神父と戦天使
「意味わかんない……!」
白い光がステンドグラスを通り、鮮やかな模様を落とす教会。人気のないそこの中央の道で、ふるふると晒した白い肩を振るわせ、天使はキッと目前に立つ男を睨み上げた。
「こンのクソ神父!!」
「んん〜。悪い口だな」
パン、と指で拳銃を打ち真似をし、神父はパチンと片目を瞑った。必死でポーズを保っているが、その口元は微妙に引き攣っているし、服の下には冷や汗がびっしりと浮かんでいる。
祭壇前の階段に立つ彼の向いで、白い大きな翼と桃色の小さな翼を持つ天使は、下唇を噛みしめた。ステンドグラスは丁度、天使の足元で模様の一つを落としている。神父に怒りを見せるものの、天使は足を肩幅に開き腕を脇に垂らした姿勢のまま、指一つ動かす気配がない。否、動かせないのである。
天使が素足で踏むステンドグラスに混じって、青いラメの線が模様を描いている。神父がこの教会を守るために張った結界だ。それが何故か今、たまたまこの教会を訪れた戦天使を捕えてしまっていた。
「しかしこれは本当に魔だけを捕獲する結界の筈……まさか正体はデビル?!」
「なんでだ!」
正真正銘の戦天使だと、天使は叫ぶ。しかし閃いたとばかりに頭へ手をやる神父は、天使の言い分を聞いていない様だ。噛みつくような天使に向けて手の平を伸ばし、神父は聖書のように分厚い本を開いた。
「ちょっと、何を、」
開いたページが薄く発光したのを見て慌てた天使は、次の瞬間「んっ!」と息を詰めた。ぞわぞわと足元から頭上へ向けて、何かが昇り上がる感覚。せめてもの防御として筋肉に入れていた力が、ひとりでに解れてしまう。結界によって固定されていなければ、とっくに崩れ落ちていただろう。
「力を奪わせてもらったぞ」
膝を震わせる天使の様子を満足げに見つめ、神父は更にページを捲る。天使はフルリと身体を震わせ、熱い息を吐いた。神父が発光したページに手を置くと、光が手の平へ移った。彼はそのまま光を押し付けるように天使の腹部へ触れる。フォン、と光は天使の身体の中へと吸いこまれていった。途端、天使はゾクゾクと更に身体を揺らし、喉を仰け反らせた。
「んぅ!!」
「ん〜?」
頬を赤らめビクビクと痙攣する天使に首を傾げ、神父はそっと歩み寄るとその細い肩へ手を伸ばした。皮膚の厚い手が触れると、「んぁ!」と甘い声をあげ、天使は目を瞑る。顔を上気させて熱い息を吐く様子に、さすがの神父も顔を顰めた。
「どうかしたのか?」
「……こっちが聞きたい。何したの」
ジロリと神父を睨む目には、薄らと水の幕が張っている。潤んだ瞳に赤い頬、そして桜色の唇から零れる吐息に、神父はゴクリと唾を飲みこんだ。
「魔力の源を封じたんだが……」
本を椅子に置き、今度は両手で天使に触れる。「ん、ん」と断続的な声を漏らすも、結界の効果で天使は動けない。恨めし気な涙目を放って、神父は天使の脇から胸、腰、臀部と揉みこむように手を動かしていく。神父が天使の背に括りつけられていた剣を取って遠くに放ったので、身体検査だったのかと天使は少しほっとしたが、まだ続く神父の手の動きに声が上がりそうになる。
「……本当に、天使なのか?夢魔の類じゃないのか?」
時折唇から漏れる甘い声。神父は手を止めずに、そっと耳へ口を寄せた。ピクリと肩を揺らし、天使は「当たり、前、だ」と神父を睨み上げた。ふうんと頷いて、神父は天使の太腿を指でなぞった。
「んあ!」
「しかし天使にしてはいやに淫らだな」
「そ、れは!アンタが、変な術を使うから……!」
「ほお……」
