mio angel(2)
おそ松は不機嫌だった。彼の可愛い弟の一人であるトド松が、昨日の夜から行方不明なのだ。彼も成人した男だ。一夜くらい家に帰らないなら、悦ばしいことがあったかもしれないと想像し、祝うべきかもしれない。だが、童貞暦と年齢が同じ三つ子である。一人だけ抜け駆けされたら、面白くない。
フリーターであるおそ松と違い、常勤講師の一松は今日も仕事場へ向かっている。このまま一人末弟の帰りを待とうかとも思ったが、好い加減耐え兼ねておそ松は外出することに決めた。
と言っても、気分を晴らすために使える資金は少ない。給料日は三日後で、おそ松の取り分として分け与えられている小遣いは、そんなに余裕がなかったからだ。さてどうしたものかとぼんやり考えながら、おそ松はトド松の仕事先であるバーの近くまで足を運んだ。
夜の街という呼び名通り、昼間から開店している店はない。伴って人影も少なく、おそ松は煙草をとりだして口に加えた。残り三四本といったところか。あとで購入しておこう。
火をつけて煙を吐き、おそ松は進行方向へ視線を上げる。少し先へ行けば、確かゲームセンターがあった筈だ。この時間なら、開いているだろう。そう考えたおそ松を、背後から呼び止める声がした。
「すみません」
足を止めて振り返ると、緑のワイシャツにスーツを合わせた、見るからに神経質そうな男が立っている。男はおそ松をジロリと見回し、目を細めた。
「君が、おそ松くん?」
「……おそ松ですけど。おにーさん誰?」
ポケットに手を入れて振り返り、おそ松も男を観察する。見覚えのない顔だ。だが佇まいから、普通の一般人でないことはおそ松にも解る。
これでも、学生時代は相当やんちゃをしていたおそ松だ。その手の輩は見慣れていた。今更、そのときの恨みを晴らしに来たのだろうか。まさか、末弟の件にも絡んでいるのでは。そこまで思い至って、おそ松はジロリと男を睨んだ。
おそ松の睨みをサラリと流し、男は一人納得したように顎を撫でた。片手を腰に当て、男は少し離れたところへ停めた車を親指でさす。
「ちょっと来てほしいところがあるんだけど」
「なになに?デート?」
積極的だなぁ、とおちゃらければ、男は眉を顰め「それでもよい」と投げやりに言葉を返す。おそ松はニヤニヤと笑ったまま、人さし指と親指で輪を作った。
「俺、高いよ?」
「言い値でいいよ。……弟さんの分もまとめて払うから」
「……まじで〜?お兄さん、太っ腹〜」
男はサッサと踵を返し、車へ向かって行く。おそ松はその背中へ向けて、こっそり唾を吐いた。
黒塗りの、映画やドラマでは定番の車だ。男の神経質さを裏付けるように、傷一つなく磨きあげられている。窓には何か貼られているらしく、車内が覗けない。これで仲間の待つところへ連れて行き、袋叩きにでもするつもりだろうか。
煙草を携帯灰皿で潰したおそ松を、男は顎で後部座席に座るよう指示する。男はおそ松が乗るまで動く気はないようで、じっと腕を組んで立っている。おそ松は素直に後部座席へと滑りこんだ。革張りの座席は柔らかいが滑りやすく、おそ松は少し浅めに腰を据えた。
扉を閉めてから何気なく、前部座席へ視線をやる。前部座席と後部座席の間に、透明な何かが壁を作っていた。眉を顰めておそ松が触れると、それはプラ板のようなもののようだった。
何のために、とおそ松が呟いたと同時に、後部座席の窓が開いた。ハッとしてそちらを見やると、男が手を突っ込み、何かを投げ込んだ。咄嗟に反対側の扉へ寄り窓か扉を開けようとするが、ロックでもかかっているのかうんともすんとも言わない。開いていた窓は再び閉まり、投げ込まれたものが座席の上を転がる。
スプレー缶のようなそれは座席の窪みで止まり、パカリと左右に伸びる。その隙間から、シューと音を立てて何かが噴射された。
