ちいさな幸せ(220704)
ランボにとって、幸せはブドウ飴のようなものだ。いつでもストックができて、日に透かせばキラキラと輝き、頬張ればじんわりとした甘さが広がる。手の平に収まる宝石のような幸せ。その在処は、実はとても近い場所にあるのだと、ランボは最近になって気が付いた。
それは例えば、奈々の作る温かいご飯だったり。太陽でフカフカに蒸されたタオルケットに、イーピンと一緒に包まってするお昼寝の時間だったり。もじゃもじゃの頭をさらに泡で大きくして笑い合うお風呂の時間だったり。怒りつつも決して追い出すことはせず、一緒にゲームをしてくれる綱吉の膝の上だったり。
キラキラと輝くような時間で、後から思い返してもじんわりと心が温かくなる、そんな日常がランボにとってのブドウ飴で、幸せだった。
それが最近は、少し味を変え始めていた。
「ごめんな、ランボ」
しぃと人差し指を口に当てて、綱吉は困ったように眉を下げる。少し開けた扉のところに立って部屋の中を見回したランボは、綱吉がそうする理由を見つけてつい眉を顰めた。
黒いパチパチキャンディー。ランボが最近こっそりそう呼んでいる男が、綱吉の膝に頭を乗せて丸くなっていた。一緒に部屋の前まで来たイーピンはサッと視線を逸らして、了解したと言わんばかりに片手を上げる。それからランボの腕を引いて一階へ行こうと誘ってきたが、ランボは視線をやらないままブンと彼女の腕を振り払った。
少々驚いた様子のイーピンは、暫く頑張っていたがランボが梃でも動かぬと知ると、目尻を吊り上げて一人で階段を下りて行ってしまった。
「ランボ?」
「……ランボさんも、お昼寝する」
「ええ?」と声を裏返しかけて、綱吉はパッと口を手の平で覆った。それをいいことに、ランボは黒い塊が身体を横たえるのとは反対側に座って、綱吉の身体に頬を寄せた。
「なに……」
のそり、と黒い塊が動く。綱吉は咄嗟に身体を固くして、ランボの肩を抱きよせるように腕を回す。
「子牛……」
「え、えっと、ランボもお昼寝したいみたいで……」
綱吉に抱き着いたまま、ランボはジロリと黒い塊を睨む。垂れ下がった黒い髪の隙間から、鋭い眼光がランボを射抜いた。その獣もかくやといった様子に、ランボはたちまち涙目となって強く綱吉に抱き着いた。
暫くランボを見つめていた鋭い眼光は、パチリパチリと動いて、やがてスイと横へと外れた。
「……騒いだら、咬み殺す」
ランボも綱吉も、その言葉の意味をすぐに飲み込むことができなかった。先に我に返ったのは綱吉で、元の体勢に戻った彼へ小声で「ありがとうございます」と呟いた。ランボがキョトンとしたまま綱吉を見上げると、苦笑した彼はそっとランボの頭を撫でる。
「一緒に昼寝していいってさ」
綱吉が、自分の膝を指でさす。カーペットに伸ばされた彼の足には、黒い頭が乗っかっている。先ほどまでと少し違って、そこにはランボも頭を乗せられるよう、場所が移動していた。
ランボは思わず、真っ黒い塊を見やった。
綱吉が、優しく頭を撫でる。ランボはゆっくりと身体を倒して、綱吉のお腹へ頬を埋めた。ランボの好きな飴の匂いに似ている。
すぅ、と鼻から息を吸うと、鼻の中が涼しくなるような匂いもした。
(……ハッカ飴、だもんね……)
苦みもあるため、ランボは好んで食べようとはしないけど、透き通った白い見た目とちょっぴり大人になったような味がかっこよくて、時々ちょっぴり舐めることもある。
パチパチキャンディーも、痛みはあるけど嫌いじゃない。どんな味の飴だってランボは好きで、口で転がす間は幸せを感じるものだ。
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -