01-2#鷹の目と鉄壁センター
春休みも終わりかけのある日、高尾はとあるゲームセンターを訪れていた。
貴重なオフの一日、高尾は趣味のトレーディングカードのため、中野のショップまで出かけていた、その帰りである。たまたまゲームセンターの前を通りかかり、そう言えば以前クラスメイトと遊んだ音ゲーが楽しかったことを思い出したのだ。最近、高尾も知るアーティストの新曲が遊べるようになったとも小耳にはさんでいる。久しぶりのオフだ、少しくらい予定にない行動をしても良いだろうと、軽い気持ちで入った。
「……」
そこで高尾は、知った顔を見つける。得意の鷹の目を使うまでもなく、その男は薄暗いゲームセンター内でも存在感を失わずに立っていた。
「紫原……」
「ん?」
バナナのように包装紙を剥いた菓子を加え、高尾の呟きを拾った紫原が振り返る。彼は菓子を一口齧って手に持つと「あー……」と何かを思い出すように首を傾けた。
「そうだ、みどちんとこのー……」
「高尾だ」
「そうそう、そんな感じの名前」
のんびりとした雰囲気は、タイプは違えど誰かに似たマイペースさを感じる。予想外の場所で遭遇したことで身構えていた高尾は、ついつい肩から力を抜いた。
「紫原、もしかして遠征だった?」
足元に置いた学校名入りのバッグとジャージ姿を見ながら高尾が訊ねると、紫原は素直に頷いた。
「て言っても、俺はほぼベンチだったけど。室ちんがうざいくらい張り切ってくれたから、そんなに疲れないですんだよ」
「へー。あれ、じゃあ試合はもう終わったのか?」
「まあね。でも、秋田に帰るのは明日だから。今日は後、ホテルに泊まって……夜練もあるけど」
何か嫌なことを思い出したのか、紫原はウッと顔を歪めた。紫原はキセキ一の練習嫌いと緑間が言っていたことを、高尾は思い出す。
「それ、欲しいの?」
苦笑しつつ、高尾は紫原が張りついていたクレーンゲームの台を覗き込んだ。食べかけの菓子を咀嚼し、紫原はコクンと頷く。紫原が先ほどまで食べていた菓子の、アミューズメント用の大容量版だ。
「俺、こういう細かい作業苦手なんだよねー」
「ふーん」
高尾はチラリと台を見やり、ニヤリと口端を上げた。
「おっけ。100円借りるぜ」
「は?」
ポカンとする紫原を気にせず、高尾はコインを一枚投入すると、リズムに乗る程度身体を揺らしながらアームを動かしていく。一分も経たないうちに、筐体から賞品獲得のBGMが鳴り響き、紫原の目の前に菓子の大袋が差し出された。
「これでいい?」
「……すっげーね、あんた」
眠そうだった紫原の目が、キラキラと輝く。宝物のように菓子を受け取った紫原は、そちらへ向けていた視線を高尾へと向けた。
「ありがとー。高尾だっけ?」
「そ、高尾和成。秀徳の1年レギュラーで緑間真太郎の相棒。以後ヨロシク」
鷹の目の広い視野と空間認知能力を使えば、クレーンゲームなど造作もない。紫原も緑間からの鷹の目のことを聞いていたのか、「ああ、ホークアイ……」と呟いた。
「けどなんでー? みどちんの元チームメイトだから?」
「んー、まあそれもあるかも?」
クレーンゲームを操作するために足元へ置いていたバッグを肩へとかけ直し、高尾は首元を掻いた。
「けど同じ高校バスケ男児だし? こういうのも縁かもってね」
高尾の言葉を反芻するように瞬きをしていた紫原は、やがて「うん」と小さく頷いた。
「……そうかもね。黒ちんやみどちんが言いそう」
そう言って、紫原はしゃがみこむと、足元に置いていた鞄から携帯を取り出す。そして、パチパチと目を瞬かせる高尾の鼻先に、それを突き付けた。
「今日のお礼、明日までにはできそうにないから、連絡先教えてよ」
「……おっけー、構わないぜ」
どこかで経験したような流れに、高尾は別の意味で笑いそうになりながらメッセージアプリを起動させた。
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