紅い靴で踊るワルツ
「九尾を…?」

顔を歪めるシカクと驚きで目を見開くナルト。
男は肯定して剣を持たない方の腕を広げた。

「九尾は素晴らしい。手にすれば、世界を掌握することも可能な程」

「手前ら…政府の人間じゃねぇな」

「ええ。反政府組織の者です」

シカクは唇を噛み締めた。
政府からの命令が流出したか、政府役員にスパイがいたか。
何れにせよ始めから彼らの計画に組み込まれていたのだ。
気づかなかったのは己の失態。

風の国と戦争になるという脅しも用を成さない。
彼らにとっては寧ろ好都合だ。
この場にいる木の葉の忍は自分とナルトだけ。
この様子からして、暗部は体よく里へと追い返されているだろう。
圧倒的に不利だ。

シカクは必死に頭をフル回転させるが、突破口は開けそうにない。

「実は私元忍でしてね、この陣も私が考えたんですよ。九尾の力を人柱力から取り出す術式です」

円を描く塗料を足で叩き男は声高らかに続ける。

「ではまぁ」

死んでもらいましょうか。

シカクの手から剣を引き抜き、振りかぶる。
目を瞑ることも忘れ、思わずそれに見いった。



「やめろ!」



ピタ、と。
叫び声に反応して、剣が止まる。
声のした方を見やった男は何の真似です、と冷静な言葉を返した。

兵の持つ槍を掴んだナルトは、無理矢理その刃先を自らの首筋に押し当てていた。

「おっちゃんに手ぇ出したら、九尾抜く前に死んでやるってば」

九尾のお陰で治癒力が高いといっても、深い致命傷は死に至る。
そのことは過去に嫌と言う程実証済だ。

「俺が死んだら、あんたらの欲しがってる九尾も死ぬ」

ナルトの雰囲気に嘘でないと感じたのだろう、男はひきつった笑みを浮かべた。

「分かりました」

男は剣を仕舞う。
印を組もうとしたシカクは背後から別の兵に羽交い締めにされ、腕を拘束された。

「貴方は見学なさっていて下さい」

ずるずると壁際まで後退させられる。
ナルトを取り囲んでいた兵達も退がり、今陣の中央にいるのは男とナルトの二人だけだ。

男の手がナルトに向けて翳される。
兵の拘束から逃れようとしたシカクだが、目が合ったナルトに微笑みかけられ、力無く項垂れた。

親友の笑顔に、よく似ていたのだ。

男に視線を戻したナルトは瞼を下ろす。
男の手に視認化出来る程のチャクラが集まった。



「影縫いの術!」



そんな、声が聴こえた。

途端、ナルトの体は何かに押された。
目を開くと自分と男を妨げる影が見えて、それに押されたのだと知る。
男は自らを貫こうと降る影を避けて飛びすさった。

(影…)

咄嗟にシカクを見やるが、彼は相変わらず拘束されていて術を使う所ではない。
まさか、と思いながら、一つしかない出入口に視線を向ける。

彼は柔らかく微笑んで、確かにそこに立っていた。

「ナルト」

シカマル、と名を呼びそうになった。
呼んで、駆けよってしまいそうになる口と足を、寸での所で押し留める。

「ナルト」

けれどシカマルの方から近づいてきて、容易く腕の中に抱き込まれてしまった。
ふわりと鼻をつく何かの香りに、涙腺が刺激される。

「…なんで」

なんで、此処に。

「来たかって?」

優しい声に顔を上げると、同じくらい優しい笑顔がこちらを見ていた。

「九尾も人柱力も関係ねぇ。俺はお前が好きなんだ」

「…!」



――そーゆーの面倒臭いだろ



ああ、君は何時でも。

「…ありが、とう…!」

「どういたしまして」

ボロボロに泣き出すナルトの涙を拭い、シカマルは微笑んだ。

「礼はあいつらにも言ってやれ」

「へ?」

「しゃーんなろー!」

そんな掛け声と共に響いた凄まじい音。
音のした方へ顔を向けたナルトは目を丸くした。
壁が破壊され瓦礫と化していたのだ。
あんな掛け声で壁を破壊する人物を、ナルトは一人しか知らない。

「サクラちゃん…!」

彼女だけではない。
キバにチョウジ、サイ、ネジやヒナタやいのにシノ、テンテン、リーといった同期達の姿に、ナルトはまた泣きそうになった。

ナルトを見つけたサクラは唇を噛み締める。

「馬鹿ナルト!」

彼女もまた、泣いていた。

「後で覚えてなさいよ!」

思わず背筋を伸ばすナルトに苦笑して、シカマルは彼の頭を撫でる。
するとサクラから、あんたもよシカマルの叱責が飛び、顔をしかめた。
ふと視線を下げればナルトと目が合い、同時に苦笑が漏れる。

その光景は微笑ましく思われた。



どす、



しかし肉を裂く音がそれをかき消す。

「お楽しみの最中すみませんね」

皆が一様に目を見開き息を飲む中、頬に返り血を浴び男はにたりと笑った。

サスケの嘲笑が、聴こえた気がした。



これが罰というのなら
何の罪を犯したというのだ




2011.08.25
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