すきなところ(220418)
「どこが良かったの?」
炎真は閉じたメニューを元の場所に戻す。彼のその行動の起点を察してベルを押していた綱吉は、ギュウと人差し指に力をこめた体勢でポカンと口を丸くした。
「……ズバリ聞くね」
「あんまり遠回しにしても、ごちゃごちゃするだけだって学んだ」
「ああ……」
「あと、言いたいことは手紙じゃなくて直接言葉にするべきだってことも」
ヒクリ、と綱吉の口元が僅かに引きつる。炎真はしれっとした顔で、やってきた店員にグラタンを注文した。店員に声をかけられ、綱吉はぎこちない口でオムライスを注文する。
「炎真、図太くなった?」
「かもね。で?」
話を逸らしたつもりかと視線で問うと、綱吉はパチンと目蓋を閉じてぐぅと唸る。
「……気になる?」
「割と。確かに良いところはあるけど、やっぱり僕みたいな人間には恐怖の対象でしかないでしょ?」
綱吉も同じ人間だと思っている炎真には、その感情が理解できない。長所は認める、彼は綱吉のような立場の人間にとって、有用な人物だ。しかし、それだけ。
「ツナくんがそれまでの関係だって割り切れるとは思ってなかったけど、意外だった」
「うーん。それ、他の人にも言われたなぁ」
言った相手は、炎真も何となく予想ついた。綱吉は小さく呻きながら机の上で両の指を絡めた。
「まあいろいろあるよ。うん……ほら、たまに優しいときあるし」
「ふーん」
「ほんとだよ、戦いが関わってなければ、それなりに」
「疑ってないよ」
綱吉が言うのならそうなのだろう。戦いが関わっていなくても、炎真に対する雲雀の態度は変化したことないが。
ただ、傍から見ている炎真にも分かることはある。雲雀恭弥の、時折見せる柔らかい視線とか口元に浮かぶ熱の気配とか、その他大勢のときとは違う力加減で触れている指の動きとか。
(多分、ツナくんはそういうところが好きなんだろうな)
知らぬは亭主ばかりなり。
「お待たせしました」
コトリ、と暖かい湯気を伴ってオムライスとグラタンが机に並ぶ。湯気がキラキラと光るように見えて、炎真の胃がきゅうと鳴った。
「先に食べようか」
「え、まだこの話続くの?」
炎真にスプーンを差し出しながら、綱吉は少し顔を顰める。スプーンを受け取り、炎真は頷く。
「聞いていて面白い話でもないでしょ?」
「まぁ、そこは」
そこで少し言葉を切って、炎真はチラリと綱吉の後方へ視線を向ける。それからグラタンを一掬い、フゥと息を吹きかけた。
「面白いと思う人もいるだろうし」
「?」
綱吉の頭上にクエスチョンマークが見える。しかし気にせず、炎真はグラタンを口へ。舌を先に伸ばしてしまったので、チリリとした痛みが走った。
「冷めるよ」スプーンを持ったまま動かない綱吉へ声をかける。慌てて黄色い山にスプーンを刺す綱吉の背後、ゆっくり動く黒い影を視界の端に捉えながら、炎真は痛む舌を水に浸した。
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