咄嗟に口と鼻を袖口で覆い、おそ松はできるだけ身を小さくする。そんな彼を気にせず、男はプラスチックの板の向こう側で運転席に座ると、何事もないようにサイドレバーへ手をかけた。
目に異常はないから、催涙弾ではない。しかしおそ松にはそれ以上の薬の知識はない。どん、と運転席を蹴り上げるが、板に阻まれ男の身体を揺らすことはできなかった。
「くっそ……、ふざけんな……っ!」
めげずにガンガンと蹴り続けるが、男は一瞥すらくれない。やがて袖の隙間から入り込んだ薬を吸いこんでしまい、おそ松の手足から力が抜ける。どさり、とおそ松の身体は革張りの座席に沈んだ。
バックミラーでそれを確認した男は、吐息を漏らしてハンドルを切った。
二日酔いのような頭の痛みで、おそ松は目を覚ました。肌を撫でるシーツは家で使用している安物とは違って、滑らかだ。ぼんやりとシーツの皺を眺めていたおそ松は、寝返りをうとうとして、身体の自由が封じられていることに気づく。
「んんぅ?!」
腕を持ち上げようとすると、両手首のベルトについた鎖が鳴り、その先にある両足首のベルトが引っ張られる。口の中には丸めた布が詰め込まれ、それが零れ落ちないよう細いバンドで止められていた。
そして何より、シーツの感触がダイレクトに肌に伝わる。それはおそ松が、衣服を何も纏っていないからだ。カッと頬が熱くなり、おそ松は胎児のように身体を丸めた。
こんなことをしたのは、十中八九あの緑のワイシャツを着た男だろう。何の恨みがあってこんなことを。と、おそ松がそこまで考えたところで、扉の開く音がした。
大人が二三人乗れるだろうベッドは、四方をレースのカーテンで囲まれているため、部屋の様子は解らない。照明の揺れと足音、それと話し声で、二人の男が部屋にやってきたのだと解った。カーテンを開けて顔を覗かせたのは、おそ松の予想通りの男と、彼と瓜二つの顔をした青いワイシャツを着た男だった。
「コイツがミア・アンジェロの兄か」
「そうだよ。……てか、好い加減その呼び方止めろよ。俺の天使とか、聞いてるだけで気持ち悪いわ」
緑の男は盛大に顔を顰め、上機嫌そうにベッドへ乗り上げる青い男を見やる。おそ松は見下ろすように片膝を立てて座る青い男を睨み上げた。青い男は口元で弧を描き、おそ松の頬へ親指を滑らせた。
「さすが三つ子。愛らしい顔までそっくりだ」
「見境なしか、カラ松」
「俺を何だと思ってるんだ、チョロ松。俺は一途な男さ」
パッと手を離し、青い男は前髪をかき上げた。彼にチョロ松と呼ばれた男はいつの間にかスーツのジャケットを脱いでおり、襟元をくつろげながらベッドに乗り上げた。それからおそ松の顔を枕へ押し付け、口を閉じていたバンドを外す。口内の布も吐き出させ、涎塗れのそれを指で摘まんで遠くへ放り、チョロ松はワイシャツの袖を巻くった。
「手前ら、何のつもりだ」
やっと自由になった口を動かし、おそ松はギラリとチョロ松たちを睨み上げた。青い男が呼ばれていたカラ松という名は、トド松から聞いていた彼の店の客のそれだ。まさか、という考えが胸中に浮かぶ。
「まさかトド松まで攫ったのか」
「攫ったとは人聞きが悪い。トド松は俺の恋人だ。招待しただけだ」
「恋人……?トド松からそんな話は聞いてねぇ。とんだ勘違い野郎だな」
「否定できないね。こいつ、サイコパスたから」
何を言っているんだと少々不満げなカラ松を、チョロ松は呆れて吐息を溢した。
チョロ松はおそ松へ手を伸ばし、頬へ指を滑らせる。冷え性なのか、冷たい指先におそ松は目を眇めた。
「ま、そんなサイコパスでも実の兄だかね。できれば希望は叶えてあげたいんだ」
「……それが俺をこうすることと、何の関係があんだよ」
