ご褒美(220404)
「足りない」
トンファーを構えた雲雀は、頬についた血を指で拭うと共にそんな言葉を吐き出した。へ、と間抜けな声を上げたのは、彼と向かい合う位置で腰を屈めていた綱吉だ。雲雀以上に土埃と掠り傷に塗れた綱吉は、肩で息をしながら膝に置いた手で身体を支えている。
「あの、これで約束は果たしたかと……」
シュゥと額から煙を昇らせ、綱吉はミトンの手で頬を掻く。チラリと腕時計を見やれば、二つの針はきっちり雲雀も了承した約束の時間を示している。
ボンゴレと並盛が関わるとある作戦に、参加する代わりにと雲雀が望んだ対価。それは、死ぬ気状態の綱吉とのハンデや遠慮なしの戦いだった。綱吉はそこそこ長い付き合いで学んだ交渉術を駆使し、三時間で手を打たせたのだ。
「時間もぴったり。雲雀さんも了承して……」
「僕が足りないって言ってる」
有無を言わせない圧に、綱吉は久方ぶりに並盛の暴君を実感した。
「さすがの雲雀さんでも、約束は約束ですので……これでどうか」
ズカズカと大股で近寄って来た雲雀から、肩を竦めて身を反らしながら綱吉は懇願する。これ以上は綱吉の身が持たない。
身を縮こませる綱吉を見下ろし、雲雀は形良い眉を不機嫌そうに曲げた。
「……作戦に協力する対価はそうだね、きっちり貰ったよ」
「でしょう。なので、」
これで失礼します、という綱吉の言葉は、襟首を上方へ引っ張られたことで「ぐぅえ」という奇声に変わってしまった。
身長差のある雲雀と目線を無理やり合わせるように襟を引かれたので、自然と爪先立ちになる。更に首元もしまって少々息苦しい。
髪の毛一本しか入らないほど、鼻先が近づく。雲雀の真っ直ぐな視線に耐え切れず、綱吉は唾を飲みこもうとして「く」と変な音を立ててしまった。
「対価は貰った。じゃあ、あとは報酬だ」
「ほう、しゅう?」
「僕の成果に対する見返り。簡単に言えば、ご褒美」
雲雀恭弥の口から、とても似合わない単語が聞こえた気がした。
「ごほう、び」
「そう。作戦の責任者なんだから、そこんとこもきっちりね」
ニヤリ、と雲雀は口元で弧を描く。
これは逃げられない、と悟った綱吉の背に、冷たい汗が流れる。
すっかり振り回されている自覚があっても結局断り切れない時点で同類だと、いつか家庭教師に言われた言葉が綱吉の脳裏によみがえった。
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