4−2
診療所周辺を散策していた隆志と晄は、チラリと揃って視線を向けた。そこには二人のパートナーと一緒に木の実を摘む仁のゴマモンの姿。本人は否定しており、ブイモンやプロットモンも困惑しているが、明らかにプンプンと機嫌が悪い。さもありなん、と晄はある程度察しているのだが、口には出さないでいた。
「あ、あのデジモン、早く目が覚めるといいな」
「ばか!」
空気に耐えられなかったのか、ブイモンが思わず溢す。隆志は思わず直接的な言葉を叫び、プロットモンはため息を吐いてブイモンの口を耳で覆った。
ゴマモンは一度ピクリと反応したものの、特に声を荒げる様子もなくプイと顔を背けた。
「……分かってる。ジンは、傷ついた人やデジモンを、放っておけないんだ。……でも、時々不安になる。オレっちが、仁のパートナーなのに、って」
それが彼の良いところで、同時にゴマモンにとっては時々寂しく感じるところだ。シュンと耳を垂らすゴマモンを見て、隆志は呆れたと吐息を溢した。
「お前は仁のパートナーだろ。それは俺たちだってよく知ってる」
きっぱりとした言葉に晄は思わず苦笑し、眉を顰めるプロットモンと顔を見合わせた。
「でも……」
「ここにいるブイモンは俺のパートナーだし、プロットモンは晄のパートナーだ。あそこにいるのは丈さんのパートナー。同じ種族だってそれは変わらないし、揺るぎないものだろ」
例え仁が他のデジモンを優先することがあっても、パートナーであり背中を預けられる存在は唯一の筈だ。
ゴマモンだけでなく、晄やプロットモンも目を丸くした。ブイモンは嬉しそうな顔をして、隆志の腕に頭を擦りつける。
晄は思わず、フッと息を吐いた。
「隆志くんて……さすがだね」
「はあ?」
「というか、乱暴すぎる気もするが」
「プロットモンまで、何だよ!」

彼らの様子を、当の仁は診療所の開いた窓から眺めていた。
「気になるか?」
傍らの椅子へ、よいしょと丈のゴマモンが乗り上げる。仁は突然声をかけられたことで肩を揺らしたが、すぐに視線を床へ落とした。その横顔を見て、丈のゴマモンは大きく息を吐く。
「……親子だなぁ」
「え?」
「こっちの話。気になるなら声をかけてやればいいだろ」
丈のゴマモンの言葉に、仁は言葉を濁した。
「僕、は、」
バキ。掠れるような仁の言葉を、かき消す物音。それは、隣室から聞こえて来た。

「きゃああ!」
ミズホと幼いデジモンたちの悲鳴に、隆志たちはハッと顔を上げた。見ると、診療所の一角に何やら白いものが集っている。
「あれは、バケモン?!」
「どうしてここに……」
眉を顰める晄の思考は、次の瞬間に放棄せざるを得なかった。バケモンが診療所の窓から引っ張り出したのは、幼年期デジモン。それを奪わせまいというようにしっかりと抱きしめたミズホは、バケモンの腕から振り落とされて地面へ尻餅をついた。
「ミズホちゃん!」
「この!」
襲われる仲間の姿に隆志は歯を噛みしめた。ブイモンもカゴを置き、グッと力を込めるように拳を握る。隆志はチャキとデジヴァイスを構え――
「……あれ?」
しかし何も起きず、力んだブイモンが口から息を吐くだけだ。
「どーしたんだよ、ブイモン!」
「腹減った……」
「はあ?!」
ぐぅぅと鳴る腹を抱え、ブイモンは座り込む。こんなときにエネルギー切れとは。ブイモンのまま飛び掛かることも頭に過ったが、この様子では返り討ちにあってしまうだろう。
隆志が逡巡する間に、小さな影が飛び出した。
「だぁあ!!」
幼年期デジモンへ再び襲い掛かろうとするバケモンへ、ゴマモンが重い頭突きを叩きこんだ。半べそをかくデジモンを背後に庇い、ゴマモンは大きな瞳で精一杯睨みを効かせた。
丁度、物音に気付いた仁が、佳織やリラを伴って外へ飛び出してきたところだ。
「いきなり何の用だ!」
「オマエに関係ナイ。邪魔スルナラ、」
バケモンは襤褸の裾から黒い手のようなものを伸ばした。それを避け、バケモンへ向かって飛び掛かったゴマモンは、しかし多勢に無勢、あっと言う間に地面へ叩きつけられてしまう。
「ゴマモン!」
慌てて仁は駆け寄り、ゴマモンを抱き上げた。無防備な彼らへ向かって、バケモンが光線を放とうと手を翳す。
「じん……オレっち……」
擦り傷だらけの身体を抱きしめ、仁はキッとした睨みをバケモンたちへ向けた。
「……君たちのやらなければいけないことが、他のデジモンを傷つけることなら……僕はそれを全力で止める!」
仁の言葉に、デジヴァイスから灰色の光が溢れる。
「ゴマモン進化――!」
それは、話に聞いていた色と似ていた。
「イッカクモン!」
白い巨体でズシンと地面を揺らし、イッカクモンは角を持った頭を振り上げた。バケモンたちを見下ろすような視線に、相手はたじろぎ身を寄せ合う。
(そうだ、あれは、心の欠片――)
晄は思わず、胸元を握りしめた。熱く脈打つ存在を感じない、冷たい布を握りしめる。
「……」
「ハープーンバルカン!」
轟音が、鼓膜を揺らした。イッカクモンの頭頂から放たれた黒い角が、バケモンの一体を吹き飛ばした。呆気に取られる他のバケモンも、多くなった前ヒレで吹き飛ばす。
「オレっちの前で、ジンの前で、誰も傷つけさせない!」
「イッカクモン……」
頼もしい相棒の姿に、仁は頬が火照るのを感じた。それを悟られないよう、そっと白い体毛へ擦りつけて隠す。
診療所の入り口で見守っていた丈のゴマモンは、そんな二人の様子を見てホッと息を吐いたのだった。
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