「君は、トド松の兄なんだろ?」
チョロ松が立膝になり、おそ松へ近づく。彼が身体を動かしたことで、その後ろにあったものが、おそ松の視界に飛び込んできた。波打つシーツの合間に並べられた、生々しい道具。そういった知識は豊富なおそ松には、何に使用するものか解り、サッと血の気が引いた。
「その反応、トド松にそっくりだ」なんて言いながらベッドを降りていくカラ松のことなど、頭の片隅に追いやられてしまうほど、衝撃が大きい。
「何事にもまずは外堀を埋めてから……拠り所を取りこんでしまえば、トド松は何の不安もなく、カラ松に甘えられるだろ?」
おそ松を仰向けに転がし、チョロ松は腹へ膝を乗せる。手首と足首が鎖で繋がれているため、おそ松は股を開くような体勢になってしまい、慌てて両の膝を擦り合わせた。
「!このやろ、んぐ!」
「そろそろ黙って」
噛みつくように開いたおそ松の口を片手で覆って、チョロ松は確かに恐怖を宿した瞳に笑みを浮かべた。
「まあ安心してよ。それだけで終わらせる気は、ないからさ」
おそ松はゴクリ、と唾を飲みこんだ。チョロ松はおそ松の足元へ回った。
「僕、カラ松ほど気が長くないし、そんなに体力もないんだ。汚いものも嫌い」
だからこれに任せると言って、チョロ松はおそ松へ男根を模したバイブを見せた。AVで見るより太く、突起とパールで飾られている。口を覆っていた手で膝を割り開き、チョロ松はバイブの先端を孔の入口に添える。慌てて、おそ松は足を振り回した。
「やめろ!くそ!」
チョロ松は舌打ちし、片足を掴むと抵抗を無視してバイブを突き刺した。
「―――あぁ……!」
ひく、と喉を晒し、爪先までピンと伸ばす。やっと大人しくなったおそ松に満足したのか、チョロ松は動かなくなった足から手を離すと、シーツに並べていたものの中からボトルと黒い機械をとり上げた。ペットボトルのように口が窄まったボトルの蓋を開け、チョロ松はおそ松の腰を持ち上げる。
「やめ、やめろ!」
肛門を晒す恰好に顔が熱くなり、おそ松は手足をばたつかせた。チョロ松は目を細め、ボトルを持っていない方の手で機械を掴み、おそ松の腰にそれを押し付け、ボタンを押した。
「あ、がっ!!」
バチ、と電気が走り、おそ松の身体は痺れる。ぱたりと脱力した手足が、シーツとチョロ松の肩に落ちた。
「暴れる度にするから」
呆然とするおそ松にしっかり見得るよう、スタンガンを突きつけ、チョロ松は電気を一度流す。先ほどの痛みが甦り、おそ松は悔しさに顔を歪める。
大人しくなったおそ松に満足し、チョロ松はスタンガンを置くと、ボトルの液体を後孔の入口に垂らした。粘性の液体を入口とバイブにたっぷりと絡め、半分も入っていなかったバイブを更に押しこむ。
「―――っがぁ!」
無理矢理暴かれる感覚に、おそ松は言葉を失う。チョロ松は少しバイブを移動させ、不意にボタンを押した。途端、根元まで埋め込まれたバイブが、音を立てて動き始める。下腹部を掻きまわされ、おそ松は身体を突っ張らせた。頼るものもなく宙を掻く爪先が、真っ直ぐ伸びる。アキレス腱から爪先まで指で撫で、チョロ松は口元を緩めた。
「簡単に壊れるなよ、おそ松」
「は、ぐぅぅぅあ!」
M字に開脚したおそ松は、バイブを挟んだ後孔をチョロ松に晒していた。チョロ松は彼に指一本触れることなく、少し離れたベッドヘッドに枕と共に凭れて何かの書類を眺めている。その余裕そうな態度に苛立ちを覚えるが、拘束されている手足を振り回してみたところで先ほどのようにスタンガンが飛んでくるだけだ。
何とかしてここを抜け出さなければならない。きっと、この建物のどこかにトド松もいる筈だ。早く見つけて連れ帰らないと。彼は、兄弟の中でも一番の寂しがり屋なのだから。
