コーヒー(220425)
目が覚めるとき、そのきっかけは日によってさまざまだ。音や光、気配、匂いなど。その日雲雀の意識を引っ張ったのは、匂いだった。
雲雀が目を覚ますと、開け放たれた扉の奥から知った匂いが漂って来ていた。身体を起こして撫でたシーツは、雲雀以外の熱を失っている。時計を見ても寝過ごした時分ではないから、珍しい行動を起こしたのは向こうの方だ。
「あ、おはようございます」
「……」
本当に珍しい。
いつもは雲雀より寝汚く、自前か寝癖か分からない頭で動き回っている筈の後輩は、すっかり着替えまで済ませた恰好で椅子に座っていた。傍らの机には、寝室まで届いていた匂いの発生源である珈琲とパンをメインとした朝食。
湯気が立っている様子からすると、ルームサービスが届いてからそう時間が経ったわけではなさそうだ。
「雲雀さんも食べますか?」
ニコニコ顔の綱吉が持ち上げるのは、白い陶磁のカップ。
「……」
綱吉の向いに座った雲雀は、頬杖をついて彼の顔を見つめる。視線の先が手元のカップだと気づいたのか、綱吉はチラリと白く丸い表面へ指を滑らせた。
「雲雀さん、朝は珈琲でしたっけ?」
「できれば日本食と緑茶だけど……そこまで我儘言うほど子どもじゃない」
冗句かな、と綱吉は一瞬迷ってしまった。当の本人は少し眠たげに欠伸を溢して、空のカップへ珈琲を注ぐ。
くん、と香り立つ湯気へ鼻先を寄せ、小さく吐息を漏らす。その姿はさすがと言うべきか、自分よりよっぽど様になっていると、綱吉は思うのだ。
珈琲を少し啜った雲雀は、ゆっくりと喉を動かす。自分のカップを両手で包み、綱吉は彼の顔を覗き込むように少し小首を傾いだ。
「いかがですか?」
綱吉の問を受け、雲雀は少し考えるように視線を動かし、足を組む。
「悪くない」
ふ、と口元から漏れた吐息が湯気を揺らし、楽しそうに雲雀の髪を撫でていった。
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