一日目〜opening2〜
「すごいポケモンばかりだ……」
「だな……あ」
サトシは何かに気づいたように声を上げ、手すりから身を乗り出すようにして腕を伸ばした。こんな場所で危ない、と彼を止めようとしたシューティーは一層大きくなった歓声につられ、思わずステージを見やった。
「最後はこのお二人! カントーチャンピオン、オーキド・グリーンとカントーリーグ最年少優勝者、マサラタウンのレッド!」
ハッサムを連れたクールな雰囲気の青年と、鍛えられたニョロボンと一緒に観客席へ手を振る青年。
ドキリ、とシューティーの胸が高鳴った。憧れるトレーナーが多い、カントーリーグ優勝者をこの目で見ることができるとは。シューティーは、そこまでレッドに強い憧れを抱いていないが、有力トレーナーとして名前と存在は良く知っていた。
ふと、レッドの視線がこちらで止まったような気がして、シューティーの息が一瞬詰まる。いや、こんな大人数の中、シューティーと目が合うわけがない。しかしふわりとした笑みで手を振られてしまうと、シューティー一人に手を振ってくれていると勘違いしてしまいそうだ。
「兄ちゃーん!!」
ドキドキとしていたシューティーの胸は、隣から聞こえたそんな声にヒュッと鷲掴みにされた気分になった。
「……え?」
「ん?」
手を振って満足したのか、サトシは乗り出していた身を戻す。肩のピカチュウはまだレッドの方へ手を振っていて、レッドも大きく口を動かして何かを叫んでいるようだった。それが「サトシ」の形に見え、シューティーは眩暈のする頭へ思わず手をやる。
「……兄ちゃん?」
「え? あ、うん。レッド兄ちゃんは俺の兄ちゃん」
サラリと告げられた衝撃の真実に、シューティーの意識は飛びかけた。

「おい、レッド、それくらいにしておけ」
「あ、悪い。サトシを見つけたもんで」
今は仕事中だから、あまり私情を挟むべきではない。グリーンの言うことは最もなので、レッドは素直に手を下ろした。
「サトシ、友だちと一緒にいるみたいなんだよ。後で紹介してもらえるかな」
「……だと良いな」
サトシが、カントーリーグ優勝者の兄がいることを事前に伝えていることはないから、驚かれてしまうだろう。顔も名前も知らぬその友人を、グリーンは少し不憫に思った。
「来賓の方々には、バトルトーナメントを観戦していただき、最終日にはエキシビションマッチを披露していただく予定ですので、こうご期待!」
トウコは目でスタッフに合図する。頷いたスタッフは持ち場につくのを確認し、トウコはチラリとチャンピオンたちを見回した。
「では!」
ぶわ、とステージの上空をたくさんの風船が覆った。これが開幕の合図か、と観客が感心したとき。
「ブレイク、はかいこうせん!!」
光の柱が立ち、風船が割れた。風船からさらに飛び出したのは、キラキラとした紙吹雪だ。
コトネに続くように、他のポケモンたちも上空へ技を打ち上げる。グレイシアとリーフィアはメタグロスに乗せられて風船まで近づき、ダゲキはナゲキの力を借りて上空に飛び上がった。
「ハッサム」
「ニョロ!」
同じように他のポケモンの力を借りて飛び上がったハッサムとニョロは、一番大きな風船へ狙いを定める。
「きりさく!」
「きあいパンチ!」
パン――風船が割れ、紙吹雪が舞う。その景色に、観客は目を奪われた。
「ポケモンフェスタ、開幕!!」
トウコの宣言の後、割れるほどの歓声が島へ轟いた。

「ひゃ〜、ものすごい演出〜」
観客席に入れず、ステージ近くの映像機器で開幕式の様子を見ていたファイツは、ひたすら熱気に圧倒されていた。
人も多いのに、こんな中で自分は役目を果たすことができるのだろうか、と不安もよぎる。
タマゲタケを抱きしめてステージから出てくる観客の波を眺めていたファイツは、ふととあるところに目を止めた。
(そんな、まさか……)
慌ててファイツは人波に飛び込む。それから見つけた人物の腕を必死の想いで掴んだ。
「――ラクツくん!」
突然腕を掴まれたことで驚いたのか、少年は足を止めて振り返る。
顔を見て微かな違和感が生まれたが、間違いようもなくポケモンスクールで一緒だったラクツだ。
「えっと……」
「あ、ごめんなさい。今は違うのかもしれないけど、私、あなたの名前それしか知らないから……」
向こうは不審そうな目でファイツを見てくる。そこで別れ際に「次出会うときは違う僕かもしれない」と言われたことを思い出し、言葉が詰まったが、ファイツはギュッと腕を握る手に力を込めた。この手を離してしまえば、あのラクツはスルリと煙のように消えてしまいそうだと思ったからだ。
「私、ラクツくんともう一度会いたくて……」
「っ」
そこで、少年の顔色が変わった。昔の潜入先の知人に出会った焦りではなく、何か憎い人物の名前を聞いたといった風に目を吊り上げる。
思わずファイツはだじろぎ、タマゲタケはムッと顔を顰めた。
「アイツの知り合いか……」
「え、あの……」
「人違いだ」
拒絶する、冷たい声だった。
「俺を、あんな冷酷人間と一緒にしないでくれ」
声色は違うが、似ている音がある。それほど、目の前の人物はラクツにそっくりだった。しかし相手は人違いだと言う。そこで引けば良いのだろうが、ファイツの身体は固まって動けなくなってしまった。
「キョウヘイ」
沈黙が落ちる二人の間に、そんな声が落ちる。現れたのは、ファイツも見覚えのある顔だった。
「あれ、君は……」
「あ、Nさまと一緒だった……」
青白い顔のファイツと、すっかり沈黙して俯くキョウヘイ。二人の顔を見回して何かあったことを察したブラックは、顔を顰めた。
「取敢えず、一緒に行こうぜ。ここじゃ邪魔になる」
ブラックに促され、漸く動かせるようになった足でファイツは彼の後について行った。
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