綱吉が目覚めたのは、並盛にあるホテルの一室だった。眠りについたときと同じ風景、同じ体勢。右手は固く誰かに握られており、首を傾けるだけでその誰かの顔は簡単に見ることができた。
手を握る相手――炎真は綱吉の方に身体を向けた状態で、背と膝を丸めるようにして目を閉じている。
身体を起こした綱吉が目を擦っていると、炎真も身じろぎしてゆっくりと目蓋を持ちあげた。
「ふぁ……お早う、ツナくん」
「お早う、エンマ」
身体の調子は異常なし。手の平を数度握ったり開いたりしてみるが、炎エネルギーの違和感もない。今回もうまくいったようだ。
身体を起こした炎真も「調子はどう?」と訊ねるので、綱吉は問題ないと返した。
部屋の大きさに合わせた大きな扉が、音もなく開いた。
綱吉と炎真がそちらへ顔を向けると、初めに顔を出した銀髪の少年がホッと安堵したように胸を撫で下ろした。
「お目覚めですか」
また身体の加減を聞かれたので、同じ答えを返す。すると少年は背後に何やら合図し、ぞろぞろと他の少年少女たちを連れて部屋へと入って来た。
十三人の少年少女たちは、ベッドの左右に分かれて立つ。六人は炎真の側に、五人は綱吉側に。扉のすぐ脇に留まる青年と、ベッドを通り過ぎて窓の外へ視線を向ける青年もいたが、小言を投げる者はいない。
一番に銀髪の少年――獄寺がベッドの脇に片膝をついて、綱吉を見上げた。
「お加減回復されたようで、何よりです」
ランボがベッドの端に縋りつくようにして見つめてくるので、綱吉は腕を広げて促した。途端に破顔して、ランボは綱吉の腕の中に縋りつく。
獄寺のこめかみがヒクリと引きつったが、彼は表情を押し隠すのがうまくなったと思う。何事もなかったように、言葉を続けた。
「お母さまへは、事故で帰国が遅れ、明日になったと伝えてあります。今日は一日ゆっくりなさってください」
「俺らもここに泊るしな」
ニカリと山本も笑う。綱吉は了承したと頷いた。
「エンマ、あなたも身体に異常は?」
アーデルハイトは炎真の両頬を手で包み、角度を変えて怪我がないことを確認した。その横からシットピーがツンツンと指で炎真の身体を突くので、らうじがバルーン部を持って距離を取らせる。大丈夫だと炎真が答えると、顰めた柳眉を和らげ、アーデルハイトはホッと息を吐いた。
「俺たちも一日このホテルでゆっくりしていこうぜ」
軽い調子で言いながら、ジュリーはアーデルハイトの肩を抱きよせる。真っ赤な顔をした彼女に顎を打ち上げられ、バタリと倒れるはめになった。
「……ねぇ」
ポツリ、と炎真は口を開いた。
「みんな、何かあった?」
立ち上がった獄寺を含め、仲間たちを見ながらおずおずと綱吉は訊ねる。
頬や腕、服の影から見える肌に絆創膏やガーゼ、包帯を巻いた彼らは、揃って顔を見合わせた。それから真っ直ぐ自分のボスを見つめる。
「いいや、なにも」
きっぱり声を揃えて言い切られ、綱吉と炎真はパチリと瞬き一つ。二人して顔を見合わせ、小さく息を吐いた。
そんなボスらの困惑を知ってか知らずか、獄寺とアーデルハイトはニコリと微笑んだ。
「あなたが憂うことはありません、何も」
憂いが彼らの目に届かなければ、それもまた良し。
かくして天候と地形は、大空を染め上げ大地を彩るのだ。
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