「ぅ、ぐ、あぁ……」
バイブの動きは一定だ。塗られたのは温感ローションだったのか少々臀部が熱くムズムズとするが、時間をおけば慣れてくる。こっそりチョロ松を一瞥すると、彼はまだ書類に夢中だ。
おそ松はゆっくりと身体を動かし、チョロ松へ背を向けるように寝返りをうった。まるで、快感で身体が動いてしまったように。それから更に身体を丸め、手を足首へ触れさせる。そっとベルトへ指を這わせたとき、バイブの動きが変化した。
「あがあああああ!!」
次いで先ほどよりも強い電流が背中に走り、おそ松は苦痛に呻いてシーツを掴んだ。麻痺する身体へ更に追い打ちをかけるように、強さを増した振動が腸管を抉る。ベッドが少し沈み、ベッドヘッドに凭れていたチョロ松が、すぐ側で手をついたことを知らせた。
「あんまり手間をかけさせるなよ」
「ひぐぅ!」
ぐりぐりと、電源を切ったスタンガンで、チョロ松はおそ松の後孔からはみ出しているバイブを押しこむ。ぐりぃ、とバイブについたパールが入口付近を抉り、先端が前立腺を押し潰す。過ぎる快感を逃そうとシーツを掻くが、スタンガンのせいで麻痺した指には力が入らない。はくはく、と口を開閉し、おそ松は目を見開いた。
ぴくぴくと痙攣するおそ松は、チョロ松に仰向けに転がされる。バイブは最大出力のまま、彼の腸管を抉り続けていた。おそ松の腹の横へ手をつき、チョロ松はスタンガンを下腹部へ添える。ヒクリ、と怯えたようにおそ松の身体が引き攣った。
「……お前は快楽より、痛みを与えた方がいいのかな」
スタンガンで痛みを与えつつバイブで前立腺を抉り、痛みと快楽を繋げる。そうすれば、このじゃじゃ馬は、自分に屈服するだろうか。
「お前ら……一体……っ」
「何者かって?」
ペロリと唇を舐め、チョロ松はおそ松の指へキスを落とした。キッと睨みつける瞳に笑みを溢し、チョロ松はバイブへ指を添える。
「単なるイタリアンマフィアだよ」
スタンガンの電源を入れると同時に、バイブへ添える指先へ力を込めた。
「うぁ……ひぐ……」
枕に顔を押し付け、トド松は腰から背筋へ駆けのぼる快感に喉を振るわせていた。部屋に彼以外の人影はない。何も身に着けていないが、少しつき上がった臀部の孔からは丸まった突起が二本伸びており、うち片方は会陰に添えられていた。エネマグラと、カラ松は呼んでいた。
あれから一晩経った。昨夜は、散々身体を弄られた挙句、性器を強く握られて達した。
その後風呂に入れられて、たっぷりの泡で擽るように肌を撫でられ、また快感を拾ってしまった。滑らかで弾力のある泡で脇や胸、股間を撫でられると、射精を感じたばかりの身体は、嫌でも反応してしまう。ふるりと震えるトド松の性器を見て、カラ松は「欲張りなアンジェロだ」とこめかみにキスを落とした。その度に思いっきり腹へ一発くれてやりたくなったが、ビクビクと震える身体にそんな力は入らず、トド松は強く唇を噛みしてやり過ごした。スポンジで念入りに洗われ、トド松の精液は泡と一緒に排水溝へ流れて行った。
文字通り身体の隅々まで綺麗にされたトド松は、寝間着など与えられず素裸のまま、シーツに包まれた。カラ松も同じように服を脱ぎ捨て、トド松を抱きしめて眠りについていた。空調が整えられていたので風邪を引く恐れはなかったが、別の意味での悪寒が止まらず、トド松は熟睡することができなかった。
カラ松より遅く目を覚ましたトド松を待っていたのは、彼の用意した朝食だった。すっかり胃は空っぽだったが、精神的なことから食欲はない。それでもじっとカラ松が見つめてくるので、トド松は仕方なく無理矢理腹へ収めた。
