お餅(230109)
餅。お節と並んで、正月は連日食卓のメニューに上がってくる食材だ。今年はさらにシモンやアルコバレーの、新生ミルフィオーレの面々も参加した大餅つき大会が催されたため、例年よりも多めの餅米が用意されていた。結果、何が起こるかというと、
「……まだある」
主催者が居候する沢田家の冷蔵庫が、大量の餅で圧迫されるのである。
「ツナ―、おやつー」
「今日は砂糖餅だぞー」
半分光の失った目で言うと、ランボは盛大に頬を膨らめた。
「ツナー」
コンロへ向かっていた奈々が、トースターへ餅を並べる綱吉へ声をかける。蓋を閉じてから綱吉が振り返ると、奈々は火を止めたコンロから鍋を持ち上げていた。
「お汁粉できたから、お友達のみんなにお裾分けしてきたら?」
「ええー……」
「ほら、炎真くんたちとか」
「うーん……」
「あと、学校の先輩とか」
奈々の言葉に、渋っていた綱吉の眉がピクリと動く。チンとトースターが鳴って、綱吉が蓋を開けるより早くイーピンが餅を取り出してランボと言い争いながら炬燵の方へと駆けて行った。
「……分かったよ」
綱吉が頷くと、奈々はニッコリと微笑んだ。

「それで、それがそのお汁粉?」
始業式は明日から。明日の準備に備えて学校を歩き回っているのは教員だけでないらしく、応接室へ来るまで黒い学ランの生徒を何人も見かけた。綱吉の持ってきた、側面が餡子塗れの鍋を見て雲雀は眉を持ち上げた。
「……いや、中身は無事ですよ。ちょっと道中、いろいろあっただけで……」
詳細は省くが、アルコバレーノとか新生ミルフィオーレとかがちょっかいと悪戯を仕掛けて来たせいで、酷い道のりになってしまった。諸々でチリチリになった髪を撫でつけながら、綱吉はハハと笑った。ふぅんと頷いて、雲雀は綱吉の頭から足先までジロリと見やる。それから腕を伸ばして、綱吉の頬を掴む。そこについていた黒い煤を、グイと乱暴な親指が拭っていった。
「あ、ありがとう、ございます……」
「フン」
雲雀はパッと手を離して、応接室のソファに腰を下ろした。それから鍋の蓋を取って、中を覗く。
「粒餡か」
「あ、はい」
「草壁に箸と椀を持ってこさせるか」
言うが早いか、雲雀は携帯端末を取り出して早速メッセージを送りだした。気が利かず申し訳ないと呟いて、そろそろと綱吉は後ずさる。メッセージを送り終えたのか、雲雀はそれをしまって綱吉に視線を向けた。
「食べていくでしょ?」
え、とポロリと声が落ちた。反対に顎は持ち上がって、雲雀と目が合う。じっと見つめる黒曜の瞳から目が逸らせなくなり、綱吉はゆっくりと頷いた。
「おもたせ、食べていきなよ」
雲雀は膝に肘をついて、首を傾けた。さらりと流れた髪を、目で追ってしまう。窓から射し入る光が白くて、綱吉は少し目を細めた。
「ありがとうございます」
だから、雲雀の口端が少し持ち上がっていたのは、見間違いかもしれない。
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