泉神とバルバトス
「やっと、捕まえた」
蔦で縛り上げた悪魔を見上げ、額に青筋を浮かべた泉神は腕を組んだ。巻角と尾、特有の羽根を持った悪魔は、その全てと四肢を太い蔦に絡めとられ、ヒクリと引き攣った笑みを浮かべた。
「やだなー、女神さん、そんなに怒っちゃってー」
「女神じゃないし、怒って当たり前だ!」
毎日毎日、大岩や蛇や蛙や、果てはゴミまで住処である泉に放りこんで、悪戯にもほどがある。いつも逃げられてばかりだったが、本日やっと罠を張って捕えることができたのだ。しっかりお灸を据えてやると吐き捨て、泉神は指を鳴らした。
「な、なに?ひぃ!」
すると別の蔦が伸びてきて、悪魔のベルトとズボン、下着を取り去った。咄嗟に膝を合わせようとするも、蔦に引っ張られて叶わない。そのまま悪魔は腰を折り、股の間を泉神へ晒すような恰好になった。
「ちょ、ちょっと!俺、淫魔じゃないって!」
「うるせー。だったら淫魔にしてやるよ」
くい、と人差し指を曲げ、泉神は口元を歪めた。伸びてきた蔦が一本、悪魔の尻の窄みから性器の裏側へかけてベロリと舐めるように動く。ひ、と喉を引き攣らせた悪魔が慌てて視線を落とすと、ぐっぱりと花のように開いた蔦が、ヒダだらけの内側をこちらに見せていた。ヌルヌルと粘液に塗れたそれで撫でられたのだ。また股座へ潜りこむそれに、ゾワゾワと背筋が震えた。
「ひ、ぐぅぅ!」
今度はすっぽりと、性器の付け根、会陰を包まれる。体内のような温もりはなく、冷たさに鳥肌が立つ。身体の芯に走る甘い電流に、悪魔はギュッと目を閉じた。
「……良い顔するじゃん」
本当に悪魔なんじゃないの―――そんな泉神の揶揄さえ、悪魔の耳には入らない。四肢を封じるものよりも細い幾つかの蔓が、耳朶から穴の中までをくちゅくちゅと弄っていた。悪魔の口は開きっ放しで、ダラダラと涎が零れては服や蔦を濡らしている。蔦を操作して泉に半身をつける自分のところへ悪魔を引き寄せ、泉神はテラテラとする唇を指で拭った。既に瞳は溶けかけており、悪魔は覚束ない口を必死に動かした。
「も、や……下のやつ、とってぇ……」
「何で?気持ち良さそうなのに」
「ひ、あ」
ヒダ付きの触手からはみ出している性器の先端へ爪を立てると、悪魔は身体を反らした。上向いた拍子に太い蔦が口へ入りこみ、そのまま喉まで犯し始めた。
「あ、ごご、があ!―――!」
瞬間、悪魔は息を飲んだ。身体が引っ張られ、泉の中へと押しこまれたのだ。曲りなりにも神の住まう泉だ、その水は清められており悪魔には毒。じゅわわっ、と爛れこそしなかったものの、軽い火傷のような痛みが半身と腕に走る。上半身を水面に出した状態で、背後から泉神に抱きこまれ、悪魔は短く息を吐いた。泉神は喉仏から顎へかけて優しく手を這わせ、柔らかく微笑んだ。
「赤くなっちゃったね」
蔦から開放された左腕を持ち上げ、手の甲へ唇を落とす。赤くなった箇所を辿るように、舌で腕を撫でていく。口からも蔦が出て行き、やっと自由にできるようになった呼吸に気を取られ、悪魔は何も言い返すことができない。はくはくと動く口端にキスをして、泉神は喉を撫でていた手をそっと下へ持って行く。肌蹴た胸を辿り、まだ触手に弄られている性器を一撫でして、臀部の方へ。泉神の手を追うように伸びた蔦が、そこにあった窄まりをこじあけた。
「―――あが!」
ぼんやりとしていた目を見開いて、悪魔は大きく仰け反った。逃げようとする身体を蔦と一緒に押さえつけ、泉神は人差し指と親指で孔を広げた。泉の水が、大きく開かれた孔から体内へ入って行く。焼けるような痛みが粘膜を刺激した。
「内側から浄化してやるよ」
脇に腕を通して抱きこみ、暴れる身体を泉へ押しこむ。悪魔の大きく見開いた目から雫が零れるが、それはすぐに泉の飛沫と混じって分からなくなる。肩までザブンと浸った悪魔は、全身に走る痛みに身体を硬直させた。泉神は悪魔の身体を強く抱きこみ、先ほどからはち切れそうだった猛りを蔦が開いた孔へと打ちこんだ。
「あ、あああ、ああが!」
逃れるように腕が宙を掻く。しかしそれが掴むものはなく、蔦がしゅるしゅると巻き付いた。ガツガツと泉神が腰を打ち付けるたび、水面が揺れ悪魔の顔に水しぶきがかかる。涎も涙も水も混ざりあい、悪魔は全身びっしょりと濡れた。僅かに塩辛い悪魔の頬を舌で何度も拭い、泉神は自身の口端をペロリと舐めた。
「……続きはなかでたっぷりしてあげる」
「あ、ああ!や……いや、あ、……あ!」
悪魔の頬を愛おし気に撫で、泉神は泉の中へ悪魔を引きずりこむ。助けを請うように伸ばされた手に指を絡めたのは泉神で、彼は悪魔の口へ己のそれを深く合わせた。
ちゃぽん、と存外静かなに波打って、二人の姿は泉の中へ。辺りは何事もなかったように静寂に包まれていった。
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「見えない臓器の名前は」
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