空になった皿を満足げに見下ろしそれを下げると、カラ松は青いワイシャツとスーツに着替えた。バーに顔を出すとき、いつも着ているものだ。仕事なのだろうかと思いながら眺めていると、その視線に気づいたカラ松が拳銃を打つように指を動かした。
「すまない。どうしても外せない用事ができてしまってな」
予定では、今日一日たっぷり愛し合うつもりだったのだが。そう言われ、トド松は心底ほっとした。しかしベッドに乗り上げてきたカラ松がそっと耳元に寄せた囁きに、己の浅はかさを呪う。
「帰って来るまで、一人で遊んでいてくれ」
そのままシーツに沈められ、抵抗する間もなくローションとエネマグラという器具を後孔に入れられ、肘を曲げた腕をベルトで背中側に拘束された。勝手に性器を弄ってしまわないようにということらしい。
鼻歌でも歌うように意気揚々とカラ松が部屋を出て行ってから、どれくらいの時間が経っただろうか。頭を埋める枕は涎でぐっしょりと濡れ、拘束された腕は痺れて感覚を失っている。何よりも辛いのは、後孔に入れられた道具だ。
孔に埋められた方の先端は、昨夜散々ローターで嬲られた前立腺に当たっている。肛門括約筋に力をこめると、その先端がググッと前立腺を押し上げる。シーツを蹴って背筋を駆けのぼる感覚を逃がそうとするも、更に身体に力が入って道具を締め付けてしまう。
昨夜のように性器自体に何も取りつけられていないのが、唯一の救いか。しかし何度か前立腺を叩かれて射精した後の、生理的な脱力。そのときも道具は休むことなく、外に出た先端が会陰を押し上げる。力を入れれば中から、抜けば外から前立腺を刺激され、休む暇などない。
「うぐっ……ひぃ……」
身体を横に向けると、べちゃりとした水溜りに膝が浸った。ぞわ、と不快感が湧き上がるが、その瞬間エネマグラを締め付けてしまい、上回る快感に喉が引き攣った。
いつまでこうしていればいいのだろう。早く、家に帰りたい。ぼんやりと視界が霞み、目尻が熱くなった。
「待たせたな、ミア・アンジェロ」
不意に伸びてきた指で目元を拭われ、トド松は身体を固くした。気づかないうちに戻ってきていたのか。そのときエネマグラをまた締め付けてしまい、「ひい」とトド松は鳴いた。
トド松を背後から抱きしめるように寝そべり、カラ松はトド松の頭を撫でた。
「ちゃんと一人で遊んでいたみたいだな」
トド松の下腹部辺りにできた精液の水溜りを少し指で掬い、糸を引くそれを満足げに眺める。
「大分、後ろだけでイケるようになったか?」
「ひぁ!しら、ない……!」
精液のついた指で臍の周りを撫でられ、トド松は身体を丸める。カラ松は腹部へ腕を回して抱き寄せ、トド松の項に唇を寄せた。滲む汗を舐めとるような舌の動きに、トド松は震え、肩を竦めた。
「……そういう仕草は兄弟そっくりだな。けど声はトド松の方が甘い」
自分はその方が好みだと囁いて、カラ松はトド松の耳朶を食んだ。甘噛みに肩を揺らしたが、トド松はカラ松の言葉を聞き逃さない。
「なん、で……そんなこと……」
「先ほど、長男に会った」
「!兄さんに、なにか、したのか!?」
背中に貼りつくカラ松を振り払い、トド松はベッドを転がって距離をとる。その際にエネマグラを締め付けてしまうトド松に、しょうがないと言いたげな吐息をこぼし、カラ松は彼の髪に指を差し入れた。
「心配いらない。お前の兄は、チョロ松がしっかりもてなしているところだ」
「もてなす……?」
言葉だけ聞けば何でもないことのようだが、現在進行形で自分にこんなことをする男の言葉は、額面通りに受け取ることができない。
トド松はこみ上げる快感を何とか飲み下し、身体を起した。ベッドに座るとエネマグラが更に腸管の奥へ進み、前立腺を弾いた。ぴくぴくと震えるトド松を、カラ松は片腕で枕を作って寝そべったまま見つめる。
「ぐ……っ兄さんに、会わせろ」
「それは駄目だ」
