page2:雲外鏡
薄暗い倉庫の中。いっそ死んでいるのではないかと思うほど、静かに横たわる女性。ダラダラと腹部から血を流す彼女を庇うように立ち、コナンは突然現れたハンティング帽子の男を睨み上げた。
銀の死神同様、警戒すべき相手だとコナンの本能が叫んでいる。それでも、違和感は拭えない。
先ほどジンを立ち去らせたのは、他でもないこの男なのだ。ジンは、確実に女性を殺すつもりだった。しかし彼の銃より早く、この男の銃弾が腹部へ沈み、女性はまるでベッドに入るときのように気を失ってしまった。その後も口八丁言葉を並べ、ジンをこの場から遠ざけた。思わずコナンが音を立てて隠れていることを報せてしまったのは、男の女性を見る視線に敵意を感じなかったからでもある。
「あなたは、敵、なの……?」
男はゆっくりと口端を持ち上げ、そこへ添えるように立てた人差し指を寄せた。




「迷宮なしの名探偵」
「あ?」
「どこかの高校生探偵さんの記事に書いてあったわ」
そう訊ねる彼女の目尻と口端が持ち上がっていたので、揶揄われているのだと察し、コナンは顔を顰めた。
「で、そんな世紀の名探偵さんは、どんな難事件に頭を悩ませているのかしら?」
短くなった足を組み、少女は頬杖をついてこちらを見やる。彼女の背後では、恰幅の良い男性と女性が、微笑ましい光景を見るように顔を見合わせていた。
コナンは息を吐き、髪をかき混ぜる。
「明美さん」
コナンに名指しされた女性は、キョトンと目を瞬かせた。
「バーボンて幹部の顔は、知らないんだよね?」
「ああ……」
最近動きを見せるようになったという、黒ずくめの組織の幹部のコードネーム。情報を流してくれたのは、キールの件で本国に違法捜査していることがバレてしまい、現在帰国しているジョディだ。彼女が使い捨てのアドレスを経由してまでコナンへその情報を伝えてくれたのは、警告の意味合いが強い。先日の一件で仲間を一人失った彼女らの心情を慮れば、それは当然の行動だろう。
それらをコナンから伝え聞いていた明美は、考えるように首を傾けた。
「バーボンについては、大くん……ライからの話でしか知らないの。私自身が、あまり幹部たちと顔を合わせるようなポジションにいなかったから、ジンやウォッカの他に顔を知っている幹部はそういないし……」
「そっか……」
哀が姉の肩を摩り、気にすることはないと励ましの言葉をかける。コナンはそんな姉妹の様子を見つめながら、腕を組んだ。
「……最近、毛利探偵事務所の周りに現れた気になる人物が三人いる。水無怜奈の事件でジンの、毛利のおっちゃんに対する疑いが晴れ切っていないことを考えると、その中の誰かがバーボンである可能性は十分あると思う」
「その三人って……」
ゴクリと唾を飲む二人が見えるように、コナンは人差し指を立てた。
「世良真純。蘭たちのクラスに転入してきた帰国子女。高校生探偵で事件現場によく顔を出している」
続いて、中指。
「緑川一色。毛利小五郎のファンを名乗って、ポアロでバイトをしているフリーター。正直、一番可能性が高いのはこいつじゃないかと思っている」
「どうして?」
「さり気なくだけど、警察の……松田刑事たちと顔を合わせないようにしていることが多いんだ。微妙にタイミングをずらしてその場を離れたり、事件現場には血が苦手なことを理由に近寄らなかったり」
さらに、一度だけ彼とすれ違った松田と伊達が、険しい顔をしていたことを、コナンはよく憶えている。知り合いというには緊張感を伴いすぎていて、長年の仇敵と邂逅したような雰囲気を感じたのだ。少なくとも、緑川一色を名乗る男と、松田刑事たちの間には何かしらの関係があるようだった。
「あとは……安室透」
「誰?」
「ウエディングイブの事件を話しただろ? そのときに会った私立探偵だよ」
