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「でも、どうやって抜け出すんだよ」
自分たちは世界樹の身体に入りこんだ雑菌として吸いこまれたのだ。出口も入口も、果てさえ見得ぬ黒い空間。
「……」
「あ、恰好良く言ったくせに、何も考えていなかっただろ」
レッドのことを向こう見ずな無計画男と散々言っていたくせに。グリーンはそっぽを向いた。
「ん?」
何かの気配を感じ、レッドは上を見上げた。そして予想外の光景に、二人は口元を引き攣らせた。

「え」
足元に広がった黒い穴。ハルカは慌ててマサトを抱きしめ、サファイアとブルーは急に襲った浮遊感に言葉を失った。
「いやあああ!!!」
「何ね、急にぃいい!!!」
そして急に、落下。マサトはハルカの腕の中でタマゴを抱きしめた。
作戦開始前、ゴールドに言われたことが頭の中に浮かんだ。
――お前、ポケモンのタマゴ持っているのか。しっかり抱きしめて離すんじゃねぇぞ。お前の想いを受けて、ポケモンは生まれてくるんだ。
(僕の想いを受けて生まれる……ポケモン――!)
ぴき、とタマゴにヒビが入る。そろりと目を開けると、眩い光がヒビの間から零れていた。
「まさか、このタイミングで――?!」
パン……。
「リ、グレー!」
マサトの腕から飛び出したのは、人間のような四肢を持つ卵型の頭をしたポケモン。
マサトたちは初めて見るポケモンで、名前が分からない。しかしそのポケモンは嬉しそうに笑い、両腕を天へ伸ばした。
「リー、グー!」
ぴたり、と落下が止まった。フワフワと、薄く発光しながら宙へと浮くのはマサトとハルカだけでなく、シンジたちもだ。
生まれたてにも関わらず、六人もの人間と数匹のポケモンを宙に浮かせることができる念動力を持つとは。
「タマゴが孵ったのか……」
「初めて見るポケモンかも……」
シンジは近くに漂っていたサトシの身体を捕まえる。ホウオウとレジスチルたちの姿はない。穴が現れた直前で退いたのか。
ひとまずブルーたちがポケモンをボールへ戻したところで、タマゴから生まれたポケモンがマサトの元へ寄ってきた。
「君は……」
「リグレー!」
「リグレー?」
マサトが聞き返すと、肯定するように首を振る。一先ずはそう呼ぶことにしようとマサトは決めた。
リグレーはスイーと海の中を泳ぐように飛んで、マサトたちを先導した。リグレーの念動力によって、マサトたちの身体は光の射す方へ向かって行った。

光を抜けると、そこは視界の半分を空が占める場所だった。足元は苔の生えた岩場。少し視線を動かすと、遙か下方に広がる山々が見得た。
(まさか、始まりの樹の頂上……?)
ヒュウ、と風が吹いてブルーの髪を揺らした。
「ブルー」
名を呼ばれて、ブルーはハッとして振り向く。そこにあった光景に、青い瞳を見開いた。
シンジに支えられるまま、サトシは足をついた。まだショックが抜けていないのか、ぼんやりとした目は虚空を見つめたまま。ピカチュウが小さく鳴いて、彼の肩に乗った。
「サトシ」
優しい声。赤く頬に涙の跡が残る顔を上げる。
何人か、人が立っているのが見得た。その中の一人が、腕を広げてこちらへ歩いてくる。サトシは目を丸く開く。ピカチュウも嬉しそうに鳴いた。視界が歪んだ。
「――シゲルっ」
サトシは駆けだし、広げられた腕の中に飛び込んだ。ピカチュウも一緒に飛び込んだので、シゲルは勢いに敗けて尻もちをつく。シンジは小さく吐息を漏らして、ピカチュウの頭から滑り落ちた帽子を拾い上げた。
「良かった……シゲルぅ……」
「はは。泣き虫だなぁ、サートシくんは」
ぽんぽん、と黒い髪を撫で、シゲルは笑った。シンジはサトシの頭に、帽子をかぶせてやる。
ハルカとマサト、そして別方向からはヒカリも駆け寄ってきて、サトシたちの無事に安堵した。
その傍らを走り過ぎ、ブルーは並んで立つ二人に突進する。
「レッド、グリーン!」
「うわ! ブルー!」
「心配かけて! このお題は高くつくわよ!」
腕を回して二人の首をくっつけるように抱きこむ。苦しいよ、とレッドが笑った。それに更に安堵が増して、ブルーは啜った鼻が見られないよう肩に顔を埋めた。
ポンポンと二人がブルーの頭を撫でていると、グズグズとした泣声が聴こえてきた。
「レッドさぁん……!」
「イエロー」
すっかりくしゃくしゃになった顔で、イエローはレッドの上着の裾を掴む。シルバーやクリスもその傍らに立って、安堵に涙腺を潤ませていた。
「レッド先輩……」
「ゴールド」
「良かったっす……」
すっかり疲れたという風に、ゴールドは微笑んでその場に座りこんだ。
その後ろでは、ルビーの腕にひっついたサファイアと、彼女を呆れるラルド、微笑ましく見守るミツルの姿もある。
レッドは何気なく、ゴールドの頭を撫でた。
「ありがとうな、ゴールド」
「……っ」
途端、ゴールドは言葉を詰まらせ、顔を伏せた。
「あれ、ゴールドさん泣いてます?」
「うっせ」
からかうヒロシを適当にあしらって、ゴールドはズズと鼻を啜った。
「でもなんで、みんなここに集まっているのよ?」
やっとレッドたちから離れたブルーは辺りを見回してそう訊ねた。
シンジたちは勿論、別行動をとっていたゴールドたち、足止めをしていた筈のルビーたちまで揃っている。「ああ、それは」とレッドがある方向を指さした。
そこにいたのは、プラチナたちシンオウ組と――ギラティナ。
再会で頭がいっぱいだったブルーたちはやっと頭が冴え、言葉を失った。ギラティナの背に乗っていたダイヤは、レッドたちのようにプラチナとパールに服を濡らされている。
ブルーたちの視線を受けて、ダイヤはそっと二人の手を握ると一緒にギラティナの背から滑り下りた。
「ギラティナは、自分の世界とこちらの世界を繋げることができるんですよ〜」
散らばっていたレッドたちを回収して回っていた、ということらしい。先ほどの穴はギラティナが空けた向こう側の世界への入口だったのだ。少しタイムラグができてしまい、迎えに行くのが遅くなってしまったと、ダイヤは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「みなさん、無事でよかった〜」
「お前もな、ダイヤ」
まだ目端に残る涙を手で拭って、パールはダイヤの手を強く握りしめた。プラチナももう片方を両手で包み、ニコリと微笑む。その温もりに、ダイヤは照れて「あはは」と笑った。
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