遇した。っていう設定でした。←説明しないとわからないwwwww



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