数奇な運命のもと生き別れ、再会したものの真実を知ってしまったために起きた悲劇。安室透は、死亡した女性が雇った私立探偵だった。あれから何度も会うわけではないが、依頼人の自殺を止められなかったことを知った瞬間の、深海のように暗く光を失った瞳が、コナンの脳裏に焼き付いている。
「どうして彼が?」
「……明美さんを、助けたときの話なんだけど、」
コナンが重い口を開くと、哀はサッと頬を赤くし、明美は逆に青くした。それから彼女は、過去に紐づけされた痛みを思い出したように、腹部へ手をやった。
拳銃で撃ちぬかれた腹部は、適切な処置で既に塞がっている。
ジンからの指示で銀行強盗を企てた明美は、しかし完遂することができず粛清という名の銃口を向けられたことがある。そこに現れたのが、金髪の男だ。彼がどういった思惑を持っていたのかは分からないが、ジンよりも殺意は低かったようで、お陰で明美は捜査一課を経由して阿笠博士の縁戚として保護することができた。一方明美が殺されたと思った妹の志保は研究をボイコット、彼らから逃れるために開発途中のアポトキシンを服薬。身体が縮んだことで組織から逃げ出し、阿笠邸へと辿り着き、姉たちと再会して今に至る。
「あのときの男の人と、似ている気がしたんだ」
そうだったら良いという、願望かもしれない。「そうね……」と呟いた明美は、腹へ回した手を腕に移動させた。
「私も気になっているの……彼、どこかで、会ったような気がして……」
どこか遠い記憶の果てで、彼によく似た色をした子と出会ったような。しかし靄がかかったようにハッキリと思い出せない。もどかしさを感じ、明美は眉を顰めた。
「口を挟むようだけど、一人忘れていない?」
沈む雰囲気を察しながら、哀は少し嫌味を言うような口調でコナンを見やった。首を傾げる彼を睨み、彼女は窓を指さす。
「工藤優作の弟子を名乗って、頻繁に隣の家を出入りするあの男よ!」
「ああ……でも昴さんは、父さんの弟子だし……」
「あなたは本人にあったことないんでしょ? ベルモットのときのことを忘れたの?!」
沖矢昴。ここから離れた木造アパートで独り暮らしをする、駆け出しの小説家であり、現在は工藤優作のもとで師事している。師である優作がアメリカ在住のため、許可を得て工藤邸の書斎の出入りしているとかで、頻繁に姿を見かける。
哀の中では、彼こそバーボン候補筆頭なのだそう。
苦く相槌を打ちながら、コナンは言葉を濁した。その男はFBIの捜査官で、先のキールの事件の際、死亡偽装をしなければならなくなった赤井秀一その人である。つまり、コナンの中では候補にすら入っていない。
しかし宮野姉妹は赤井秀一に良い思い出がない。明美に至っては、突然別れを告げられた挙句、命を失いかけた原因となった男だ。その話を明美以前に彼と交際していたジョディから聞いたとき、コナンはこれが国の違いかと口元を引きつらせかけた。
まぁそんなわけで、コナンは彼女らに沖矢昴のことを説明し辛い。沖矢自身が、潜伏ついでに警護もするなら阿笠家に居候できないかと提案してきたところも、輪をかけている。アメリカではどうか分からないが、日本で妙齢の親しくもない男女がいきなり居候はハードルが高い。
(優秀な人ではあるんだよなぁ……それは分かるけど、ちょっとズレてるよな)
幼馴染とその親友にデリカシーなし男と言われた自分でも、そこは分かる。
コナンがそんなことを一人納得している間に、哀は思い出した苛立ちで顔を歪めていた。そんな妹を宥めながら、明美も苦笑を浮かべる。
「まあ、私もあの人は何となく苦手かなぁ……」
沖矢昴の正体を明かすタイミング、一生来ないのではないか。コナンはつい、そんなことを思ってしまった。
「ほ、ほれ、話がズレとるぞ」
「あ、ああ、そうだな」
阿笠の言葉で我に返り、コナンはコホンと咳払いをした。
「ともかく、バーボンは今度のミステリートレインに乗車してくる筈だ――シェリ―を探すために」
ゴクリ、と哀は唾を飲みこむ。明美は彼女の肩へ腕を回した。