目を細め、神父は太腿をなぞる指を短い服の裾から中へ進める。天使の制止も聞かず、神父の指は天使の中心へ辿りついた。布を巻いて保護していたそこは、軽く硬度をもち、僅かに湿っていた。
「……感じているのか」
カッと天使は恥ずかし気に頬を染めて、顔を背ける。神父は口に溜った唾を飲みこみ、手を伸ばして天使の身体を包む布を全て取り去った。
「な!?」
「おお……」
思わず感嘆の声が零れる。全身薄らと汗ばみ、淡く色付いている。先ほど神父が触れた下腹部には、蔦でできたハートのような紋様が浮き出ていた。魔封じの紋とは、このような形をしているのか。白い肌に良く映えている、と神父が見惚れていると、涙の浮かんだ目を吊り上げ、天使が睨みつけた。
「ふっざけんな、このクソ神父!」
「……生意気なその口も封じておくか」
神父は手を伸ばし、また本のページを捲る。開いたのは、呪術詠唱封印の術が示された箇所だ。発光したそこを指で突き、その指で天使の唇に触れた。
「かわいい声だけ聴かせてくれ」
「―――あ、」
淡い光が、天使の口へと吸いこまれていく。ふざけるな、と叫びかけた天使は、いくら口を動かしても言葉がでないと気づき、顔を青くした。神父はニヤリと笑い、天使の裸体へ再び手を伸ばす。
「ああん!!」
制止や罵倒の言葉はでないのに、淫らな声ばかりが零れ落ちる。天使はボッと顔を赤らめ、下唇を噛みしめた。神父は口に浮かべた笑みを崩さぬまま、天使の身体を抱きこむように寄せると、彼の足の間に自分の足を差し入れた。膝で局部を刺激しながら、臀部とその窄み、翼の付け根を強く指で揉んでいく。こらえきれずに唇から漏れる声を耳で受けながら、神父は益々笑みを深くした。
「淫乱だな。天の使いが聞いて呆れる」
「……ん、あ、ぁあ、あ!」
抗議するように声が強まったが、言葉を奪われた天使には明確に否定することはできない。天使の芯を裏側から擦り上げて、神父は翼の付け根を引っ掻いた。「ひぁ!」一層上擦った声が上がり、神父は身体の芯にゾクリとした衝撃が走ったのを感じた。ドドドドと心の臓が逸り、熱い息が零れ落ちる。しっ、と音を立てて歯を噛みしめ、神父は一番長い中指を臀部の窄みへ突きたてた。
「―――っか!」
舌を突き出し、天使は喘ぐ。強張った身体を撫で、神父は「……淫乱」と天使の耳元で囁いた。震える耳朶を噛むと、更に身体が強張る。天使の下腹部で紋が光り、きゅぅ、とそこが疼いた。ぞわぞわと、羽根で全身を擽られるような、痒みよりも強い何かが湧き上がる。これが感じているということか、このような不遜な人間に。恥と情けなさと悔しさがこみ上げ、天使の目に涙が浮かんだ。
「気持ち良さそうだな」
「んんぅ……!」
「違うって?そんなわけないだろ」
こんなにも濡れている、と神父は窄まりに突き立てた指を乱暴にかき混ぜた。ぐちゃぐちゃと粘着質な音が教会に響きく。
「ひぁ、ああ!」
そんなわけない、と天使は目を瞠った。ダラダラと芯から垂れた先走りが太腿を伝い、床へ落ちていく。その感覚に鳥肌が立った。「ほら」と神父はびっしょりと濡れた指を持ち上げ、天使の口へ突っ込んだ。青い臭いが鼻へ抜け、天使は嘔吐感に襲われた。
「分かるか?お前の味だ」
口から取り出した涎塗れの指で天使の顎を掴み、神父はその視線を下へと向けさせる。黒いカソックに擦りつけられ、性器と布地の間にテラテラと光る糸が引いている。神聖さを示すカソックにたっぷりと付着した粘液に、天使の頭は失神寸前だった。
