まずいことになった。
得意のポーカーフェイスを微かに崩し、黒衣の家庭教師は舌を打った。それからすぐに待機部隊へ指示を出し、自分は戦闘の中心地へ飛び込んだ。
そこが戦闘の中心地だったのは数秒前までのこと。今はすっかり瓦礫の山と化している。
瓦礫の山は、元々孤児院だった。貧困とマフィアの抗争で身寄りを失くした子どもたちが集う場所だ。九代目が資金や物資を援助していた。
リボーンたちがそこを訪れたのは、九代目が彼らをイタリアへ招待したためである。
念のため説明すると、このイタリア旅行は高校の進学祝いであって、決して反ボンゴレ組織とドンパチすることが目的ではない。しかしリボーンと出会ってから騒動続きだと嘆く綱吉の言葉を証明するように、孤児院へ訪れた頃を見計らって組織は攻撃をしかけてきた。その結果が現状である。
瓦礫の山の中心で、沢田綱吉は幼い子どもを腕の中に庇う形で蹲っていた。
幼い子どもはこの孤児院に住んでおり、今回の攻撃の中で逃げ遅れていた。崩れる孤児院の中で組織と戦いを繰り広げていたのが、子どもを抱きかかえる沢田綱吉だった。
沢田綱吉は、逃げ遅れた子どもを攻撃から庇いながら、何とか敵を一掃することに成功した。ホッとしたのも束の間、二人の頭上に大きな瓦礫の影が差す。最後の一撃で体力を使い果たした綱吉は、死ぬ気の状態は解けないものの、身体がうまく動かなかった。別の場所で戦っていた守護者たちも間に合わない。それを理解したリボーンが、咄嗟に死ぬ気弾を打つ。それを額に受けて二年ぶりに死ぬ気の到達点へ至った綱吉は、瓦礫を拳一つで破壊した。
安堵できたのはそこまでだ。
到達点から戻った綱吉は、その場に蹲って動かなくなった。この様子は、リボーンも覚えがある。その後に起こることも、容易に予想がついた。
「おい、ツナ」
「リボーン……」
駆け寄って肩を叩くと、何かを堪えるような声が返って来る。
リボーンはもう一度舌を打って、通信機のボタンを押した。
「至急、ジャポーネ行の航空機を用意しろ。それと、シモンの連中に連絡だ」



二年前。初めて死ぬ気の到達点へ至ってから、二週間後のこと。イタリアから日本へ戻ってきたリボーンは、綱吉の様子が可笑しいことに気が付いた。
どうやら死ぬ気の到達点時に大量の炎を放出したため、後遺症として炎が垂れ流しになっているようだと気づいたのは、帰宅から一週間経ってからだ。
やけに雲針鼠が肩に乗っている姿を見かけると思ったら、先にそれに気づいていた雲雀の仕業だったらしい。雲の炎で大空の炎の保有量を増やしていたのだ。同じ属性のディーノや白蘭が補給の名目で炎を渡してみたこともあるようだが、流出自体は抑えられなかった。ただ一つの方法を除いては。
「ツナくん!」
並盛のホテルに着くと同時に、事前連絡を受けていた炎真が駆けこんでくる。綱吉の周りをボンゴレの守護者たちが取り囲むように、彼の数歩後ろにはシモンの守護者たちが控えていた。
「頼むぞ、エンマ」
リボーンは綱吉の横たわるストレッチャーから飛び降り、炎真を見上げた。炎真はコクリと頷き、綱吉の手を握る。綱吉の指が炎真の手を握り返すと、赤と琥珀の瞳が交わった。
「……ごめん、エンマ」
「大丈夫だよ、ツナくん。任せて」
ボンゴレの救急スタッフが引くストレッチャーに、炎真は追走する。そうして、彼らはホテルのエレベータへと乗り込んでいった。
「今回は、どれほどでしょう?」
「二回目だからな。ツナもエンマもコツを掴んでるといいんだが」
獄寺は不安気にリボーンを見やる。山本の肩に飛び乗り、リボーンはため息を吐いた。
