距離(220411)
物事には、適正距離というものがある。例えば黒衣の家庭教師の寝室には入ってはいけないとか、ハルのような純情タイプの女性の手は簡単に握ってはいけないとか。来日して数年、ある程度周囲との付き合い方を学習したランボは、そんな家族とその知人友人における適正距離を理解しつつあると言う。
「だから思うんだけど……」
「うん?」
コンクリートの段差に腰を下ろし、曲げた膝に肘をついたランボは、少し膨らめた頬を手の平に乗せる。その隣で同じように座ったらうじは、ランボの呟きに首を傾げた。ランボは正面へ視線を向けたまま、少し唇を尖らせる。
「あれ、近くない?」
ランボの視線を追うように、らうじは顔を動かす。
昼下がりの公園だ。枯れた噴水のようなオブジェの近くで、眦を吊り上げたアーデルハイトが炎真を腕で囲い、ギュウギュウと胸に押し付けている。炎真は諦めているのか気道を確保した以外は無抵抗で、ぼんやりと空を見上げていた。
「アーデルは、炎真に対してはいつもあんな感じだよ」
「それはそれで気になるけど……俺っちが言ってるのはあっち」
ランボはチョイと指を動かす。らうじは視線を動かして、「ああ」と呟いた。
アーデルハイトと炎真の向かい合う位置に、綱吉と雲雀が立っていた。
綱吉は炎真の様子に苦笑し、雲雀はアーデルハイトの行動に眉を顰めている。それだけならまあ、普通の光景だろうが、ランボが言いたいのはその距離だろう。らうじも何となく、その気持ちは分かる。
苦笑する綱吉の肩に、雲雀の腕が乗っかっているのだ。肘置き、ではなく少し筋へ力を入れれば間合いに引き込めるような、そんな腕の置き方。
「……ツナ、前はあんなに逃げてたのに」
むす、と音が聴こえてきた気がした。らうじはチラリとランボを一瞥する。手の平に乗せた頬が、先ほどよりも膨らんでいる。
手の平の影で声を押し殺し、らうじは持ち上がる口端を指で下げた。それからもう片方の手で、モフモフと柔らかいランボの頭を撫でた。
「時間で変わる距離もあるもんなぁ」
「あ、らうじ、俺っちを子ども扱いしてるもんね」
「ごめん、ごめん。ランボさん」
初めは恐怖と無関心から開いていた距離も、幾多の交流を重ねてあの腕の長さ程まで縮まったのだろう。彼らの間に存在する感情が、時間が、関係性を変えていった。
そこにある感情の名前は違えど、らうじとランボの、この少し手を伸ばせば頭を撫でられる距離だって、その一つだ。
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