違う違うと心の中で言い聞かせても、目に見得る証拠を突きつけられ、言葉も奪われては何もできない。思考が止まっていくのが、ゆっくりだが天使には自覚できた。下腹部の紋様が毒々しい桃色に光り、少しずつ腰を囲むように蔦を伸ばしていった。ただの魔封じの紋様でなかったのだと神父はやっとそこで気づき、しかし湧きあがる衝動を抑える気もなく、天使の耳元へキスを落とした。
「……溶けてしまいそうだな」
トロトロとした瞳に舌舐めずりをして、神父は目尻に唇を落とす。ひくりと震える睫毛を食んで、神父は近くの長椅子に腰を下ろすと、薄い布を敷いただけの木のそこへ天使の身体を横たえた。既に結界は解けていたのだが、顔を真っ赤にした天使は逃げる素振りを見せない。くたりとした天使を閉じ込めるように腕をついて覆いかぶさり、神父は熱い息を吐いた。
「……こんなにいやらしいのに天使なんてな……」
「あ、ん!」
立ち上がった胸の芽を指で弾く。口元を掻くように動く指に、エロいな、と思わず俗的な言葉が漏れてしまう。膝裏へ手を差し入れ、神父は肩に天使の脚を持ち上げると、ズボンの前を寛げた。ぼんやりとしていた天使は、窄まりの入口に神父の先が触れたことで、大きな目を丸くした。
「やぁ、―――ああ!!」
それは制止だったのだろうか、しかし神父には関係がない。差し伸ばされた腕を掴んで身体を引き寄せ、がつん、と奥まで禊を叩きこんだ。か、と天使の口から空気が溢れる。腕を引いたことで少し上体が持ちあがり、背が撓って羽根が辺りに散らばる。腰をダイレクトに刺す快感に、神父も背を反らした。
「……っはぁ、吸いついてくるな。お前、本当は淫魔なんじゃないのか?」
「ああ!ひ、ぃ、あ、ああ、ん!」
神父の膝に乗せられ、体内を突き上げる角度が変わる。丁度紋様の裏側を押し潰すような動きに、天使は涎まみれの口を噛みしめながら喘いだ。トロリと桃色の光を孕んだ瞳に初めのような鋭さはなく、神父はもう良いだろうと指を鳴らした。ぱしゅ、と音がして、天使の喉にかけられていた術が解ける。
「気持ちいいか?」
「ああ!ひ、あ!きも、ちいい?!」
「気持ちいいんだろ?お前は、こうされる、と!」
「ひああ!」
両手首を掴み思い切り下へ引かれると、真上を向いていた神父の猛りが一層深く天使の中へ沈みこむ。天使は喉を晒し、舌を突き出して震えた。腰に跡がつくほど指を食いこませ、もう片方の手を羽根の付け根に伸ばし、神父は腰を動かした。羽根の付け根を弄ると、天使は悲鳴に近い声を上げる。神父は耳朶を食みながら、「ここが良いのか」と囁いた。天使はもう訳が分からなくなって、コクコクと首を上下に揺らした。そうか、と呟き、神父は小さな羽根と皮膚を剥がすように、境目に爪を立てた。ひい、と天使は泣いたが、神父はカリカリと引っ掻く爪を止めず、腰の動きを更に速めた。天使はひっきりなしに喘ぎ、それに呼応するように紋様は光を強める。振り落とされてしまいそうな乱暴さに、天使は思わず神父の背中に爪を立ててしがみ付いた。
「〜〜ああ!!」
天使は一際大きく喘いで身体を一瞬硬直させると、そのままクタリと後ろへ倒れこんだ。彼の声と共に精を吐き出した神父は大きく息を吐き、天使の腹に広がる白い水溜りをぼんやりと見下ろした。天使も精を吐き、そのあまりに強い快感で気絶してしまったようだった。腹に浮かぶ紋様は淡い桃色の光を発しながら、まだ確かにそこにある。紋様をなぞると、糸を引いた白い粘液が指についた。その手で天使の頬を撫で、神父は深い笑みを溢す。
「美しいな」
とろとろとした桃色の瞳はそんな神父の笑みを映し、嬉しそうに弧を描いた。