ただ一つの方法、それは大地の炎で綱吉をコーティングして炎の流出を抑制するというものだ。
初めて流出が確認されたとき、二人はこれを無意識のうちに行っていた。無意識の行いだったからか、初めてのことだったからか。リボーンたちがその有用性に気づく頃には、二人は力の殆どを炎の抑制に持っていかれており、最低限の生命活動を維持するために三週間ほど眠り続けた。
目が覚める頃には綱吉の炎の流出も治まっており、守護者を始めとする関係者は皆胸を撫で下ろしたものだ。
二度と起きないよう気を払ってはいた。しかし、今回再び起きてしまったのは、綱吉の力不足だけが原因ではない。
「……俺としたことが」
小さく呟き、リボーンはボルサリーノのつばをグイと引き下げた。



死ぬ気とは。
「身体に打ち込んだ特殊弾を起点とし、そこから死ぬ気のエネルギーを燃え上がらせることで起こる現象だ。死ぬ気丸はそれの応用だな」
リボーンの説明に、山本は理解が追いつかないようで目を白黒させている。隣で眼鏡をかけた獄寺は頻りに頷き、ノートにメモを綴っていた。
「死ぬ気の到達点は、死ぬ気状態の身体へさらに特殊弾を撃ち込んで、つまりは死ぬ気を乗算させた状態だ。その分、死ぬ気の炎を多く垂れ流しやすくなる」
そこでリボーンは言葉を止めた。
理解しようと努力する姿勢は見られるが、如何せん元々身体で考えるスタイルの山本と笹川は限界がきたようで、プスプスと耳から煙を出している。
「ものすごく噛み砕いて説明してやる。ビーチボールでも想像しろ。ビーチボールがツナで、そこに溜まった空気が死ぬ気の炎だ。いつもの超状態は空気穴を開いて細く空気を流した状態。死ぬ気の到達点は空気穴を無理やり大きくし、垂れ流す空気量を多くしている状態だ」
空気穴の蓋を閉じれば流出が収まる超状態と違い、後者の穴を塞ぐのは容易じゃない。救いはビーチボールと違い、自然と穴が塞がっていく点か。しかしそれには時間がかかり、その間も死ぬ気の炎は垂れ流されていく。そこを、古里炎真の大地の炎で抑え込む。
それが、ヴェルデ他元アルコバレーノたちが出した、代理戦争後の沢田綱吉の身に起こった一連の出来事に関する考察だった。
プスプス煙を吐いた山本は、頭に手をやりつつ口を開く。
「つまり……古里ならツナを救えるってことだな?」
処理しきれない情報に、彼の瞳は揺れていた。しかしじっとリボーンを見つめるそこには、縋るような光が宿っている。スピスピ鼻を鳴らして寝こけていたランボの頭を蹴り飛ばしたリボーンは、そんな山本の瞳を見返して小さく息を吐く。
「ああ、そうだ――しかしその間二人は無防備になる。ツナの命を繋ぐ代わりに、敵から身を守る術を放棄しちまってんだ」
「そこを守るのが、」
混乱から帰った了平が、右の拳を左手の平に叩きつけた。
「俺たち守護者なのだろう」
ランボは目を擦りながら起き上がり、山本と獄寺はコクリと頷く。クロームもギュッと大切な武器が入った鞄を抱きしめた。少し離れた場所で壁にもたれていた骸は小さく息を吐き、反対側に立っていた雲雀はこれ以上聞く話はないと言うようにさっさと部屋をでていった。
「その通りだぞ」
ニヤリと笑ってリボーンが肯定したのも、二年前のこと。



そのときの言葉のままにすべき時が来たのは、炎真と綱吉がホテルにこもって一週間経ってからだった。
「反ボンゴレ組織の筆頭であるマフィアが、日本へ入国したという情報が入った」
アーデルハイト率いるシモン招集の下、獄寺たちはホテルの一室に顔を揃えていた。ボンゴレが特別に借りた会議室である。雲雀と骸の姿はなかった。
アーデルハイトの差し出した資料を読んで、獄寺は眉間に皺を寄せた。
