輪舞曲
酷く、懐かしい歌が聴こえて。
酷く、懐かしい夢を視ていた気がする。



「鹿丸」

親友の声で、窓際の席でうとうとしていた鹿丸は目を覚ました。

「もう先生来るよ」

「寝不足かよ、ダッセー」

隣に座る蝶児は微笑ましく、前に座る牙は馬鹿にして笑う。
まだ寝起きで働かない頭で生返事をして、鹿丸は欠伸をした。

「佐助くーん!」

「イノブタ、邪魔よ!佐助くん、おはよ!」

鞄を机に置いた途端、端正な顔立ちの男子生徒は二人の女子生徒に声をかけられている。
教室に響く黄色い声に、牙がうんざりした調子で呟いた。

「よーやるな、桜と猪」

「僕、少し佐助に同情するよ」

あんな揉みくちゃにされて、と蝶児も溜息を吐く。

無言でそれを見つめていた鹿丸が教室の入口に視線を向けると、上級生が誰かを呼び出している所だった。
それに反応したのは長髪の女子生徒だ。

「螺兄さん」

「日向、弁当を忘れていた」

「あ、ありがとう」

弁当を渡した彼を、同学年だろうか、女子生徒が呼ぶ。
朝礼が始まると言う彼女を天天と呼んで、螺は日向に手を振ると急いで踵を返した。

その光景からすーと視線を横に動かした鹿丸は、中央付近に座る男子生徒と目があった。
サングラス越しにこちらを見つめる彼に、何故か冷や汗が流れる。

呑気な教師の声が聞こえてくる頃、やっとその視線は外された。

「はーいおはよー」

マスクをつけにっこりと微笑む教師に、生徒間から驚きの声が漏れる。

「案山子先生が遅刻しないなんて…」

「今日は雪か?」

そんな憎まれ口を叩くものだから、佐助は出席簿で頭を叩かれた。

「今日は転校生を紹介する」

佐助の睨みを華麗に無視し、案山子は教卓に戻る。
転校生?と首を傾げる生徒達の視線は開かれた扉に集まった。

「……!」

誰かが、息を飲む。

欠伸をしていた鹿丸は黒板の前に立ったその姿に、呆然と見入った。

ふわりと、金髪が揺れる。

何故か、頬に温かいものが伝った。
知っている。
あの色は、前の世で手放してしまったもの。
此の世では、まだ知らない色。

「宜しくお願いしますってば!」

流れる滴をそのままに、鹿丸は衝動的に立ち上がった。

にしし、と微笑む笑顔も。
声も、この口癖も。
愛しいあの子の。

周りの視線も気にせず駆けよって、自分より背の低い彼を抱き締めた。



もう、この手は離さない



2011.08.26
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