魔主役
※魔主役6巻までの知識。元ネタ知識は全くない状態です。
シャオロンは欠伸を溢しながら、通学路を歩いていた。昨夜はオンラインゲームが盛り上がりすぎてしまい、ついつい夜更かしをしてしまった。一時間目はこっそりさぼって、どこかで昼寝でもしようか。そんなことを考えながら、校舎へ入らずに裏庭へと回る。
――……。
ふと、シャオロンの耳に微かなメロディが聞こえてきた。ピアノやリコーダーではない、何かの楽器で奏でられる旋律だ。どこから聞こえてくるのだろうと、シャオロンは音のする方を探すように足を動かした。
それは、建物の隙間の、狭い場所だった。微かに零れ入る日光は柔らかく、その下で寝ころべば穏やかな昼寝ができるだろう。その日の当たる場所に、一人の男子生徒が座っていた。
シャオロンのような角の上からフードをかぶった青年の顔はあまりハッキリしないが、フードの隙間から零れ落ちる髪は白だと分かる。足元に鞄と、転寝をする念子が3匹。青年は何やら黒い棒状の楽器を口へ加えて息を吹き込んでいた。
先ほどから聞こえてきた音楽は、その青年が奏でていたものらしい。
「あの〜」
「!」
シャオロンが思わず声をかけると、青年はビクリと肩を飛び上がらせた。その拍子にヒュウと外れた音が楽器からして、念子たちも飛び起きる。
「あ、すんません……」
「い、いえ、ごめんなさい」
シャオロンの存在に気づくと、青年はフードに顔を隠したまま手早く楽器を鞄へ押し込めると、起きた念子たちと共にどこかへ駆けて行ってしまった。
「なんや、今の悪魔……」
一人残されたシャオロンは、しかしこみ上げる眠気に勝てずクアリと欠伸を溢した。
今日も今日とて、『我々師団』は実績作りの活動のため、ロボロを中心に作成した許可申請書を片手に、食堂の一角へ机と椅子を並べていた。
「よお、精が出ているなぁ!」
「お疲れさまです、我々師団のみなさん」
そこへやってきたのは、日常師団のペイントとシニガミュだ。丁度食事を終えたところだったのか、手には空になった食器の載ったトレイを持っている。
「兄さん!」
「ロボロ、聞いているぜ、我々師団の公認化のためにいろいろ頑張っているらしいじゃん!」
兄貴分から手放しに褒められて、ロボロは『天』の文字下で照れたように笑った。
「大変ですねぇ〜、非公認の師団は」
ケラケラと笑うシニガミュに、ムッと眉を顰めたのはトントンだ。
「そういうそちらさんは、どうなんですか? 『学園を面白おかしく』なんて活動内容で」
「え? うちはちゃんと生徒会公認ですよ?」
シニガミュの言葉に、シャオロンたちの動きが一瞬止まった。
「ええ〜〜!!!」
食堂が揺れるほどの大声を出し、シャオロンやウツは机を勢いよく叩く。「非公認なんて、うちくらいやろ」と一人冷静なロボロが呟いたが、それを聞く同輩はいない。グイグイと血の気の多い1年に詰め寄られ、背中からはシニガミュに押されて、ペイントは目を回してしまいそうだ。さすがに見かねて、ロボロがその腕力でシャオロンたちを引き剥がす。
「しかし、確かに冷静に考えると、よくそんなバカげた活動内容で申請が通りましたよね」
「ああ……まぁ、そこんとこは他のメンバーのおかげかな。書類作成とか、俺やシニーくんよりずっと得意だし」
「他って、トラゾーさんでしたっけ?」
「そ。それと、ウチのリーダーね」
「ウチのリーダー、メンバー内では一番優等生ですからね〜。生徒会から深く突っ込まれなかったの、あの人の日頃の行いのお陰もあるんじゃないですか?」
自分やペイントが申請書を持っていったら、こうもすんなり申請は通らなかったかもしれない、とシニガミュは笑う。
「日常師団のリーダーって、ペイントさんじゃなかったんすか?」
「俺はリーダーなんて柄じゃないよ」
「そうそう。ペイントさんは声がおっきいだけですからね」
クスクス笑うシニガミュに、ペイントは「このやろう」と小さく毒づいた。
「日常師団のリーダーって、どんな人なんや?」
「そうですねぇ……まぁ、マイペースなところはありますけど、何でもそつなくこなすし、下ネタは言わないし……日常師団の聖域(サンクチュアリ)的な?」
「悪魔で聖域(サンクチュアリ)って、すごいのかよく分からんな……」
シャオロンの脳内で、天使の羽根と悪魔の羽根を揃えたシルエットが浮かぶ。
「へぇ、俺も会ったことなかったすね。後学のためにも、一度お会いしてみたいですわ」
「あ〜……あの人、神出鬼没なところあるから……」
言葉を濁すペイントの隣で、シニガミュは何かを思いついたように、ニヤリと笑った。
「良いんじゃないですか?」
「ちょっとシニーくん、本悪魔の許可もとらず勝手に……」
「ちゃんと許可とりますよ。けど、ただ紹介するんじゃ面白くない」
「何を考えているんです、姉さん?」
シニガミュのニヤリとした笑みに、ロボロの口元も引きつる。
「今から一週間で、是非ともうちの師団のリーダーの正体を突き止めてください。見事正体を暴いて捕まえることができたら、僕とペイントさんが我々師団さんの活動に一度だけ協力しますよ」
「ちょ、ちょっとシニーくん!?」
それはペイントにも許可をとるべき事案なのではないか。そう抗議するペイントなど無視して、シニガミュは、それはそれは愉しそうな笑顔でシャオロンたちを見やる。
「姉さん、それは兄さんが不憫では……」
「面白そうやん。『何でもそつなくこなす優等生』については気になるし、暇潰しにはなるやろ」
ニヤリとシャオロンが言うと、ロボロは呆れた様子だったが、シニガミュとペイントの手を借りられる機会があるのは大きいとトントンも乗り気だ。ゾムは楽しそうな遊びにワクワクしており、こっそり場を離れようとしていたウツは、シャオロンに首根っこを掴まれて逃走失敗していた。
「その挑戦、受けて立つぜ!」
シャオロンの高らかな宣言で、ここに一つのゲームが開幕した。