04:ふわり、ふわり
可笑しいなぁと炎真は思う。大地の炎は灯していない筈なのに、ふわふわと軽く浮き上がっているように足が軽い。一足踏み込むごとにいつもより大きく進んでいる気分で、気を緩めるとふわり、宙に浮いてしまいそうだ。
「不思議な気分」
ポツリ、呟くと、隣に座ってお菓子を齧っていたスカルが、ぐにゃりと顔を歪めた。
「ばっか、エンマ。お前、本当に分かってないのか?」
「何が?」
首を傾げると、スカルはゲェと舌を伸ばして見せた。
「この脳内お花畑め!」
スカルには盛大に罵られ、ついでに炎真の分のお菓子まで取られてしまった。正直、一口齧っただけでお腹はいっぱいだったので炎真は構わなかったが、アーデルハイトは「エンマのものを奪うんじゃない!」とスカルをひっぱたいていた。

大地の炎が暴走しているのかと不思議がる炎真へ、スカルは大きく息を吐いた。
「ならエンマ、お前、大地の炎が暴走していると思ったとき、何が起きているのか、誰と話しているのか、観察してみろよ」
そうアドバイスされた炎真は、翌日から早速その通りに注意を払った。
「エンマ、おはよう」
例えば、朝下駄箱で挨拶をしたとき。
「エンマ、お昼行こう」
例えば、青空の見える屋上で弁当を広げるとき。
「ひぃ、急いで逃げよう!」
例えば、恐怖の風紀委員長から逃げようとして手を引かれたとき。
「うち寄ってく? 昨日のゲームの続きしよう」
例えば、校舎をでたときにそう声をかけらえたとき。
「またね、エンマ」
例えば、傾きかけた日を受けて影を背負った笑顔と向かい合ったとき。
炎真の身体の奥で何かがふわりと浮き上がる心地がして、踏み出した足にうまく力が入らなくなるような気がした。まるで、無重力の状態で浮き上がったときのような。
「エンマ?」
黙りこくった炎真を不思議がって、綱吉が首を傾げる。
炎真はうまく神経が繋がっているか怪しい腕を持ち上げて、綱吉の手を握った。
「どうかした?」
「ツナくんは、変な感じしない?」
「えっと……うん、普通だよ」
いきなり繋がれた手に驚いたようだったが、綱吉は手を解くことなく目を瞬かせる。
「僕、最近ずっと大地の炎が暴走している感じがして」
「え!」
炎真の身体がどこかへ行ってしまうと思ったのか、綱吉は握られている手にもう一方を重ねてギュッと掴んだ。すると、炎真の胸がドキリと脈打って、激しい戦闘時のようにカッと血液が全身を巡った。
「大丈夫? 炎が出た感じはしないけど、やっぱり変?」
「うん……何かドキドキする」
風邪でも引いて、調子が悪いのかもしれない。そう呟くと、綱吉も同意した。
「早く帰って休んだ方が良いよ。俺、送って行くから」
宿へ向かう道中、綱吉は風船のように飛んでいってしまうとでも思ったのか、ずっと炎真の手を掴んでいた。その間、炎真の足は相変わらずフワフワとした感覚で覚束ず、カッカと血液が巡る音が耳元で鳴りやまなかった。
「……ダメダメコンビめ。全く、スカルのやつも何してんだか」
民家の塀でジュース片手に寛いだ黒衣の家庭教師が、すっかり呆れてため息を吐いていたことなど、二人は知らない。
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