11:ずっとすきでした
一つのことを自覚すると、頭はそればかり占めてしまう。教師の言葉も耳から抜けるし、食事も中々喉を通らない。膝を抱えて部屋の隅で蹲っていると、そんなに思い悩むなら当たって砕けて来い、とスカルに脛を蹴られてしまう。
余程酷い顔をしていたのか、らうじにヒョイと抱えられ、ジュリーが選んだ服へと着替えさせられると、炎真は宿を追い出された。曰く、ちゃんと話をして来い、と。
どうしろって言うんだ。正直、炎真はそう叫びたかった。しかし静かに閉められた扉の向こうから、目的を果たさなければ潜ることは許さない、というような気配を感じる。チラチラと窓から心配げにこちらを伺う水野の視線もあったが、ジュリー辺りから言いくるめられているのか、家に入れてくれる様子はない。
仕方ない、と炎真はポケットに手を入れて開かない扉に背を向けた。
彼らの言葉通りの行動をすることなく、炎真は並盛神社の境内に向かった。
ギシリと音の鳴る社に腰を下ろし、ゴロリと寝転がる。
(追い出されたくらいで言えたら苦労しないよ……)
腹に手を置いた状態で寝転がり、ハアとため息一つ。ほとぼりがさめるまでここで時間を潰そう。そう心に決めて目を閉じた。
「……マ――エンマ」
ユラユラと微睡みを漂っていた意識が、浮上する。ハッとして目を開くと、視界いっぱいに琥珀色が広がっていた。
「ツナ、くん」
どうして、と掠れた声で呟く。小さく微笑んだ綱吉が身を引いたので、炎真は上半身を起こした。彼の足元には、ずっしりと中身の詰まったエコバッグが置かれていた。
「母さんに頼まれたお使いの途中で、紅葉さんに会ってさ。エンマと会わなかったかって言われて」
炎真は苦虫を噛み潰した気分になる。それが顔に出ていたのか、綱吉は少し眉尻を下げた。
「大丈夫?」
「え?」
「何か、エンマが悩んでいるって聞いたから」
炎真の隣に腰を下ろし、綱吉は軽く笑う。炎真はますます顔を顰めてしまい、綱吉の心配げな視線も強くなった。
「何か、力になれることはある?」
親切心からの言葉だろう。しかし綱吉のそれが、今の炎真には針のようにチクチクと刺さる。
なんでもない、と開きかけた炎真の唇は、すぐにピタンとくっついた。
光の加減で蜂蜜色にも見える瞳が、真っ直ぐ炎真を映している。今この時間だけのことだとしても、その事実が炎真の気分を高揚させていった。
ゴクリ、と唾を飲み込んだ喉が上下に動く。
そろりと動かした手が、木の床に置かれた指先に触れる。ジワリと汗を浮かべる手は緊張から冷え切っていて、触れた指先は温かい。温度差に一瞬強張ったものの、指先は重なる手を拒まずに受け入れた。指と指の間にスルリと滑り込んでも、払いのけられない。自分は彼に赦されているのだと、そんな想いが胸中に浮かんだ。
「あ、」
声が漏れた。思わず伏せそうになる顔を寸で堪えて、じっと言葉を待つ蜂蜜色を、炎真も真っ直ぐと見つめ返した。
「ツナくん、あの、」
掠れた声で、言葉を紡ぐ。きっと自分の頬は、ぴょんぴょんと跳ねた髪より赤い。それでも、炎真はもう躊躇わなかった。
拙い愛の言葉でも、彼はしっかり受け止めてくれると思ったからだ。
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