苦しまないで済んだのは
(鳴+天)
「あ…」
「…あ」
ナルトが火影岩の上に訪れると、そこには腰を下ろすテンテンの姿があった。
咎なくて死す・肆
吹き抜けて行く風が心地よい。
ナルトはテンテンと並んで座り、眼下に広がる里の風景を見つめていた。
珍しい組合せだ。
何時もなら人気のない火影岩の上。
二人は無言だった。
口火を切ったのはテンテンだ。
「何かあった?」
何時もは団子の髪を二つ結びにして風に舞わせ、テンテンはナルトを見やる。
ナルトは当たり障りのない笑顔を浮かべようとしたけど、もうそんな気力は底をついていて、口を閉ざすしかなかった。
そんな彼に苦笑して、テンテンは里に視線を戻した。
「ネジやリーが心配してたからさ」
「…」
「…失恋でも、しちゃった?」
ば、と顔を上げてテンテンを見やる。
彼女は少し悲しそうに、私もそうだから、と微笑んだ。
そんな彼女にかける言葉が見つからなくて、ナルトは俯いた。
唇を噛み締めるナルトと、微笑を浮かべて里を見下ろすテンテンの間を、風が通り過ぎて行く。
「…私さ、」
不意にテンテンが呟いた。
ナルトが顔を上げると、眉を下げて彼女は笑う。
「三年くらい付き合ってた相手に振られちゃって」
結婚するからって。
テンテンの言葉にナルトは目を丸くした。
「俺もだってば…」
「ナルトくんも?」
「あ、いや、でも俺、恋人じゃなかったってば」
臆病に気持ちを隠していたら、彼は離れていってしまった。
本当は、両想いだったのに。
「…吹っ切れたつもりだったんだ」
結婚すると言われたから。
同性だから。
でも心の何処かで諦めきれない。
もう一度抱き締めてと、叫びたい。
「…好きだったんだ」
「…うん」
「どんな人?」
「頭良くて、かっこよくて…」
物臭で、ぶっきらぼうで、年寄り臭くて。
けど偏見を持たず有りの侭を見てくれる。
ナルト自身を見てくれる、優しい人だ。
「もしかして、男の人?」
かっこいい、なんて単語は女性には使わない。
顔を真っ赤にするナルトが可笑しくて、テンテンは思わず吹き出した。
「安心して。私の恋人は女の人だから」
テンテンの発言に、益々ナルトの開いた口は塞がらない。
テンテンは悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑った。
かっこよくて、素直じゃなくて、口が悪い。
でも冷静な振りして熱情的でテンテンを心から愛してくれた優しい人。
心から愛していた人。
「…なんか、似てるね」
「…うん」
テンテンの言葉に相槌をして、ナルトは微笑んだ。
二人共同性に恋をして、失恋して。
なんて滑稽な傷の舐め合い。
喉元で突っかかっていた何かが、吐息と共に風に溶けていくようだった。
「あ」
テンテンが空を見上げる。
つられてナルトも空を仰いだ。
「…あ」
青い空を、白い番の鳥が羽ばたいていく。