ハロウィンの花嫁編(3)
「松田くん、三年前の十一月六日に萩原くんのお見舞いに行ってたの?」
高木からの連絡に、佐藤は目を丸くする。向いに座るコナンが興味深そうな視線を向けて来るので、佐藤はスマホを机に置き、スピーカーホンに変えた。
『はい、松田さんたちを覚えている看護師さんがいまして。伊達さんと萩原さんにも聞いたら、確かにそうだったと』
「それで、その時に何か?」
『いや、世間話をした程度でお見舞いは終わって、伊達さんと松田さんは病院の前で別れたみたいで……萩原さんも、そのときはまだ入院中で病院の外には出ていないそうです』
「被害者は病院にいたってことかしら……それに、看護師さんの言ってた残りの二人について、伊達さんたちは何か言ってたの?」
『えっと……それなんですが……』
『佐藤刑事』
突然、高木のではない固い声がスマホから聞こえた。ビクリと佐藤は立ち上がりかけ、聞き覚えのある声にコナンは目を細める。
『公安部の風見だ。この爆破事件については、公安預かりとなる。一課での捜査は中止だ』
「な、そんな!」
『これは決定事項だ。……それと、これは今聞いている者全員への通告だ。今出てきた二人の見舞客について、余計な詮索は禁止する』
「はあ? ちょっと」
佐藤は抗議しようとするが、風見はこれで全て伝えたとばかりさっさと通話を切ってしまった。
ダン、と佐藤は机を叩く。一方的に切れたスマホが衝撃で机の上を滑る。トン、と画面をタップしてこちらからの通話も切り、コナンは佐藤を見やった。
事件を横取りされた悔しさを消化できない様子で、佐藤はギリリと拳を握りしめる。それが仲間である松田が関わっているかもしれない事件であるから、悔しさは尚更だろう。
三年前の十一月六日の三時から六時までの三時間。萩原の見舞いを終えたその後に、何かがあったのだ。伊達と松田――さらには風見が口留めする必要のある二人が関わった、何かが。そしてその二人とは、公安であり潜入捜査官である彼ら。

「と、そこまで仮説は立てたんだ。まさかこんな場所に連れて来られるとは思わなかったけど」
佐藤と別れ、毛利の見舞いを終えた夕刻。病院に泊るという蘭に見送られたコナンは、病院から離れて少しして、こちらを観察する視線に声をかけていた。見覚えのある二人の男に連れてこられたのは、場所がはっきりとしない地下シェルター。透明な壁に区切られた先で豪奢なソファに座ってコナンを出迎えたのは、安室透こと降谷零だった。
彼の手元にある黒電話は、今コナンが手にしている有線の電話に繋がっている。それを耳に当てて現在コナンの持っているカードを話し終えると、笑みを湛えた降谷は椅子から立ち上がってコナンの目の前までガラスに手をついた。
『さすがだね、君は何者なんだい?』
「……それよりも、それはどういう状況」
コナンは目を細める。降谷はニコリと笑って、その場でクルリと回って見せる。彼の首には、一目で爆弾と分かる首輪がはめられていた。
『ちょっと不意を突かれてね。公安に、匿名のタレコミがあった。とある爆弾の取引があるとね。ただの爆弾なら部下に任せたけど、それがちょっと無視し難い特殊なものだったから、僕と風見で張り込んでいたんだ』
「で、確保できず、その首輪をつけられた、と」
言い訳しようもない、と言うように降谷は肩を竦めた。それから地面へ胡坐をかいて座り、コナンと目線を合わせる。
『捜査一課は優秀だね、僕らのことに気づくなんて』
「多分、伊達さんたちも気づいているんじゃない? 同期の安室さんが事件に関わってるって」
『だろうね。あいつらからの連絡もうるさいくらいだけど、今会うわけにはいかない』
正体不明の爆弾を付けられた身であるし、何より降谷は安室透として潜入捜査中だ。
『その代わりと言っては何だけど、君に僕の持つ情報を渡すよ。彼らに協力してやってくれ』
「安室さんが首輪爆弾をつけられ、萩原さんが襲われた。……もしかして、安室さんたち同期のメンバーが狙われてるの?」
『どうだろうね、まだ決定打にはかけるよ』
コナンはそこで、受話器を持つ手を変えた。
「で、三年前の十一月六日、萩原さんのお見舞いに現れた四人の仲間……そのうち二人は、安室さんと諸伏さんなんだね」
『そうだ。その時すでに潜入捜査中だったから、僕とヒロはあまり目立たないようにしたつもりだったんだけどね』
ヒロとゼロ。それだけ聞けば、確かに双子の名づけと思われても仕方ない。
「翌日は連続爆弾犯からの予告が来る可能性があるから、松田さんは警視庁で待機するつもりだった。だから前日にお見舞いに行ったんだね。その後、爆弾に関する何かがあったんじゃない?」
コナンの言葉に、降谷はフッと口元を緩めた。
『さすがだね。君の推理通りさ』
そうして降谷は話し始めた。
伊達と諸伏は徒歩で駅まで、松田は降谷の車で警察署近くまで。そうして別れた彼らだったが、道中雑居ビル前で走る制服警官を見つけた降谷と松田は、不審者が出たらしいという情報を聞き、伊達と諸伏にも連絡を入れてからそのビルへ入った。そこで謎の二色混合液体爆弾とそれを設置したと思しきペストマスクの人間と遭遇した。紙一重で松田は爆弾の解体に成功したが、降谷は手榴弾の余波を受けてボロボロ、諸伏が犯人の右肩を打ち抜いたものの、結局は取り逃がすという結果に終わった。
『ペストマスクと遭遇する直前に、捕まっていたロシア人の男がいた。松田は彼に名刺を渡して、何かあればそれを警官に見せろと言っていた』
「じゃあ、今回の被害者はそのときの……」
『だろうね』
松田はこちらから確認するまで、すっかり名刺を渡していたことを忘れていた、と降谷は続けた。そちらも口留め済みなのだろう。
事件自体は表向きガス漏れ事故として公安が処理をした。そのとき回収した爆弾は、解析する前に謎の爆破事件で関係者全て死亡。今回のタレコミの爆弾も、その液体爆弾についてだったらしい。
「随分教えてくれるんだね」
スマホに送られた、今回限りの風見の連絡先と爆弾の写真を見てコナンは呟いた。椅子に戻った降谷は小さく笑う。
『今回の爆破事件、三年前のその事件が関わっているとなると、やっぱりアイツらが大人しくしているとは思えない。今の僕らに接触してくるのは困るんだ』
「つまり、僕に松田さんたちを制御しろってこと?」
ジトリとしたコナンの視線へにこやかな笑顔を返し、降谷は『検討を祈る』という言葉を最後に黒電話の受話器を置いた。
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