「こんな情報どこから……」
「情報元はそちらだ、ボンゴレ。雲雀恭弥が風紀委員会を使って掴んだ情報だ」
しかし独自の立場を貫くかの男はそれを獄寺たちに伝えることはしなかった。アーデルハイトはたまたま草壁が雲雀に報告する場面に遭遇しただけだ。そこまでの義理も興味もないと言い捨て、雲雀はアーデルハイトに向かって資料を放り投げたという。
「あの野郎……」
「まあ、ヒバリらしいな」
「……それで、何故お前らシモンがそれを拾ってまでこちらに情報を流したんだ?」
それもアーデルハイトだけでなく他のシモンのメンバーが揃う中で、とリボーンが問う。アーデルハイトは頬にかかる前髪を払った。
「そのマフィアが、ボンゴレ・デーチモの炎エネルギーだけでなくシモンの……エンマの大地の炎も狙っているからだ」
つまり、シモンとボンゴレ、共通の敵なのである。目的は一緒。獄寺は山本たちと顔を合わせ、それからリボーンを見やった。
ボルサリーノの影に顔を隠したヒットマンは、じっと口を引き結んでいる。
「頼む、先輩」
彼の前に飛び出して膝をついたのは、スカルだ。スカルはヘルメットを取り去った頭を下げて、リボーンに請う。
「俺は……俺たちはエンマを守りたいんだ」
スカルの言葉を肯定するように、アーデルハイトたちは真っ直ぐボンゴレを見つめる。彼らもまた、一人のボスの下に集った守護者であった。
獄寺たちの視線を背中に受けながら、リボーンは口角を持ち上げた。
「いーんじゃねぇか? ボンゴレとシモン、共同戦線だ」
その言葉を聞いた途端、スカルは緊張の糸が解けたというようにへたり込む。
シモンもボンゴレも、その提案に異を唱える者はいなかった。



敵は既に日本に入国している。並盛へ到着するまでそう猶予はないだろう。早急に戦力を確認し、適切な作戦を立案する必要がある。
机の上に並盛の地図を広げ、獄寺たちはその周りを取り囲む。眼鏡をかけた獄寺はペンをとり、クルリと円を書きこむ。中心地に設定したのは、このホテルだ。
「敵は反ボンゴレを掲げるマフィア。九代目からの追加情報によると、九代目の就任直後に思想の相違から同盟を破棄。以後、ボンゴレのテリトリーから離れた場所で活動していたようだ」
リボーンが九代目からの手紙を読み上げる。
九代目からの支援は、この情報と綱吉たちについている数人の医療スタッフのみ。スカルやリボーンが推測した敵マフィアの並盛襲撃日までに、イタリアから増援がやってくるには時間がない。それでもできることを、と九代目はイタリアでの敵マフィアの動向を探ってくれているらしい。
「キャバッローネと門外顧問チームは?」
「跳馬は商談のためイタリアを離れているそうだ。門外顧問も移動時間はボンゴレ本部隊と同じだ、期待は薄い」
アーデルハイトの問に、獄寺が答える。
「結局、僕らだけでやるしかないのか」
腕を組んだ紅葉は眉間へ皺を寄せた。シモンの守護者六名とボンゴレの守護者六名、それに元アルコバレーノ二名。戦力としてはまずまず。
「それで、こちらから作戦の提案がある」
獄寺はそう言って、大量のメモを机に広げた。鉛筆で幾重にも書き直した後があるそれらは、どうやらこれから提案する作戦内容のメモらしい。さすがペンと紙から入る理論派、と山本はコッソリ苦笑した。さらには守護者たちをそれぞれ模したらしい駒まで用意してある。後から聞いた話では、これは将来イタリア本部で綱吉を含めた十代目ボンゴレファミリーでの作戦会議で使うことを夢見て、せっせと拵えていたものだったようだ。
「まず……――」
