なんて儚きトロイメライ
懐かしい歌を、口ずさむ。
子を寝かしつける為母が歌う子守唄だ。

次第に目頭は熱くなって、視界が霞んだ。

「…シカマル…」



――好きだ



彼の真剣な瞳が、声が。

「俺も…っ」

固めた決意を揺り動かす。

覚悟した筈だった。
死の恐怖も、見放された哀しみも、残していく者達への後ろめたさも。

けれどどこかで捨てきれなかった。

(だから、なんだろうな…)

あの日、シカマルに告白したのは。
言うつもりなんてなかったのに。
彼の顔を見たら、自然と口から溢れていた。

それが間違いだったのかもしれないと思いながら、彼がくれた首飾りを指で弄る。
硝子玉同士がぶつかって、澄んだ音を立てた。

「うずまきナルト」

格子の前に、フードを目深に被った男が立つ。

「出ろ」

ナルトはゆるりと顔を上げた。

「処刑の時間だ」

低い声が辺りに響く。
口許に薄く笑みを浮かべ、ナルトは黙って立ち上がった。



***



ねぇあんたアイツのこと好きでしょ、と白金の髪を揺らしながら少女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
お前は馬鹿かと返し皿の上の御手洗団子に手を伸ばす。
しかしそれは目の前の少女に叩かれ、最後の一串は隣に座る少年に奪われた。
おい、と不機嫌に少女を睨み上げる。
しかしそんな事は気にせず机に手をついて、さっさと認めなさいよ、と少女は顔を近づけた。
何をと訊ねれば、あからさまな溜息。
鈍いわねぇ、という少女の呟きに、団子を咀嚼した少年も同意して頷く。
訳が解らなくて潜めた眉間を思いっきりつつかれた。
だから、と少女は微笑む。
心底嬉しそうに。

「あんたはナルトのことが好きなのよ、シカマル」



***



シカマルとサイは中腰で身構えた。
手は前で拘束されていて、印を結べる状態ではない。
抜刀した腕を脇に垂らすサスケの意図が読めず、シカマルは舌打ちした。

「何の用だ、サスケ」

問いに答えず、サスケは刀を持つ腕を振り上げると、横に薙ぐ。
反射的に目を眇たシカマルはその刃が斬った物に気づき、大きく見開いた。

木で出来た格子が、木片となって散らばる。

サスケは刀を鞘へ戻した。

「…なんで」

「味方は多い方がいいからな」

やっとサスケは答えた。
サイは首を傾ぐが、シカマルは意味を理解する。
彼がナルトと共に里抜けしようとしたことを指しているのだ。

「…俺ぁ、別に木の葉を潰そうなんて考えてねぇぞ」

寧ろ関わらないように逃げるのだ。
その返答を予想していたのか、サスケはにやりと口許を曲げ肩を竦めた。

「先のことは解らないだろ」

「…どういう意味だ」

何と無く胸騒ぎがする。
顔を歪める彼を、サスケはさも可笑しそうに見つめた。

「ナルトの処刑の時間、早まったらしいぞ」

視界が一瞬揺れた。



***



「処刑の時間を早めて、何かあったんですか?」

長い廊下を足早に進みながら、シカクは前を歩く男に問うた。
フードとマントで体の一切を隠した彼は、今計画の責任者だ。

「先程火影様の使者と名乗る子供達が処刑の中止を伝えに来ました」

続いて男は、風影と雷影に極秘にしていた処刑の事実がバレ、国の面子を保つ為に中止の命が下ったと話した。
自らの作戦が間に合ったことに安堵するがシカクは附に落ちない。

「なら、何故中止にしないのです?」

「……」

男からの答えを得る前に、シカクは処刑会場へと辿り着いた。

ドーム状の空間は、例に漏れず全て岩で構成されていた。
入口は今二人が入ってきたそこだけで、均された床には赤黒い塗料で円陣が描かれている。
その中心には、粗末な一枚布の囚人服を着たナルトと、彼を取り囲むように男と同じ服装の人間が二人立っていた。
手にしている槍や服装からして、木の葉の暗部ではない。
恐らく政府の兵であろう。

三人に近づく男を追ったシカクは、印が結べぬよう手枷を填められたナルトと目が合って笑いかけられた。
苦笑を返して、シカクは男に視線を向ける。

「このまま処刑しては国際問題になります。一先ず、」

「いえ、処刑は行います」

理由が弱いのであれば、と呟いて男はマントをはためかせた。
腰に提げていた剣を引き抜き、シカクがそれに気づくより早く彼の肩を貫いた。

「ぐ…!」

「おっちゃん!」

咄嗟に駆け寄ろうとしたナルトだが、兵の交差した槍によって阻まれる。

刃を抜かれると同時に痛みに耐えきれず方膝をついたシカクは、更に地面と左手を縫い付けられた。

「ぐっ」

「うずまきナルトは奈良上忍を殺害、暴走した末始末された―――というシナリオは如何でしょう」

平然と言い放つ男を睨み上げる。

「そうまでして、何故ナルトを…」

フード下から覗く口許は、確かに弧を描いていた。

「九尾を我が物にする為ですよ」



世界は何時だって
僕らを裏切る




2011.08.24
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