15:ぎんいろのねこ
スルリと、足元を一匹の猫がすり抜けていく。尻尾と頬を擦りつけるような仕草は、甘えているのだろうか。とある友人の髪を彷彿とさせる、銀の毛並みの猫。猫の種類に詳しくはないが、野良にしては珍しい毛色だと、綱吉は思った。
まだ近くに留まっていたので撫でようと腰を屈めると、サッと飛び逃げる。空をかいた手は行き場を失くし、綱吉は不自然な恰好で固まってしまった。
「ええー……」
電信柱の影に逃げ込んだ猫は、チラリと顔だけこちらへ覗かせる。誘うような尻尾の動きに、恐る恐る近づいて手を伸ばすと、またも猫は逃げた。少し先で立ち止まってまたこちらを見るので、手を伸ばすと、また逃げられる。
そんなことを数回繰り返した。最後は綱吉も意地になってしまったのだと思う。ぜーぜー肩で息をする頃には、始めに猫と遭遇した場所からかなり離れた場所に来ていた。
「あ! ぶ!」
猫はヒョイと地面を蹴って飛び上がると、綱吉の額に足を一度ついて塀に飛び移った。デコピンされたような衝撃を不意に受けて、綱吉は強かに尻餅をつく。じん、とした臀部の痛みに顔を顰めていると、それを見下ろした猫はフンと鼻を鳴らして身を翻した。
今度こそ完全に姿を消した猫に、綱吉はため息を吐く。
「あれ、ツナくん?」
立ち上がろうとしたところ、綱吉の目前の扉がガラリと開いた。そこから顔を出したのは、炎真だ。
キョトンと目を瞬かせる炎真に、綱吉も驚いて目を丸くする。
「エンマ?」
「どうしてここに?」
そこで綱吉は辺りを見回し、ここが炎真たちシモンファミリーの宿の前だと気が付いた。外から音がしたため、炎真は様子を見に来たのだと言う。綱吉は少し気恥ずかしさを覚え、頭を掻いた。
「えっと、猫を追いかけてたんだ」
「猫?」
「うん。銀色の」
炎真は少し考えて思い当たることがあったのか、ああと頷いた。
「ちょっと前から来てる猫かも。毛並が良いから家猫だと思うんだけど、他の猫にあげたおやつのお零れが気に入ったみたいで」
飼い主に知られたら怒られそうだ、と炎真は小さく付け足した。
綱吉も成程と納得した。その理由なら、猫の行き先が炎真の下であっても不自然じゃない。
(それにしても、俺を誘うような動きだった気はするけど……)
「ツナくん、折角だからあがっていく?」
「良いの?」
「うん。今、アーデルたちは買い物に行っていて、僕は留守番してたんだ」
珍しくスカルも出かけていて一人で暇だったのだと、炎真は笑った。綱吉は少し考えて、家に帰っても宿題やランボたちの相手をするくらいでさして重要な用事がなかったことを思い返し、炎真の言葉に頷いた。
「お邪魔します」
「どうぞ」
ペコリと頭を下げて、家の中へ入っていく綱吉。カラリ、と軽い音を立てて扉はしまった。
その様子を、宿の屋根から見下ろす影が二つ。
「ほら、これが報酬だ」
頬にたくさんひっかき傷を作ったスカルは、傍らの猫へ煮干を差し出す。ぴしゃんと屋根を尻尾で叩いて、猫を「にゃぁお」と鳴き声を上げた。
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