恋愛中継・予告
佐藤美和子は柳眉を吊り上げ、うんともすんとも言わないスマホの画面を睨んでいた。
「全く高木くん……何の連絡もなしにどこへ行ったのかしら」
「なあに、美和子にも連絡してないの?」
本日の勤務を終えた宮本と三池は、思わず顔を見合わせた。
警視庁から慌てたように駆けて行く高木と遭遇したのは、勤務を終えミニパトから降りた彼女ら二人だった。どこへ行くのか、佐藤とのデートかと揶揄った宮本へ、高木は少々硬い表情で否定の言葉を返した。
「まぁ、明日には戻るって言ってましたし……」
「それならいいけど……忘れてないわよね、アイツ。明日は伊達さんの復帰日だってこと」
初めて聞く名前に、三池は首を傾げる。
「どなたですか?」
「高木くんの教育係よ。一年前に交通事故にあって、休職してたの」
それも半年前には復帰し、復職訓練として生活安全課に異動していた。三池も交通課の案件でチラリと見かけたことがあり、宮本に特徴を教えてもらって初めてあの男性かと思い至った。
「この度めでたく捜査一課に復帰。代わりにこの俺が爆発物処理班へ異動ってことだ」
新しい人物の声に、三池は肩を飛び上がらせた。振り返ると、夜にも関わらずサングラスをかけた黒スーツの男が「よ」と手を上げた。
「松田さん」
「あら、松田くんも今上がり?」
「ああ。明日の班長の復帰祝いを、これからハギと準備しに行こうと思ってな」
「班長?」
「ああ……癖なんだよ。俺と爆処の萩原研二、それと伊達航刑事は警察学校で同じ教場、同じ班員だったんだ」
へぇと感心する三池の隣で、宮本と佐藤はうんざりとした顔でため息を吐く。
「とーってもやんちゃで優秀な世代だったらしいわね。お陰でその次の年の私たちは、すっごく厳しい指導を受けたんだから!」
「俺は別に問題児じゃねぇよ」
嘘だ、と三池は直感した。ここにその伊達や萩原といった人がいたら、しっかり訂正してくれることだろう。
「じゃあ、明日は伊達さんの復帰祝いと、松田さんの送別を?」
「いや、俺は班長への引継ぎがあるから、さらに一週間後なんだ」
だからまだ余裕はあるのだと、松田は異動用の荷物を持たない軽い手を振ってみせた。
「一応聞くけど、松田くんも高木くんの行き先知らないわよね?」
「高木の? 知らねぇけど」
佐藤は腕を組み、深くため息を吐いた
「ほんと、どこ行っちゃったのかしら……」
この翌日、伊達航の巻き込まれた交通事故を起因とした、英会話教室講師の自殺未遂を巡って起こった拉致監禁事件に、高木渉は巻き込まれたことが判明する。
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