18:さらえる
「きっとツナくんは、いつか僕を置いて行くんだろうな」
ポツリと、そう言いだしたのは炎真の方だ。
唐突な言葉に、綱吉は何も反応を返せなかった。摘まんで口に運んでいた菓子を噛み砕いて飲み込んだところで、漸く唇は動き「そんなこと、ないよ」と掠れた声が出た。
「俺はエンマと親友だと思ってる。親友をおいてどこかへ行くなんて、そんなことしないよ」
「ツナくんはそうでも、周りが黙ってないよ」
「マフィアのことを言ってるの?」
綱吉の問にハッキリ答えを示さず、炎真は袋からスナック菓子を摘まんで口に放り込んだ。
「たとえマフィアになってもならなくても、エンマと縁が切れるわけないじゃないか」
彼の態度に何となくムッときて、綱吉は唇を尖らせた。炎真は小さく微笑むだけで、特に言葉を重ねない。
「……空は、やっぱり雲や太陽のものなんだなって」
最初の言葉よりも、随分小さな声だった。
一瞬ポカンとした綱吉は、次第にムカムカとした熱のようなものが腹からこみ上げてくる感覚に歯を噛みしめた。
「――だったら、大地が奪ってみせろ!」
バン、と音を立ててその場に乱入したのは、紅葉を筆頭としたシモンファミリーの面々。
綱吉と炎真は二人して目を丸くし、彼らの入って来た入り口の方へ視線を向けた。いつから聞いていたのかとか、どうしてこのタイミングで乱入してきたのかとか、開きっぱなしの扉の向こうにボンゴレ側の守護者たちの姿も見えるのは何故だろうとか。訊ねたいことはたくさんある。
「天候が大地と大空を引き裂くというのなら、奪えば良い!」
「時は今! 男を見せるときだよ、エンマ!」
「あーあ、俺ちんしーらね」
一人肩を竦めるジュリーを押しのけた獄寺は、爆弾に手をかけていた。慌てて綱吉は立ち上がる。
「俺たちの大空を奪われてたまるか!」
いつの間にそんな話になったんだ! という綱吉の叫び声は届かず、並盛中の屋上に戦いの開幕を告げるような爆音が響いた。
「わ!」
爆風に煽られる綱吉の身体が、ふわりと浮かぶ。屋上で乱闘を始めるボンゴレとシモンの旋毛が見えたことで、綱吉は自身が浮いていることに気が付いた。
「大丈夫? ツナくん」
バランスを崩しかけたところ、誰かに抱き留められる。大地の炎で同じように宙へ浮かび上がった炎真だ。彼に礼を言いつつ、しかし肩を抱くような腕の位置はどうにかしてほしい、と綱吉は思う。
「……紅葉たちの言った通りにしてみようか」
「え?」
綱吉の左肩を自分の胸へ押し付けるように右肩を掴んでいた炎真は、もう片方の手を膝裏へ回した。驚いて声を上げる綱吉を気にせず、炎真はフェンスへ足をかけて運動場へ飛び降りる。
「え、エンマ!」
頭上から獄寺たちの怒号が聞こえる。しかし目の前の風景にいっぱいいっぱいな綱吉は、彼らへ声をかけることができない。
「さらっちゃった」
炎真は綱吉の顔を覗き込み、いたずらっぽく微笑む。
もう勘弁してくれ――思わずクラリと仰いだ空、こちら目掛けて飛び降りてくる複数の影を見つけて、綱吉は目を閉じたくなった。
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