10:おやすみ、またあした
家庭教師に蹴り飛ばされて、目が覚める。痛みに文句を言いつつも時計を見ればそれどころではなかったので、慌てて着替えて一階へ降りる。既に母が用意してくれていた朝食をかきこんで、家を飛び出す。
門前で言い争いをしてまで待っていてくれた友だちと朝の挨拶をし、一緒に学校へ。
学校では宿題忘れを教師に指摘されたり、騒がしい先輩に巻き込まれて恐怖の風紀委員長に追い回されたり散々だった。
喧騒に揉まれた身体で逃げ込んだ屋上には、先客がいた。
午前の授業で同じように宿題忘れを叱責され、体育では顔面でボールを受け止めていた不幸体質の彼だ。まだ赤い鼻を擦っていた彼はこちらに気づくと、小さく微笑んだ。昼休みは、そうして二人で過ごした。
腹が満ちた午後の授業は、眠気との戦いだ。しかしあっさり敗北して、不幸体質の彼と一緒に教師から名指しの注意を食らってしまった。赤いボサボサの頭を掻きながら、目が合った彼は口元を緩めた。やっちゃったね、と小さく唇が動く。思わずこちらも苦笑いを溢してしまい、それをまた教師に見つかって指導を受けた。
下校のときも、彼と一緒に歩いた。犬に追いかけられやすい自分と、小石や溝にすぐ足を引っかけて転ぶ彼との下校は、他の友人と一緒のときより数倍時間がかかった。
日没の早いこの季節、あたりはすっかり暗くなっていた。途中で疲れて一息入れようと駄菓子屋に寄り道する。そこで購入した数百円の菓子を手に、さらに土手へ寄り道。
二人で座って少し遅いおやつを食べていると、ヘルメットをかぶった赤ん坊と遭遇する。当然のように彼の膝へ座る赤ん坊に、彼は言われるがまま菓子を分けてやっていた。仲良いなぁとのんびり感想を呟きながら飴玉を放り込むと、背中に強い衝撃を受けた。
こちらの居候その一と家庭教師が、くの字に折れた背中に飛び乗ったのだ。
おやつを寄越せ、と叫ぶ居候その一へ紫色の飴玉をやり、こんなところで寄り道してる暇があるなら課題をしろ、と銃をちらつかせる家庭教師に慌てて頭を下げた。
それじゃあしょうがないね、と彼も言ったので、素直に帰宅することにする。荷物をまとめて立ち上がると、彼はもう赤ん坊を抱えて舗装された道まで戻っていた。
「じゃあね、ツナくん」
遠くで、一番星が光っている。そんな空を背負って、赤い髪の彼は手を振った。
まだ土手にいたので彼を見上げる形になったまま、同じように手を振り返した。
「おやすみ、エンマ。また明日」
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