14:こわれるまで
【壊れるまで】
暗く冷たいブラックホールに身体を満たされたような姿。変わり果てた友の姿を救いたいと思ったのは、先輩や友が教えてくれた『誇り』のお陰でもある。
だから、一歩踏み出した、覚悟の炎を燃やした。
彼の身体が暗い闇に吸い込まれ壊れる前に――自分の誇りを守るために。
沢田綱吉は、手を伸ばしたのだ。

【乞われる】
「早く撃つんだ、ツナくん!」
敵を縛り付け、止めの一撃に巻き込まれる危険性を知りながらも身を引かない。そんなこちらへ希望を託す姿に、胸を打たれたのは事実だ。けれど折角守り切った誇りを、自らの手で壊すなんて。
「これは僕の願いでもあるんだ!!」
真っ直ぐな赤い瞳。重力を操る力の模様が浮かぶそれは、先ほどまで憎悪の色を向けていた。それが今は、迷いなく自らの命を懸けて自分の誇りに応えようとしてくれている。
それが、嬉しかった。そして、そんな彼を共に守ってくれようとする仲間たちの存在が、何よりの救いだった。
「ありがとう」
だからこそ、沢田綱吉も全力を持って応えることができた。

【請われるまで】
「一緒に逃げよう、ツナくん!」
言葉と一緒に掴まれた手。焦っているのか、汗ばんで熱を持っている。虚を突かれたものの、背後からの気迫が恐ろしくて言葉通りに足を動かした。
「アーデル、怒りで我を忘れてる!」
「ひいい! ヒバリさんと同じくらい恐ろしい! どうしよう、エンマ!」
バタバタと走りながら、彼はチラリと背後を見やる。
「僕についてきてくれる?」
「え?」
「今日のツナくんの時間、僕にくれる?」
どうせ我を忘れた粛清委員長の仕置きは、授業までには終わらない。なら、このまま学校を抜け出してしまった方が身のためだと、言外に彼は言っている。
「……はは」
思わず笑みがこぼれた。
「良いよ。エンマにあげる」
「ありがとう」
照れたような笑みを返されて、さらに声を上げて笑った。
沢田綱吉は同じように汗の浮かぶ手で、ギュッと手を握り返した。

【恋われるまで】
始まりは一方的で最悪だったのかもしれない。それでも、ぶつかりあって、同じ敵へ一緒に立ち向かって、手を取り合えた。笑って遊んで、時々学校を抜け出して、楽しい日々を過ごした。良い友人関係を築けていたと、沢田綱吉は思っていた。
だからこそ、その言葉は予想外だった。
「……え」
思わず、声がこぼれる。正面に座った彼は髪の毛より真っ赤な顔をして、膝の上で握った手を見つめていた。
手に持っていたコップからジュースがこぼれないよう注意して、机に運ぶ。何となく彼と同じように膝を折って座った。
「……ごめん、ツナくん」
ポツリと呟いてから、彼は先ほどと同じ言葉を繰り返した。一度スルリと耳から零れ落ちたそれは、今度はしっかり脳を揺らした。視界がぐらりと揺れる心地がした。
ゴクリ、と唾を飲みこむ。
古里炎真は、真っ直ぐこちらを見つめた。トロリとした石榴色の瞳に映る沢田綱吉の顔は、彼に負けず劣らず赤くなっている。
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