アイスクリーム(220509)
くぅ、と鳴りそうで鳴らない腹。ガッツリと何かを食べるには、腹の隙間も時間も中途半端だ。街を歩いている途中でそんな微妙な空腹感を抱いた雲雀の足は、いつの間にかとある少年の家までやってきていた。
ごく普通の一軒家を、無感動に見上げる。入るべきか否かを迷うほど遠慮はなかったが、足に任せたまま行動するほど考えなしでもない。
ただぼんやりと見上げていた雲雀の背後から、「ヒバリさん?」と驚いたような声が聞こえた。
肩越しに振り返ると、両手に買い物袋と子牛を抱えた沢田綱吉が、丸い目でこちらを見つめている。
「やあ、小動物」
「こんにちは。何か御用ですか?」
小動物さながらの相手を探るような視線で、綱吉は雲雀を頭からつま先までなぞる。雲雀は肩から下げた学ランの裾を少し揺らして、見回りの途中だと告げた。
「はあ……」
「つーなー! さっさと家に入るもんね!」
綱吉の腕を飛び出したランボが、焦れたように彼の腕を引く。綱吉は門前に立った突然の客を、どう扱ったものかと迷っているようだった。二の足を踏む綱吉にぷっくりと頬を膨らめ、ランボはダンダンと足を踏んだ。
「今日はツナのアイス食べる約束したもんね!」
「アイス?」
くぅ、と小さい音がした。直接的な食べ物の単語を耳にしたせいか、腹が反応したらしい。そしてそれは、しっかり綱吉の耳にも届いたようで。
「えっと……ヒバリさんも、いかがですか?」
口端を指でひっかきながら、綱吉はそう進言した。

「アイスっていっても、そんな大層なものじゃないですけど」
そう言いながら、綱吉は冷蔵庫を開く。頬杖をついた雲雀と、わくわくとした顔でスプーンを握るランボの前に、綱吉は冷えたボウルを置いた。
用意するものは、余っている果物と生クリームと砂糖を好きなだけ。果物は本当に何でもよいのだが、今回はしなびる手前の苺を使う。ボウルで潰した苺の上から、生クリームを入れる。砂糖は味見をしながら、適量を。そうして適度に混ざったら、冷凍庫で固めて完成。
「どうぞ」
ランボと雲雀の手元に置かれたのは、小皿に取り分けられた薄紅色のアイスクリーム。
キラキラと目を輝かせたランボは元気よく挨拶をし、綱吉も自分の分を取り分けて、早速スプーンで掬っている。雲雀もゴリゴリと削られたアイスの欠片をスプーンに乗せた。
市販品より冷やし過ぎたアイスは固く、綱吉は随分苦労して三人分を削っていた。
端がとろりと溶けているアイスを舌へ乗せる。少ない量のそれは、砂糖の甘味と微かな苺の酸味だけを残してすぐに溶けた。
「ツナ、お代わり!」
「イーピンたちの分もあるし、夕飯がもうすぐだからダメだ」
瞬く間にぺろりと平らげたランボは、素気無く要望が却下されたことで唇を尖らせた。綱吉も食べ終わり、ランボの小皿とスプーンをサッと回収すると自分の分と一緒に流しへと持って行ってしまった。
「ヒバリさん?」
宥めるようにランボの頭をポンポンしていた綱吉は、ふと雲雀を見て小首を傾げた。彼の手が止まり、その器で薄紅色のアイスが溶け始めていることを指摘する。雲雀は「ああ」と頷いて、サクリとアイスの小山をスプーンで削った。
「こういうのも悪くない」
クルリと小皿の中でスプーンを回す雲雀は、ポツリとそう呟く。綱吉はキョトリと瞬きを一つ。それから照れたように微笑んだ。
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