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ジョウト地方、とあるポケモンバトルフィールドで、二人のトレーナーが相対していた。
片方はやる気満々に身体を伸ばすコトネ、もう片方は戸惑いを隠せないヒビキだ。
観客席に座り、ゴールドとクリスは若干呆れた様子で二人を見守っている。無理矢理審判を任されたソウルは、キリキリと痛む胃を抑えた。
「何でこんなことに……」
「聞いたんだからね、ヒビキくん!」
コトネは手に持ったボールをビシリと突きつけた。
「ミュウツーさまと会話したらしいじゃない!」
誰が言ったのだ。ヒビキとソウルは心の中で毒づいた。
女子にしてはド派手な攻撃バトルを好むコトネは、最強のポケモンを自称するミュウツーに憧れを抱いていた。本人曰く、そのフォルムも好みのストライクゾーンに入るのだとか。
だから出会ったことは黙っていたのだが、どこかで情報が漏れてしまったらしい。
「ああ……でも緊急事態だったからで、その後実力が伴わないからって無視されちゃったし……」
「でも勝てばお話してもらえるんでしょ!」
ならば! とコトネは拳を握る。嫌な予感がする、とヒビキは思わず目を逸らした。
「まずはヒビキくんにリベンジするわよ!」
チャンピオンになって以来、コトネが敗北したのはヒビキと対戦した一度きり。本来ならばチャンピオンの座を譲るところなのだが、ヒビキの希望により――ファイアに惨敗したことが主な理由だ――コトネが続投しているのだ。一応は承諾したものの、やはりコトネは納得していなかったらしい。
「その次は――私を騙してくれた――ゴールドくんね」
にこやかな笑顔で、コトネは観客席へ向けてウインクを飛ばす。ゲッとゴールドは顔を顰めた。クリスは申し訳なさそうに、気の毒そうにゴールドへ頭を下げた。
「行くわよ、ヒビキくん!」
「ああもう……」
ヒビキは溜息を吐いた。それから帽子をかぶり直し、ボールをとりだした。
「分かったよ、コトネちゃん」
「そうこなくっちゃ!」
(もう止められないか……)
ソウルも溜息を吐き、覚悟を決める。両者が準備できたことを確認し、ソウルは手を挙げた。
「バトルスタンバイ――レディ、ゴー!」
ヒビキとコトネは同時にボールを投げた。

「イッシュ地方?」
「そう。次はそこへ行ってみたいなって」
のしかかるベイリーフを撫でながら、サトシは頷いた。ヒカリはポッチャマの毛づくろいの手を動かしながら、小さく頷く。
「どうかしたのか?」
「心配するに決まっているかも。あんなことがあってすぐ、また旅に出たいなんて」
膝に乗ったエネコを撫でながら、呆れたと言った様子でハルカは肩を竦めた。そういうものだろうか、とサトシが首を傾ぐと、当たり前だろうとシゲルが頭を小突いた。
「でも旅じゃなくて、観光で行きたいんだ」
「観光?」
「そう。シゲルと約束したんだ。な?」
サトシが笑いかけると、シゲルは言葉を濁した。ハルカとヒカリの生温かい目に、居心地が悪かったのだ。
「そんな約束していたんだ〜シゲル」
「へ〜。二人で?」
「いや、ママとオーキド博士と、兄ちゃんたちも」
「ふーん」
「もう勘弁してくれ……」
女子二人の視線に耐えきれず、シゲルはがっくりとうなだれた。三人の様子に首を傾げながら、サトシはベイリーフやブイゼルたちに押し潰されるほど甘えられていた。
「あ」
微かに聴こえた音に反応し、サトシは立ち上がる。シゲルたちも気づいたようで、微笑んで音のした方を見やった。
「帰ってきた」

「羨ましいですか?」
ぼんやりと光景を眺めていたシルバーは、そう声をかけられた。
驚いて横を見やると、麦わら帽子を外したイエローがニシシと笑った。シルバーはそっと目を逸らし、「……ゴールドか」と呟く。
「当たりです。ゴールドさんが、シルバーさんが羨ましがっているって」
「アイツは本当に余計なお世話……」
「同じトキワ組として、ご協力しますよ」
イエローはニコニコと笑いながら、シルバーの前へ躍り出て顔を覗きこんだ。シルバーは少し赤らんだ頬を見られないよう腕で擦った。
「……考えておく」
「はい!」
楽しみにしています! ――イエローは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「お前なぁ、こんなときまで迎えに行かせるなよ」
「うるさいなぁ……来なくても良かったのに」
ブツブツと傍らのJr.の小言を聞き流しながら、ファイアは欠伸を溢した。リーフはクスクスと笑った。
「ファイア、Jr.は好きでやっているんだから、気にしなくて良いのよ」
「好きで……?」
「ば、リーフ! お前!」
「Jr.」
じ、とファイアはJr.を見つめる。ただでさえ血が昇りかけていたJr.の顔は、すっかり真っ赤になった。
「……送迎が趣味だなんて、変わっているね」
「そうだと思ったよ!」
目尻に浮かぶ涙を拭い、Jr.は吐き捨てる。クスクスと笑いながら、リーフはファイアの腕に抱きついた。ファイアはリーフと顔を見合わせ、小さく笑う。
「まだまだね、Jr.」
「だね、Jr.」
「へ?」
べえ、と二人揃って舌を出し、手を繋いだまま駆けだす。
幼い頃双子のように手を組んでからかってきた二人の姿と重なり、Jr.はまた遊ばれていたことを悟ったのだ。
「お前らー!」

「賑やかねぇ」
少し離れたところから聴こえてくる声に、ブルーはホホホと笑う。従兄と知られるのは恥だな、とグリーンは心の中で呟いた。乾いた笑い声を上げ、レッドは頬を掻いた。
「レッド」
ブルーがレッドの腕を引き、わざと自分の胸に押し付ける。大分慣れたレッドは照れもせず、慎みがないことを注意した。
「もう、心構えはできた?」
似たような境遇だったブルーだから理解できる。緊張するものだ。
レッドはくしゃりと微笑んで頷いた。
「ああ」
グリーンも口元を緩めて、レッドの頭を撫でた。
遠くから、レッドを呼ぶ声がする。顔を上げると、家族たちが手を振っている姿が見得た。逸る心と足を何とか押さえつけて、レッドはブルーたちと一歩一歩進んだ。一度小さく呼吸。
「――ただいま」
「おかえりっ!」
言葉と一緒に腕へ飛び込んでくる二人の弟を、レッドはしっかりと抱きしめる。
雨粒一つ降っていない空に、鮮やかな虹の橋がかかっていた。
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