てっきりあなたのお陰と思ってたけど
(鹿手)
※甘くない事後
「下手くそだな、童貞」
ムードも何もなしに毒づく目前の婚約者に、純粋な殺意が沸いた。
咎なくて死す・伍
「五月蝿い、処女」
額に青筋立てて言い返し、シカマルは下ろした髪をかきあげる。
煩わしいから切ってしまおうか、と考えていると先の発言が頭にきたらしいテマリによってベッドから蹴り落とされた。
「この女…」
ズボンを履いていたので不様な格好を晒すには至らなかったが、情事後のこの態度はさしものシカマルも頭にくる。
「少しは色っぽく喘いでみろや」
「あんなんで喘げるか」
上着を着ただけの格好で、テマリは尻餅を着く彼を見下ろした。
「全然気持ち良くないものだな」
「それに関しちゃ同感だ」
ベッドに腰かけ、シカマルはサイドテーブルの煙草に手を伸ばした。
薄暗がりの中、白いそれに赤を灯す。
シカマルが紫煙を吐くと同時に、テマリは溜息を吐いた。
「やっぱり抱く方が性にあってる」
「ぶふぉ!」
テマリの発言に思わず噎せるシカマルを、彼女は冷たく見つめる。
「だ、抱くって…」
「勿論女をだ」
さらりと言ってのけるテマリは、尊敬する程清々しい。
彼女のペースに慣れる為、シカマルは次に何が来ても驚かないよう腹を括る。
「あー、マツリとかいう部下か?」
「いや、木の葉のテンテンだが」
「…」
予想外過ぎて返す言葉もない。
まぁ自分も似たようなものだろうな、と溜息を吐いた。
「里の爺婆共にそれがバレてな。真面目な恋愛をしろだとさ」
テマリは自嘲気味に微笑んで、ヘドが出る、と毒づく。
一時の気の迷いだと?
ふざけるな。
そんなものだったら当に終っている。
三年以上も続く恋心が気の迷いであるものか。
事実、男との契りでも彼女以上の快楽は得られなかった。
こんな自分に子供はおろか普通の所帯を持てとは、無理な願いというものだ。
(成程ね…)
テマリの愚痴を聞きながら、シカマルは至極納得していた。
つまり自分は体の良い監視役にされたのだ。
これ以上テマリが非生産的な行いをすることがないよう。
ついでにその性的嗜好を矯正するよう。
(貧乏籤引いた…)
これが脱力せずにいられようか。
「お前はどうなんだ」
訊ねるテマリに、シカマルは二本目の煙草に火をつけながら何がだと返す。
「お前、女に興味ないんだろ?」
ずっと萎えてたもんな、とからかって、テマリはシカマルの許可も得ず新しい煙草を箱から抜き取った。
「おい」
「別にいいだろ。おい、火」
それが人に物を頼む態度かと怒鳴りたくなる程ふてぶてしい。
シカマルは一種の仕返しのつもりで、火のついた煙草を加えたまま、テマリに近づいた。
互いの唇が触れ合うには遠すぎる距離で、火を渡す。
「…どうも」
火が点いた途端テマリは煙草を指に挟み、まだ間近にあるシカマルの顔に紫煙を吹き掛けた。
ヤニで滲みる目を眇、シカマルは身を引く。
「お前な…」
「ナルトだろ」
不意にテマリは呟いて、固まるシカマルを見つめた。
「お前の想い人」
「…さぁな」
「告白しないのか?」
否定しているのに聞かない彼女には、何を言っても無駄なのだろう。
シカマルは諦めに似た心地で灰皿へ煙草を押し付けた。
「…したさ」
「へぇ。で、なんだって?」
「…聞いてねえ」
「はぁ?」
お前は馬鹿かと、あからさまな視線が痛い。
「聞かなくても解るだろ」
そもそも自分達のような存在の方が珍しいのだ。
気持ち悪いと言われるに決まっている。
「勘違いするな」
長い紫煙を吐いて、テマリは灰皿に煙草を押し付けた。
「女だからじゃない。私はテンテンだからなんだ」
お前だってそうだろう?
そう、此方を見つめる瞳が言う。
それに気圧され視線を逸らしたシカマルは、所在なく垂らした掌を見つめた。
「…そうだな」
男だ女だなど関係ない。
只自分は、
(…俺は)
ナルトだから、好きなんだ。