天国で花塗れになった親友が会いに来た。
「……」
朝起きてベランダへ出ると、そこには不可思議な生き物がいた。
端的に表すなら、某森の妖精の体表を覆っている草が、一斉に花を芽吹かせたような。毛皮のように、頭のてっぺんから爪先までもっさりとした花で覆われた、のっぺらぼう。今もこちらへ手を振った拍子に、薄紅色の花弁が数枚、ハラハラと降谷の足元へ積もっていった。
「……化物か?」
「酷いこと言うな」
もごもごと口らしき辺りが動いて、若干くぐもった声が聞こえた。降谷が青の瞳を真ん丸くすると、どの隙間から覗いているのかもさもさの生物は可笑しそうにカラカラと笑った。その動きに合わせてまた花弁がハラハラと落ちて、ベランダはすっかり薄紅色に埋め尽くされている。
「まぁ似たようなものか、幽霊だし。けどこんな花塗れなのは、お前のせいでもあるんだぞ」
一度笑うのをやめて、その生物は顔の辺りで手を動かした。ぱさぱさといっそうたくさんの花弁が落ちて、降谷の視界を遮る。さらにはクッションでも飛んでくるみたいに花弁の塊が顔面にぶつかって、降谷は思わず顔を顰めた。
「っいきなり、なに……!」
アン、と室内にいたハロが、鳴き声を上げる。
「よく言わないか? その人のことを考えると、天国では花が降るって」
雪や埃でも払うように手足へ纏わりつく花弁を散らし、その下から現れた無骨な手が降谷へ伸びる。ギターと、それから銃を握り慣れた痕のある手。降谷のよく知る形が、そっと頬を撫でる。思わず降谷が目元を眇めると、そこを親指でなぞって彼はくしゃりと笑った。
「オレのこと考えすぎだよ、ゼロ」
頬に触れたままの手に、降谷は自分の手を重ねる。体温のない手でも、微かな感触が手の平に触れていた。頭にはまだ帽子のように花弁の塊が乗っていて、笑えばいいのか泣けばいいのか分からなくなる。
「……何だよ、重いとか、言うつもりか……っ」
「まさか。嬉しいよ、ありがとう」
これは、彼が降谷のことを考えていた分。そう示すように、散った花弁が降谷の肩へ髪へと降り続けていた。
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