「なんで……っ」
「チョロ松は邪魔をされるとすごく怒る。それに俺も、この時間を中断したくない」
「!兄さんに何してんだ!!」
噛みつくトド松の肩を押し、カラ松は身体を起す反動で彼をベッドに押し倒した。トド松の股の間に膝をいれ、ぐ、と会陰の辺りを潰す。
「ひぃいいん!」
「昨日も言った筈だ。―――他の男の名を出すなと」
「あ!」
強い力で肩を掴まれ、トド松は呻く。兄弟の話をしているだけで、何故そんな顔をするのだ。笑顔だが怒っていると解る威圧が、トド松の背筋を振るわせた。
カラ松は膝の動きを止めぬまま、トド松の頬を撫で、軽いキスを落とす。
「……チョロ松は、厳しくすることも必要だと言っていたな……」
頬を滑って耳朶に唇をつけ、カラ松は低く呟く。トド松は思わず目を瞑り、顔を隠すようにシーツへ擦り付けた。
「安心しろ、お前に痛みは与えない」
耳にリップ音を流すと同時に、カラ松はエネマグラの持ち手に指をかけ、抜き差しを始めた。既に限界に近かったトド松は、舌を突き出して呻き精を放った。腹に飛んだ薄い精を指で伸ばし、「何回目だ?」とカラ松が訊ねてくる。しかし抜き差しの手は止まらないため、トド松は答えることができない。
「だ、だめ……もう、イキたく、ないっ……!」
「そんなにイッたのか」
何度か空イキしているのではないかと、カラ松がからかうように笑う。カッと頬に血が昇ったが、事実射精せずに達した感覚はあったため、唇を噛みしめた。
カラ松は勢いよくエネマグラを引き抜いた。排泄感にトド松がまた高い声で鳴く。長時間物を埋め込まれていたため、寄る辺を失ってぱくぱくと動く肛門が恥ずかしい。性器は少し頭を持ち上げており、カラ松はピンとその先端を指で弾いた。
ぷるり、と震える桃色を満足げに見下ろし、カラ松は青い宝石のついた銀の輪に性器を通した。根元を強く締め付けるそれは昨夜以上に射精を押し留める。「やだ……」と思わずトド松が呟くと、カラ松は人差し指を唇へ当てて微笑んだ。
「昨日はあまりにも泣くから早々に外したが、次は三日頑張れ」
「無理ぃ……ぁあ!」
「大丈夫だ。俺はここには触らないし、挿れもしない」
カラ松はぴくぴくと震える性器を指で揺らした。トド松の目にじわりと涙が浮かぶ。カラ松は目玉を舐めて、瞼にキスした。柔らかい温もりにトド松は強張った身体を解いた。
次の瞬間、トド松の後孔にエネマグラよりも太い何かが挿入された。
「!んにゃあぁ!」
「お、その声も可愛いな」
パチンと指を鳴らしたカラ松は、トド松の中へ入れたバイブのスイッチを押し、メーターを最強まで引き上げた。
「に、ゃああああああああ!!!!」
エネマグラで敏感になっていた身体はすぐに限界まで追い詰められたが、根元に嵌められたリングが開放を許さない。グルグルと腹から全身に広がる熱は、やがて昨夜よりも強くトド松の頭を支配した。
「や、やらああ、とって、これ、とってぇぇ!!」
「ああ、腕が痺れてきただろうな。ちょっと待て」
「ちが、にゃああ!!」
クルリとうつ伏せにされ、性器がシーツに擦りつけられる。カラ松はトド松を拘束していたベルトを外し、仰向けに転がした。
涎まみれの口をハクハクと動かし、下からの振動に身悶えるトド松を見て、カラ松は熱い吐息を溢した。すぐに気を取りなおして、新しいベルトを両手首に巻く。間を鎖で繋がれたベルトは足首にもつけられ、トド松はくしゃりと顔を歪めてシーツを蹴った。
「やあぁぁ……これ、やぁあ!」
駄々子のように声を上げるトド松の口元を指で拭って、カラ松は掬った涎を綺麗に舐めとる。
「我慢だ、トド松。―――ちゃんと我慢できたら、めいっぱい甘やかしてやる」
耳元で低く呟いて、カラ松は深く深く、トド松と唇を重ねた。