He swear to ...
(シゲサト、アニメ組)

それは、突然の襲撃だった。ホームと呼び慕っている帰る場所が、壊されていく。応戦する仲間たちを見送り、先の戦いで武器を失った足手纏いは、医療班のメンバーと共に灯りを消した部屋の中、息をひそめていた。そんな時、強く叩かれた扉と、そこから聞こえた声に。
「エクソシストだろう!」
引き留める声も聞かず、彼は。



「イノセンス発動――」
――――『神速ノ刃(ランスロット)』――――
バチリと電撃をまとう刃を、振り上げる。刃から剥がれた斬撃は床を這い、真っ直ぐ目標へ向かう。しかし当たる直前で目標にしていたアクマは、背中の羽根を使い空中へと逃げてしまった。ヒロシは舌を打ち、まだ斬撃の繋がる刃を持ち上げる。刃と一緒に斬撃も軌道を変え、宙を走った。しかしそれもまた、アクマの腕の一振りで霧散してしまう。
「駄目か……!」
「ヒロシ!」
アクマから距離をとった場所で、研究員のシゲルが声を張り上げた。その隣には、イノセンスが修理中のため早々に避難した筈のシンジとジュンもいる。驚いたヒロシは慌てて駆け寄った。
「避難した筈じゃ……」
「俺はエクソシストだぞ。アクマと戦うのが使命だ」
「俺はついてきただけ〜」
なんともエクソシトらしい答えとなんともお気楽な物言いに、ヒロシは息を吐く。君は、とシゲルに問えば、彼はアクマの足元を指差した。
「サトシのイノセンスが、まだあそこにあるんだ」
見れば、積もった瓦礫の隙間から淡い光が零れている。これはまた厄介な場所にある。どうしたものかと眉をしかめるヒロシの肩を強く引き、シンジは彼に耳打ちした。
「お前はアクマを引き付けろ。俺たちが援護するから、走れよ」
最後の言葉は、シゲルに向けられていた。それを受けとり、シゲルは強く頷く。
「―――go」
タイミングを見計らって出されたシンジの合図で、シゲルたちは物陰から飛び出した。ヒロシは真っ直ぐアクマに向かって、イノセンスを振り上げる。その後ろで、イノセンスではない普通の剣を構えるのは、シンジとジュン。シゲルはその間を縫って走る。背後で聞こえる打撃音に、肩が震えた。しかし、今ここでアレを失うわけにはいかない。
『アレ』は、自分と彼の――
「取っ――うああ!」
手が切れるのも構わず瓦礫の山を漁り、やっと光を掴んだ。と思った瞬間、背後で起きた爆発に身体は吹き飛ばされた。シゲルはごろごろと、細かい瓦礫と共に床を転がる。壁にぶつかったことで止まったが、シゲルは強かに額を打ち付け、その衝撃で握りしめていたイノセンスを離してしまった。
「痛……」
「成程」
身体を起こすと、頭上に影が出来た。思わず、身体が強張る。ゾワリと立った鳥肌も伝えている。アクマが、近くにいることを。
「『神速ノ(ラン)』……『刃(スロット)』ォォオオ!!」
派手な音がして、ヒロシ渾身の一撃がアクマの手の平へ落ちる。簡単に受け止められたことで顔を歪めた彼の影からシンジとジュンが飛び出し、左右から同時に剣を振り降ろした。斬撃を振り回してヒロシを投げ飛ばしたアクマは、その攻撃すらそれぞれ片手で止めてみせた。しかしシゲルが走り出すには、十分な時間だった。
「!?」
駆け出した彼の手がイノセンスを掴む前に、別の手がそれを拾い上げる。ハッとシゲルが顔をあげた先にいたのは――サトシだった。シゲルはペタンと膝をついて座りこんだ。
「……なんで」
「……ごめん」
小さく目を伏せて謝る彼の背後には、顰めっ面の中央庁の姿があった。シゲルが呆然とする間に、サトシはイノセンスをそっと両手で包む。すると、まるでそれが当たり前のように、固体だったイノセンスは液化した。黒々と手の平の中でたゆたうそれから視線を上げ、サトシはゆっくりと微笑んだ。
「――いってきます」
ゴクリ。
喉を鳴らす音が、シゲルの耳にやけに大きく響いた。
クラリと、サトシの身体が揺れる。シゲルは我に返り、膝を立てて崩れ落ちるサトシを支えた。
じんわりと皮膚へ触れる温もりに、目の奥が熱くなってサトシは目を固く瞑った。自分を救うためだと、彼は笑って自らも篭の中に飛び込んだ。泣き虫だった子どもは、もう逃げないと、もう泣かないと――エクソシストになることを、選んだのだ。
「……っ」
「サトシ!」
痛む身体を支える手は、酷く傷に塗れている。うっすら瞼を上げると、今にも泣き出しそうな幼馴染みの顔と、その奥に天使の形状をとるイノセンスが見えた。眩しい光を背後に背負う『それ』に、手を伸ばす。
「……俺の覚悟……受け取って、くれた……?」
言葉に答えるように広がった羽は、サトシを包み込んだ。それと同時に強まる光に目が眩む。シゲルが思わず目を閉じて、再び開いたとき。サトシはもう、立ち上がっていた。

ただ事ではない様子に慌て、まとわりつく人間を振り払ったアクマは、飛んできた光球に腕を焼かれた。否。伴う痺れが、あれは電気の塊だと告げている。睨み付けた先にいたのは、少年。患者服に身を包み、周囲には同じような光球を幾つも浮かせている。中心らしき首元には、金のロザリオ。少年の髪が僅かに浮いているから、あの光球たちも電気の塊なのだろう。
少年――サトシはキッとアクマを睨んだ。
「よくもホームを、めちゃくちゃにしたな!」
「エクソシスト……っ!」
新たなイノセンス――使用者の血から生まれ出でたその十字架は、光を乱反射させ美しく輝いていた。
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