転入しました。
江戸川コナン。とある組織の薬で幼児化した元高校生。そのおかげか大分波乱万丈、来世どころか来々世分のイベントまで経験したのではないかというくらい、息のつく間もない一年だった。後処理諸々の関係で小学二年生に進級した今も江戸川コナンは継続して存在しており、その辺りはまぁ仕方がないと諦めていた。
幼児化して二年目、もう何が起きても驚かない。そんな心持で迎えた小学二年生。出鼻というものは早々にくじかれるものだ。
「転校生の、」
「降谷航です」
「降谷景光です」
黒板前に行儀よく並んだ二人の子ども。「なんだか、コナンくんと哀ちゃんを思い出すね」と隣の席の歩美が耳打つ。コナンは彼女に対して、引きつった笑みしか返せなかった。

遡ること一週間前。目的の薬のデータを奪取し、幹部連中を軒並み捕縛し、事実上黒の組織は壊滅と相成ったのが一か月ほど前のこと。しかし、こまごまとした残党処理や外交処理は残っている。大変なら、早々に本国へ追い立てたFBIの力を借りればよかったのでは、とコナンは思ってしまうのだが、残る処理はやはり日本警察で行わなければ面目立たないものばかりらしい。代わりに捜査一課も駆り出されているようで、目を白黒させながら走り回る?木たちの姿を、よく目撃した。
さて、そんな中、安室透は変わらずポアロでバイトを続けている。どうやらある種の撒き餌になっているとコナンが気づいたのは、度々安室が擦り傷を作って出勤していたためだ。周囲にはストーカーだなんだと説明しているらしいが、風見ではない公安らしき部下の姿も見かけるので、捕縛しきれなかった組織の構成員を炙りだしているのだろう。
ここまでが閑話休題。今回の本題ではない。
そんな安室から、コナンは呼び出しをされた。阿笠と灰原も同席してほしい、と付け加えて。その希望通り、学校が休みの週末に三人は阿笠邸で、彼の訪問を待つこととなった。
安室はキッチリ定刻通りに現れた。四人の子どもを伴って。
そこからは、コナンも眉唾物の話が続いた。幸いだったのは、彼らが黒の組織の被害者ではなかったということ。コナンにとって厄介だったのは、彼らも帝丹小学校に在籍することになったので、フォローを頼まれたことだ。
「ほら、子どもの振りに関しては、そちらの方が先輩だろ?」
曲げた膝に手をついて見下ろす男は、ニコリと『安室透』の顔で笑う。ポケットに手を入れてそれを見上げたコナンは、ヒクリと口端を引きつらせた。
「……良い性格してるぜ、安室さん」
「それはどうも」
「戸籍自体は『降谷』なのね」
公安の息のかかった病院で行った健康診断の結果を眺めながら、灰原は呟く。紅茶で口を潤した安室は、「ああ」と頷いた。
「こいつらまで偽る理由はないからね。後々、その方が良いだろうし」
隣に座る景光と航を一瞥し、阿笠の発明品に興味津々の研二と陣平を見やる。その視線からは、親しい友人への親愛だけでなく、保護者のような情愛も混じっているようだった。
意外な顔を見たと、コナンは目を丸くする。灰原は腕を組んで、小さく息を吐いた。
「まぁ、いいわ」
「え、マジかよ、灰原」
「つまりは、私たちに彼らの友だちになれってことでしょ? いじらしい新米保護者の願いじゃない」
灰原の言葉に、降谷は視線を横へと逸らす。それが気恥ずかしさを隠す行動に見えて、フフンと笑った灰原の気持ちが分かったコナンも、思わず笑みをこぼした。

と、いう経緯のもと、転入してくる彼らのフォローを了承したのだが。
(別に要らないんじゃないかなぁ)
早速一時間目の休み時間から男女問わず囲まれて、柔らかい笑顔で受け答えする二人。彼らを遠巻きに眺めながら、コナンはコッソリ息を吐いた。
「あら、心配なさそうね」
凭れかかった廊下側の窓から、ヒョイと顔が出てくる。丁度コナンの肩の上あたりに現れた顔を見て、歩美は破顔した。
「哀ちゃん」
窓枠に肘を置いて、灰原はヒラリと手を降る。進級してクラスが別れてしまっても、灰原はこうして歩美のいるこの教室に顔を出す。歩美は嬉しそうに彼女のところへ駆け寄った。
「灰原、そっちはどうだ?」
この学年は二クラス。残りの二人は灰原のクラスに在籍することとなった筈だ。
灰原は肩を竦めて見せる。
「天パの彼はともかく、もう一人は人当たりが良いから、あっという間に大人気よ」
「哀ちゃんのクラスにも、転校生が来たの?」
「ええ。降谷陣平くんと、降谷研二くんって子よ」
「へー、そっちも降谷くんなんだ」
あれ、と歩美は首を傾げる。それから彼女は近寄って来るクラスメイトに手を降り、輪から抜け出そうとしている二人の転入生を見やった。
「みんな降谷くんなんだ?」
当然の疑問だ。あはは、とコナンが渇いた笑い声を上げると、丁度脱出に成功した二人がこちらへやって来るところだった。
「ん? どうかしたか?」
「あ、私、吉田歩美。よろしくね」
歩美が灰原とコナンを紹介しようとすると、勢いよく教室のドアが開いた。
騒めいていた教室がシン、となり、乱入者へ注目が集まる。不機嫌そうに顔を顰めた天パの少年は、開いた入口に立ってグルリと中を見回した。
「おい、景光、航」
低い声が呼んだのは、転入生の二人だ。ビクリと肩を竦める子どもたちの中、唯一ケロリとしていた二人は、呆れ顔で彼の方へ歩み寄った。
「急にどうした、陣平」
「悪いな、二人とも。陣平ちゃんが質問責めに飽きちゃったみたいで」
天パの少年の後ろから、ひょっこりと別の少年が顔を出す。天パの少年は荒々しく舌を打ち、「やってられっか」とぼやいた。
成程、懸念は彼だったか。一人コナンが納得していると、隣に立っていた歩美がフラリと動いた。彼女は輪になる四人の前で立ち止まり「ねぇ」と声をかける。
「みんな、お友だちなの?」
またか、と言った風に陣平の眉間へ皺が寄る。
突然転入してきた二人の少年。それが別のクラスの転入生と親しく会話していて、苗字も揃って同じ。好奇心旺盛な小学生なら、仕方のない反応だ。陣平もそれは理解しているだろうが、好い加減飽き飽きしていたのだろう。
手助けすべきか、とコナンは口を開きかける。しかしそれより早く、航が口火を切った。
「ああ、ずっと昔からのな」
「今は、家族なんだ」
少し照れたように笑って、景光も付け加える。
歩美は「ふーん」と四人の顔を見回した。
「家族が多くて、楽しそうだね」
キョトンと、陣平は目を瞬かせる。恐らく同い年である点や、少しも似ていない顔のことを指摘されると身構えていたのだろう。しかし歩美はニッコリと微笑んで「私、吉田歩美。よろしくね」と手を差し出した。
「……降谷陣平」
「降谷研二。よろしくね、歩美ちゃん」
おずおずと握り返された陣平の手をしっかりと握り、歩美は嬉しそうに微笑んだ。
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