ラストソングを君と
幼い頃から漠然と感じていた疎外感。
存在を許されない、孤独感。
大人から子供へそれは伝染し、結果何時も独りぼっち。
だから、あんなことを言われたのは初めてだった。
――他と比べたり気にしたり、そーゆーの面倒臭いだろ
そう言って手を引いて。
――お前はお前だ
微笑んだ彼に、何時も救われていたんだ。
***
かは、とシカマルは血の混じった唾を吐く。
それは辺りに滴って、ナルトの金髪を汚した。
「…ナル、ト…」
震える腕で抱き締め、右手を頬に添える。
碧眼と口許はゆるりと弧を描いて、髪を撫で付けるように伸ばされた手が頬に触れた。
「…シカ、マル」
(だから…)
「あり、がと…」
――だいすき。
ずるりと、男はナルトの胸とシカマルの腹を貫いた腕を引き抜く。
がくりと膝をつくシカマルからナルトを引き剥がそうとするが、しっかりと抱き締めている為容易ではない。
腹に風穴を空け膝をついても尚、シカマルはナルトを離さないのだ。
「通牙!」
それに苛立っていた男は一瞬にして吹き飛ばされた。
キバの攻撃の所為である。
壁に叩きつけられた男の胸倉を掴み上げ、キバは更に拳を振り上げた。
「シカマル!ナルト!」
キバの行動で我に返ったサクラが喉が壊れる程の叫び声を上げる。
「ナル、ト」
パタリと横に倒れ込んだシカマルは添えたままの手を動かして彼の頬を汚す血を拭った。
反応を返さない彼の名を呼んで、拘束されたままだったその手に指を絡める。
「ナルト…」
何度も何度も呼ぶ。
だけど返事は無くて。
触れた頬は、冷たくて。
「…っナルト…ォ!」
ボキ、と骨が折れる音がする。
シカマルの声を聞きながら、キバは馬乗りになって男を殴りつけていた。
何度も、何度も。
彼が名を呼ぶ度に。
同じ数だけ。
「この野郎…!」
「キバ」
拳が赤くなる頃、シノが彼の肩を叩いた。
ふと我に返り、倒れる二人を見やる。
彼の着る黄ばんだ服は、真っ赤になっていて。
鼻につくのは、確かな死の匂い。
「…っちくしょおぉ!」
最後の一発と振り上げた拳は、掌に立てた爪の所為で血に濡れていた。
「シカマル!」
「ナルト!ナルト!」
「落ち着け!」
ネジは錯乱するシカマルを羽交い締めにし、横たわるナルトから引き離そうとする。
しかしシカマルはサクラが治療しているナルトの手を離そうとしない。
「シカマル!治療しないと!」
いのの悲痛な声が聞こえたが、関係なかった。
離さないと決めたのだ。
もう二度と。
どんなことがあっても。
この手だけは。
「ナルト…!」
「…馬鹿息子が」
とん、とあくまで軽く首の後ろを叩かれた。
意識が闇に引きずられる。
「ナル、ト…」
固く結んで離さないと決めた手は。
容易く、解かれた。
***
「言った通りになったか」
馬鹿な奴等、と呟いてサスケは岩の上に寝転がった。
見上げた空は腹立たしい程に蒼い。
不意に、視界がぼやけた。
頬に温かいものが触れる。
自分は何時天照を発動したのだろうとぼんやり思いながら、掌でそれを拭った。
日を遮るようにして翳してみるが、掌には何の色もついていない。
「…そうか」
また、視界が霞む。
目尻から耳へと流れるそれを放って、目を閉じた。
「…悲しいのか、俺は」
一陣の風が、肌を濡らす涙を乾かしていく。
囚われのお姫様を王子様が救い出して絵本は頁を終える
現実がそこまで甘くないことを僕らはまた思い知らされたのだ
2011.08.25