「あの三人は、おっちゃんのパソコンに光彦が送った山小屋の動画を目にしてしまっている。彼らの中にバーボンがいるなら、指に嵌めたパスリングを見逃す筈がない」
「……動く密室の中で、私を始末するつもりね」
コナンは頷いた。
組織の目を誤魔化すためにコナンが立てた計画は、宮野志保の死亡偽装。宮野志保の死体か、目の前で命を絶つ様子を見せて、この世に彼女がいないことを印象付ける。そうして、組織の追手を完全に断とうという魂胆だ。
「でも死体なんて……人形じゃ誤魔化しきれないわ」
「ああ。だから、実際に命を絶つ様子を見せつける方がいい」
そのために、宮野志保へ変装して血糊で死亡偽装をする演者が必要となる。コナンの伝手で頼めるのは、母親の有希子くらいだ。しかしそれだけでは不安が残る。バーボンが、ベルベットと行動を共にしているらしいという情報があるからだ。友人である有希子の行動を、読まれている可能性がある。
「もう一人、変装する人を、」
「ダメよ!」
コナンの言葉を遮ったのは、哀だ。彼女はコナンを睨みつけて、椅子から立ち上がった。
「お姉ちゃんを身代わりにするくらいなら、解毒剤を飲んで自分で囮になるわ!」
「落ち着けって灰原! ちげぇよ!」
彼女の肩に手を置き、コナンは哀を座らせる。フーッフーッと荒く息を吐く哀は、阿笠の持ってきたお茶を飲んで少し息を整えた。
「奴らは列車の走行中に仕掛けてくる筈だ。こちらとしても、多くの一般人がいる駅で仕掛けられるよりよっぽどいい。けど、死亡偽装をするなら奴らが仕掛けて来たタイミングで姿を現す必要がある。解毒まで時間を要する上、制限時間つきの解毒剤じゃあ、下手をすればベルモット以外に幼児化がバレちまう」
「で、でもそれじゃあ……」
「……灰原の解毒は、最終手段だ。明美さんは第三の手。危険を承知で、一緒に乗車してほしい。母さんと行動していると、ベルモットに目をつけられる可能性があるから、別室をとる必要があるけど」
「それは別に……ねぇコナンくん、何を考えているの?」
不安気な明美へ、コナンは一つの新聞記事を見せた。それを彼女の傍らで覗き込んだ阿笠は「あ」と口を丸くする。
「今回の運行目的からすると、九割の確率で奴が乗っている筈……ビックジュエルを盗む下見で、怪盗キッドが乗り合わせる筈だ」
「……背に腹は代えられないとはいえ、探偵のあなたが怪盗に頭を下げる気があるとはね」
幾分落ち着いた哀は、コナンの真意を探るように目を細めた。
「バーロー、俺だって本当はそんなことしたくねぇよ……一般人に紛れたつもりのアイツを見つけて、ここでとっ捕まえない交換条件としてって手が通じればな……」
コナンは深く息を吐いた。結局、こんな作戦しか立てられない。父ならばもっとスマートな作戦を思いつくのかもしれないが。母や怪盗へ手を借りるだけのプライドは捨てられるのに、最後の一欠けらを捨てきれない自分に、コナンはグッと奥歯を噛みしめた。


そして時はミステリートレイン乗車日へと進む。
列車内で発生した殺人事件を、眠りの小五郎で無事解決したコナン。一息ついたのも束の間、突然白い煙が漂い始めたことで車両内に緊張感が走った。謎解きの途中に助手を買ってでた緑川が様子を見てくると言うや否や、
「火事だ!」
どこからか、そんな叫び声が聞こえた。
それにパニックに陥ったのは、過去の事件から炎恐怖症になっている乗客たちだ。緑川やコナンの制止も間に合わず駆け出した彼らのパニックは他の乗客にも伝染し、列車内は途端に大騒ぎとなった。
この混乱が奴らの狙いか。コナンが毛利を叩き起こす間に、目を見開いた緑川は「今の声……」と呟いて駆け出していく。その反応が気にかかったが、コナンはその場にとどまっていた老婆とその世話役の女性に声をかけた。第二の手の布石を、打っておくためである。
