守るモノ

・元ネタが永遠に未完なのが辛い。
・もはや設定だけを拝借したパロ。
・死ネタ表現あり。

結界は、大事なものを守りたいと強く願うことで創り出せる。結界を創成し地球を守る――それが、七つの結界たる天の龍の役目だった。しかし火神はいまだ、結界を創りだせない。
「俺も……結界を作れるのか」
黒子も高尾も黛も、何か大事なもののことを考えて結界を創りだしている。火神だって、守りたいと願う気持ちはある、大事なものはある。しかし力に変えられない未熟さが、自身の足手纏いを自覚させた。
「難しく考えなくていいと思いますよ」
テラスのベンチに座って項垂れる火神の頬を両手で包み、黒子はそっと彼の顔を持ち上げた。
「火神くんは、僕を何度も助けてくれました。天の龍となると決めてくれたときだって、僕や青峰くんたちがいる地球を守りたいからだって、言ってくれたじゃないですか」
黒子の背後から零れた光が、薄氷色の髪をガラスのように輝かせる。その光に眩しさを感じながら、火神はそっと黒子の手を握って、顔からほどいた。
「……けど、その青峰は俺の添え星とか言って、地の龍になっちまったじゃねぇか」
火神が選択した瞬間に豹変し、黒子たちを瀕死まで追い詰めた凶行。あの夜のことを思い出し、火神はグッと歯を噛みしめる。黒子はまだ制服の下、背中に残る傷跡を無意識に指でなぞるように肩へ手をやった。
「……それでも、僕は信じています。楽しみです、君の結界は、どんな形なんでしょうね」
黒子は円柱、高尾は三角錐、黛は五芒星。結界は、創成する者によって形が異なる。それでも、そこに込められた思いは同じ。大事なものを――大切な人たちを、守りたいという、想い。


――だからそれを失った七つの封印がどうなるかなど、考えることも恐ろしい。
黛の結界が崩れた。それを橋の入口で確認した黒子は、高尾と共に足を速めた。結界の内部は酷い荒れようで、壮絶な戦いがあったことを物語っている。大きな鉄橋の真ん中で、今にも海へと落ちそうな足場の中、彼は膝をついていた。腕に、一人の男を抱いて。
「黛、さん……」
黒子は何も言えず、その場に立ち尽くした。
黛は茫然とした顔で、自分の腕が貫通した背中を見下ろす。左目を覆っていた包帯がハラリとほどけて、風に揺られていく。
「なん、で……」
「……樋口さんが、最後にかけていた、術、ですね……」
ゆっくりと息を吐きながら、言葉を紡ぐ。赤司の金と紅の瞳は苦しそうに歪み、腕は無意識にか黛の肩をかき抱いていた。ズルズルと落ちそうな赤司の身体を、黛の腕はしっかりと抱く。赤司はグッと身体を起こし、黛の耳へ口を寄せた。
何かを、囁かれたのだろ。
黛はチクリと針で指を刺されたように目元を歪め、それからスッと目蓋を下ろす。
「お前は……いつも……」
微かに濡れた声を隠すように、黛は赤司の肩へと額を寄せた。


七人の御使いの一つが落ち、七つの封印の一つが消えた。まさにその現場を目撃した黒子たちに彼を追うことはできず、捕まえたとてかける言葉もなく、気にかかるものの捜索するのは憚られた。
仲間が減っても地球の未来を決める戦いは続く。そんな中、新しい情報がもたらされた。
「赤司征十郎は、二人いる……?」
夢見である桃井の言葉に、高尾は耳を疑った。驚愕の面持ちになる火神たちへ、桃井はゆっくりと頷いた。
「赤司くんは、元々一つの身体に二つの心を持つイレギュラーでした。そして、恐らくそれを利用しようとしたんです」
「二つの心のうち、一つを移動させる身体を、創りだしたんですね」
「そんなん可能なのかよ!」
「青峰が襲撃した製薬会社、確か地下研究所できな臭いことやっているって話だったな」
壁際で腕を組んでいた笠松が、眉間に皺を寄せながら呟いた。確か、病弱な息子のために健康体を人工的に創りだす研究をしていた筈だ。
「その研究が、成功していたと?」
「……少なくとも、もう一つの赤司くんの心はまだ存在しています。私の、夢に現れるほど」
どちらの赤司が生き残り、再びこちらへ刃を向けようとしているのだ。この場にいない薄墨色の男のことを思い出し、黒子はギュッと手を握りしめた。


「ほえー、相変わらず規格外っすね、赤司っち」
機械を弄る緑間の横で、黄瀬は呑気な感想を溢す。緑間は彼を一瞥して、また手元に視線を戻す。
「その規格外の恩恵を受けているくせに、黄瀬ちんも他人事だね」
「そーっすけど、やっぱ実感ねーっすわ」
カラカラと笑い、黄瀬は機械から離れて、部屋に設置されていたソファにドカリと腰を下ろした。先客の紫原は、だらしない体勢のまま、ぼりぼりと菓子を齧っている。部屋の隅で壁に背を凭れた青峰は、退屈そうに欠伸を溢した。
「で、赤司の誕生はいつなんだ?」
「……もうなのだよ」
言うが早いか、緑間の目の前の機械が音を立てて開いた。人工羊水が零れ、あらかじめ設置していた排水溝から下水道へと落ちていく。わずかに水たまりを作る床を、小麦色の素足がパシャリと叩いた。
ヒュウ、と黄瀬は口笛を吹く。緑間は横に置いていた上掛けを手に取り、そっと彼の肩へとかけてやる。
「ハッピバースデー」
面白がるように呟き、黄瀬はパシパシと手を叩く。緑間から受け取った上掛けの胸元を手繰り寄せ、彼は水気の残る赤い髪を手でかき上げた。
「目覚めの感想は?」
「――悪くない」
簡潔に答え、口元に薄く笑みを浮かべる。開いた両目は、どちらも朱かった。


ここも随分、酷い戦場に変わり果ててしまった。割れた鏡が、足元に転がっている。そこに写る顔は少々歪んでいたが、左だけ金色の瞳だけがやけにはっきりと見えていた。
「……大事なものは、あのとき自分で壊したと思ったんだがな」
あの男の背中を貫いた感覚は、まだ自分の右手に残っている。嫉妬深い彼の最期の願いとして、もう一人の赤司が傷つけた左目を治すためだと、青峰を通じて金色の瞳を寄越してきたときはどんな遺言だと笑いそうになってしまったが。
傷跡もなくきれいに収まっている金を想像しながら、指でそこをなぞる。
少し高い位置から見下ろした先では、見覚えのある顔ぶれが地球の命運をかけて戦っていた。
右掌を広げ、ゆっくりと指を折り曲げる。
「……まだ、俺にも大切なものがあったみたいだ」
そっとその手を胸元へ。ゆっくりと閉じようとする視界の端で、こちらに気が付いたらしい薄氷の瞳が大きく見開かれた。
「――ありがとう、黒子」
ゆるく握りこんだ手の中から、淡い光が零れ始めた。
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