自分のメモを見ながら、獄寺は地図の上に駒を並べる。全て説明し終えたところで地図に並ぶ駒とその位置を見回し、アーデルハイトはフムと頷いた。
「こちらは大きな異論はない。どうだ、スカル」
「ああ、文句なしだと思うぞ。シモンとボンゴレの連携頼みなところは、まあ懸念点といえばそうだが」
元カルカッサの軍師を務めていたスカルも同意する。それからチラリと、スカルはリボーンを見やった。始終沈黙を貫いていたヒットマンの言葉が、気になったのだ。
「……まあ、及第点だろうな」
「リボーン先輩……」
「スカル、これは俺たちが多く口を出すことじゃねぇ。ボンゴレの次期十代目ファミリーと、シモンの次期十代目ファミリーが事を収めてこそだ」
先代や同盟ファミリーという実力者たちの後ろ盾がないホームで、後継者たちの力のみで障壁を排除してこそ、他ファミリーへの宣伝にもなるのだ。
「極限任せろ。パオパオ老師の期待に応えて見せるぞ!」
「ふ、結局、貴様だけでは力不足だ」
「なにおう!」
バチバチと睨み合いを始める格闘家を余所に、リボーンはチラリと部屋の隅へ視線を向ける。
「で、お前はどうする、六道骸」
雲雀恭弥のように不参加を貫くこともせず、クローム髑髏のように机を取り囲む様子もみせず、男は扉近くの壁に背をもたれていた。リボーンの言葉に、他の守護者たちの視線も彼へ集まる。クロームはどういう態度をとったら良いのか迷っている様子だ。
腕を組んだ骸は、フッと鼻から息を吐いた。
「僕にも愚かなマフィアの一員として守護者の使命を全うしろ、と……そう言いたいがために僕をここへ引っ張ってきたのでしょう、元アルコバレーノ」
「話がはえーじゃねぇか」
「冗談じゃない」
リボーンの言葉を、骸を素気無く切り捨てた。
「僕は確かに霧のリングを受け取り、霧の守護者を承諾しました。しかし、沢田綱吉を守護することまでは約束したつもりはない」
「そう言うと思ったぞ」
聞き分けのない子どもを相手にする母親のように、リボーンはわざとため息を吐く。骸の額に筋が一本立った。
「ま、霧のイヤリングを持つクロームがいるからな、お前はいなくてもいいぞ」
「リボーンさん」
それで良いのか、と獄寺は思わずリボーンの名を呼んだ。しかし彼も、骸の扱い辛さは雲雀と同等であることを理解していたので、強く否定することもできない。
「骸が抜けても、こっちには二人術士がいる。まあ十分だろ」
「お、俺ちん期待されちゃってる?」
同じ術士としてよろしく、とクロームに手を伸ばす加藤を、アーデルハイトが顎を叩きあげて止める。
骸はフンと鼻を鳴らすと、霧のように姿を消した。
「でも小僧、本当に良いのか?」
「これでこちらの守護者は本当に五人になってしまったぞ」
「結局、貴様らは僕らシモンの力頼みなのではあるまいな?」
興奮気味の紅葉へ、落ち着くようにらうじが声をかける。
「戦闘の配分はともかく、戦力として不足はねぇよ」
獄寺がきっぱりと言い切ると、それまでプカプカと天井に浮かびながら地図を見下ろしていたシットピーはピョンと彼の背中に抱き着いた。
「ウン、獄寺クン頑張ってる」
「げ、いきなり抱き着くな!」
「よーしよーし」
獄寺の胴に足を絡め、シットピーは彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「獄寺クンたちは可愛いね。可愛くて強いんだ。私たちはそれをよく知ってるよ」
ピョンともう一度跳ねて、シットピーはアーデルハイトの傍らに着地した。自由な彼女に吐息を漏らしつつ、アーデルハイトは「そうね」と同意する。
「そちらの実力は、我らもよく知っている。経験も。そのうえで、そちらの作戦に乗りましょう」