その打ち合わせを一方的に終えた後、コナンも前方車両へ向かった。灰原と落ち合う部屋へ、ベルモットたちの視線がないことを確認してから滑り込む。部屋には既にサングラスと帽子で顔を隠した明美と哀がいた。
部屋の外は、火事という単語だけが先走った混乱で騒がしい。扉を少し開き、コナンはそっと外の様子を探った。
ふと、見覚えのある顔が視界に映り込んだ。ラフな私服姿だが、あのサングラスと天パは間違いようもなく捜査一課の松田陣平刑事だ。彼もこの列車に乗っていたのかと驚き、コナンは思わず動きを目で追っていた。
苛々とした様子の松田は、誰かの腕を掴んで何やら文句を言っているようだ。そちらへ視線を動かし、コナンは息を飲んだ。松田が無遠慮に腕を掴んでいたのは、先ほど前方車両へ駆け出した緑川だったのだ。
「――い、手前何考えてやがんだ!」
人々の喧騒に紛れて、微かに声が届く。
「離してくれ……」
「説明しろ……この……――やろうども!」
松田が緑川に対してどんな言葉を投げかけたか、コナンには聞こえなかった。それでも緑川の頭へ血を昇らせるには十分だったらしく、カッと眦を吊り上げた彼は乱暴に松田の腕を振り払った。
「放っておいてくれ! オレはもう二度と……――!」
「はあ?!」
松田もカッと怒りに顔を赤くし、狭い車両内で緑川の襟首を掴む。しかし緑川の手捌きも早く、松田の手首を掴むと捻るようにして突き放した。
「……オレが、勝手に――した……で、アイツは……!」
「……それで本当に……と」
緑川は苦く顔を歪め、視線を床に落とした。
さらにコナンが目を凝らそうとすると、別車両から移動してきた人々が視界を遮り、二人の姿をすっかり隠してしまった。
「ちょっと、江戸川くん?」
イヤホンを持ったまま、この後どうすれば良いのかと哀が訊ねる。コナンはハッと我に返り、彼女の方へ振り返った。
松田たちのことも気になるが、今はまず、この車両内に潜んでいるバーボンの目を欺く必要がある。

「バーボン、これが僕のコードネームです。」

求めていた台詞は、最も聞きたくない声色でコナンの耳に届いた。
思考が止まりかけるが、困惑する哀の視線ですぐに我に返った。キッドへの台詞の指示を続けるよう言い、コナンは二人の会話に耳を欹てる。
シェリ―に変装したキッドは、バーボンと名乗った男に銃を突きつけられているようだ。その声は間違えようもなく、私立探偵の安室透を名乗っていた男のものだ。
『どうか、大人しく言うことを聞いてくださいよ』
微かに震える声で、バーボンは言う。キッドは言われるまま、彼の指示に従って後方車両へと向かっていく。
貨物室となっているそこに、爆弾が積まれていることに気が付いたのはキッドだった。
バーボンは酷く驚いたようだ。ベルモットが独断で動いたのだろう。暫しの沈黙の後別の手段をとろうとするバーボンの手を振り払い、キッドは貨物室の扉を乱暴に閉めた。
『……っシェリー!』
苛々とした様子で、バーボンは閉じられた扉を叩く。ゴソゴソと何やら貨物室に隠していた道具――恐らくハングライダーの類だ――を取り出しているキッドは、その声にヒュウと口笛を吹いた。
『熱烈な男だ。この姿の持ち主であるあなたは、随分と罪作りなようだ』
「随分な皮肉をどうも。ヘル・エンジェルと呼ばれた女の娘だもの」
嫌味ったらしく哀が返すと、明美は顔を顰め、通信機の向こう側でキッドは小さく笑った。
『そのままの意味さ……あの男にとっては、地獄で出会った天使なんじゃありません?』
でなければ、爆弾だらけの個室にこもった相手へあれほどまで必死になる道理がない。哀が黙り込むうちに、キッドは貨物室のもう一つの扉を開いた。
『さて名探偵、今回の貸しはここまで――』
『誰だ、お前!』
切羽詰まった声が聞こえる。キッドは小声のまま話していた。それでなくてもシェリーの変装をしたまま、声色を変えていない。だとしたら、扉の向こう側でバーボンの前に何者かが姿を現したこととなる。キッドにはこれもコナン側のシナリオであるのか判別し難く、少し動きを止めた。
