知らない方が幸せだったね
(鳴+天+我)
火影岩の上で語り合うのがテンテンとナルトの日課になりつつあったある日。
その報せは、突然訪れた。
咎なくて死す・陸
「我愛羅…」
「久しぶりだな、ナルト」
その日、火影岩上に現れた我愛羅は部下を従えず一人だった。
彼に久しぶりと返して、ナルトはふにゃりと笑う。
我愛羅も微笑を浮かべ、ナルトの後ろに立つテンテンに会釈をした。
そんな彼と少し表情の固いテンテンを見比べナルトは首を傾げる。
「二人共どうしたってば?」
「…ナルト、少し彼女を借りたいのだが」
「へ?別にいいけど…」
「ここでいいよ、我愛羅くん」
テンテンは真っ直ぐ我愛羅を見つめる。
我愛羅は状況についていけないナルトを一瞥して、解ったと頷いた。
「テマリは明日、砂隠れに帰る」
きっぱりとした我愛羅の言葉は、ナルトにも衝撃を与えた。
「嫁入り話だったが上層部がどうしてもと言ってきてな」
「…大方私と引き離す為だね。で、もうこちらには来れないの?」
「シカマルは木の葉にとって必要な人材だからな。何年か後には木の葉に戻すそうだ」
「そう…」
「ちょ、ちょっと待った!」
どんどん進んで行く話に耐えきれず、ナルトは声を張り上げた。
何から聞いていいのか解らなくて、こちらを見つめる二人の顔を見比べた。
「…私の恋人は、テマリさん」
「二人の関係が砂隠れの上層部にバレたのが今回の真相だ」
「何だよそれ…」
ナルトは愕然と拳を握る。
「シカマルは、関係ないだろ…!」
テマリとテンテンの気持ちを無視した上層部に対する怒りや、それを受け入れるテンテンに対する苛立ちよりも。
真っ先に浮かんだのは、大切な彼のこと。
「ナルトくん…」
それで察したのだろう、テンテンは唇を噛み締めた。
自分達の所為で苦しんでいる人達がいる。
申し訳なさで一杯だ。
「我愛羅くん」
テンテンはナルトと我愛羅の間に立った。
「私はテマリさんと二度と会わない。だから二人の婚約を取消して」
「テンテン…?!」
ナルトは顔を上げ、涙の浮かぶ目でテンテンを見つめる。
「私の家は名家じゃないから居なくなっても困ることはない」
「だが」
「お願い!」
言い淀む我愛羅の腕を掴み、テンテンは叫んだ。
「罰なら私が受けるから、これ以上皆を苦しめないで!」
「…!」
即答できなかったのは、その涙を湛えた瞳に気圧されたから。
しかし我愛羅は込み上げる何かを堪え、テンテンの肩を掴んだ。
「ダメだ」
彼女を引き離し呟くと、テンテンは糸が切れたようにその場に座り込んでしまう。
「…テマリが護ろうとしたのは貴女だ。俺も弟として姉の意志を尊重したい」
じわり、とテンテンの瞳から涙が溢れる。
一粒、また一粒と頬を伝って流れては、地面に沁みを作った。
――私は、お前を…
何時も耳元で囁いてくれた愛の言葉が、
――愛してる
今はもう、遠い。
「テマリさん…っ」
泣きじゃくるテンテンに差し伸べる手を、我愛羅は持っていない。
それが歯痒くて、拳に爪をたてた。
「…テンテン」
袖で乱暴に目を拭い、ナルトは顔を上げる。
「ありがとう」
「…ナルト、くん…?」
顔を汚す涙を拭いながら、テンテンはナルトを見つめた。
何かを秘めたその蒼に惹き込まれる心地がして、嗚咽が止まる。
「俺、アイツに返事が出来そうだってば」
今泣いている彼女は強い。
好きな人と離れる覚悟を、自分は出来ていなかったのだ。
二人に手を振って、ナルトは駆け出した。
目指すのは、面倒臭がりな彼の元。