「決まりだな」
ニヤリ、とリボーンは細く笑む。
地図に並べられた十二の駒。その並びが実際の並盛の町へ再現されるまで、あと二日。



夜の帳に周囲を囲われても、荘厳なホテルは強い存在感を失わない。まるで中で炎でも燃やしているように、爛々と光を放っている。
ホテルに近い木の枝に身体を乗せ、雲雀恭弥はじっととある一室の様子を伺っていた。
ぴっちりと閉まっているガラス戸は、カーテンによって室内をこちらへ見せない。暫く待って気配一つ現れない。雲雀は身軽な様子で、その部屋のベランダに飛び移った。
冷たいガラス戸へ手を添える。鍵はかかっていなかった。雲雀は微かに眉を顰めた。まるで誘われているような気がしたのだ。
雲雀はしかし手の力を緩めず、カーテンを揺らす夜風と共に部屋へ滑り込んだ。
月明かりしか光源のない、薄暗い部屋。辺りへサッと視線を向けた雲雀は、部屋の中央で目を止めた。
「……」
「何の用だ、雲雀」
声をかけられ、雲雀は僅かに肩を揺らす。何気なく視線を向けた先では、黒衣のヒットマンが優雅に足を組んでソファに座っていた。
「赤ん坊」
「まあ、お前なら来ると思ったぞ」
ガラス戸の鍵を外していたのは彼らしい。雲雀は一つ嘆息した。
「不用心、と言っておけばいいのかな」
「俺がいるんだ、下手な手は出させねぇぞ」
リボーンはニヤリと笑う。雲雀は部屋の中央に視線を戻した。
「何だい、あれ」
「お前は初めて見るか? エンマとツナだ」
「小動物?」
雲雀は深く眉間に皺を刻んだ。リボーンの言葉が、にわかに信じ難かったのだ。
それは、赤い結晶だった。確かに高校生二人程度飲み込みそうな大きさである。燃え上がる炎がそのまま凍ったような、少々歪な形をしていた。リボーン曰く、あれは繭なのだと言う。
「ツナの死ぬ気の炎の流出を抑えるために、エンマの炎でコーティングしてるんだ。その際、シモンとボンゴレの血が共鳴し合うのか、あんな形になっちまってな」
リボーンの言い方では、彼らもその仕組みを解明しきれていないようだ。雲雀は「ふうん」とだけ返して目を細めた。
「こんな状態だから、風紀の執行はまたの機会にしてやれ。お前のことだ、並盛を荒らす輩を呼ぶ元凶となったツナたちを、取敢えずぶん殴ろうと思って来たんだろ」
「……そうだね、そのつもりだったけど、あれじゃあ咬み殺しがいがないな」
トンファーを握った手を緩め、雲雀はつまらなさそうにため息を吐く。
「しょうがないから、先に草食動物の群れから咬み殺そうかな。小動物たちは後回しにしておいてあげる」
「雲雀」
サッサとベランダへ出て手すりに足をかける雲雀を、リボーンは呼び止めた。片足を手すりに乗せた状態で、雲雀は顔だけで振り返る。
「ボンゴレとシモンの作戦決行は二日後だ。そのときは姿を見せるんだろうな」
「……どうかな。僕は僕のしたいようにする。僕の並盛を荒らされたなら――売られた喧嘩は買う、それだけだよ」
夜風に遊ばれ、黒い髪が頬の上を踊る。目を細め、口端を持ち上げる雲雀の横顔が、月明かりに照らされた。
「前にも言っただろう、赤ん坊。僕を利用できると思わないことだ」
雲雀は手すりにかけた足を軸に飛び上がると、夜の闇へ消えていった。
黒い衣を纏った青年の姿はすぐに見えなくなる。彼の残滓といったら、開放されたままのガラス戸だけ。
リボーンは鼻から深く息を吐き、ボルサリーノに触れた。
「……全く、期待通りに動く守護者ばかりだな」
ボソリと呟いた言葉を拾い上げる者は、いない。
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