『手榴弾!?』
バーボンのその言葉に、キッドは舌を打つ。コナンへ確認をとる間もなく、キッドはハングライダーで空に躍り出た。
連結部で小さな爆発が起き、それをかき消す勢いで貨物室が弾けとんだのはその数秒後だった。

「一体、何が……?!」
明美も哀も、状況が理解できずに混乱している。それは、コナンも同じだ。コナンが立てたシナリオに、このタイミングでバーボンに接触する役はいない。イレギュラーは何者だ。それに、爆発後のバーボンのことも気にかかる。
コナンは二人に、変装後最後尾で列車を降りるよう伝え、部屋を飛び出した。後部車両へ向かって一目散に駆け出す。途中、人々の混乱と列車の振動に混じって、有希子の哀を呼ぶ声が微かに聞こえた。
辿りついた現場は、緊迫した空気に包まれていた。
ぽっかりと空いた扉の向こうは、本来なら貨物室へと続いていたのだろう。今は空と緑を映す大きな窓となっている。
「ゼロ!」
そのきわで座り込むのは、ぐったりとした男の身体を抱きかかえる緑川だ。緑川は憔悴しきった顔で、抱きかかえた安室透の肩を揺すっている。安室の服に焦げた跡があったので、先ほどの手榴弾と、もしかしたら貨物室の爆発も回避し損ねてしまったのかもしれない。
緑川の傍らに立つのは、松田陣平。彼はギロリと向かいに立つ男を睨みつけている。それは前方車両から駈け込んで来たコナンの前の立ち塞がっていた男――沖矢昴だった。
「昴、さん……なんでここに……?」
沖矢は眼鏡の位置を正し、茫然とするコナンへ少し視線をくれる。
「……女性を追い詰めている不審者を見つけたので、ちょっと手荒い真似を」
「手荒い真似だぁ? 一般人が手榴弾なんて物騒なモン持ってるかよ」
沖矢の言葉を半ば遮る形で、松田が噛みつくように言った。緑川は何かを堪えるように顔を歪め、沖矢を静かに見つめる。その瞳を見つめ返し、沖矢は微かに首を傾けた。
「彼は犯罪者では?」
「……お前には、関係ないことだ」
低い声でそれだけ呟くと、緑川は力を失って重いだろう男の身体を抱え上げて立ち上がる。手を貸そうとした松田を無言で振り切り、彼は沖矢にそれ以上一瞥もくれぬまま、その場を後にした。松田は荒々しく舌を打つと、沖矢を一睨みしてから緑川の後を追っていく。
二人が去り、沖矢は肩の力を抜くようにため息を吐いた。
「……ねぇ、さっきの手榴弾投げたの、沖矢さんなの?」
「ああ」
恐る恐るコナンが訊ねると、沖矢はあっさりと肯定した。
「君らのシナリオは大体聞いていた。何かあればフォローしようと思ってね。案の定、追い詰められている様子だったから彼を引き離せればと思ったが……まさか爆風に煽られてしまうとは」
「そんな……! 避けられる保障なんてなかったのに?!」
ピンを外してから起爆するまで約7.5秒。その間に状況を判断して身を隠すには、この一方通行の場所では難しい。
沖矢は涼しい顔で、また眼鏡に触れた。
「彼は犯罪組織の人間だ。手心を加える必要はない」
コナンはグッと唇を噛みしめる。
そうだ、彼は――赤井秀一はそういう人間だ。以前だって、蘭の行動がなければ組織の人間だろうと命を奪っていた。どんな殺人犯であろうと命を捨てさせてはいけない。その信条を持つコナンとは、あるところから道を違えてしまう、そういう大人であり、協力者。
しかし、それを理解し、且つ彼の頭脳と技術を見込んで手を組んだ身としても、看過できないことはある。
「……それでも、僕は止めるよ。何度だって」
コナンが大きな目で見つめると、沖矢は眼鏡の向こう側で薄く目を開き「そうか」と呟いた。
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
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