ホワイトデー(220314)
鮮やかな色と眩しいくらいのライトアップがされたディスプレイ。少々場違いというか慣れない雰囲気に落ち着かなさを感じながら、γはウロウロと店内を物色していた。
「あ」
「ん?」
思わず声を溢したのは、この場にγ同様似つかわしくない人物がいて、それが知る顔だったからだ。
「雲の守護者か」
「その呼ばれ方は嫌いだ。電光のγだっけ?」
「覚えていたのか。お前は、他人に興味がないと思っていたが」
「群れるだけの弱者は覚える価値がない。まああなたは、それなりに楽しめそうだと思ってる」
雲雀がニヤリと笑うと、それだけ周囲から人の足が遠ざかるようだ。
並盛では最強の象徴である雲雀と、向かい合って話をするスーツ姿の外国人。目立ちすぎたな、と四方から突き刺さる視線に、γはつい顔を苦く歪めた。
「今日はあのアルコバレーノと一緒じゃないの?」
チラリと雲雀はγの左右に視線を動かす。γは手近のディスプレイに目を落としながら頷いた。
「まあな。姫への贈り物を買おうと思ってな」
「……イタリアにもホワイトデーがあるの?」
雲雀は整った眉を顰める。その瞳が映すのは店内の上部にでかでかと掲げられたポップ。白い花と青いリボンで彩られた英字をγも見上げ、小さく息を吐いた。
「姫の希望だ」
「……ふうん」
雲雀は小さく呟いて、傍らの棚へ目を落とす。持ち上げたのは、青いリボンを首に巻いた小さなテディベアで、持ち主とのギャップにγの頭はバグが起こりそうになった。
「姫から聞いたぞ。お前も何か入用だろ」
「……ほんとあの家はプライバシー駄々洩れだ」
目元に影を作り、雲雀はテディベアを棚へ戻す。
「まあ、姫はお節介だと思うが」
「なら余計な口を出さないでほしいんだけど」
「お前が適当に扱うから、最近の姫の話題がボンゴレばかりなんだよ」
雲雀はとうとう口を噤んだ。黙り込んだ彼を横目に、γは辺りの棚を物色する。それから小瓶を取り上げて雲雀の方へ振って見せた。
「……なにそれ」
眉を顰める雲雀に、γは瓶を押し付ける。手の平に収まる瓶へ目を落とし、雲雀は指でそれをくるりと回した。
「エディブルフラワー?」
「薔薇は赤い、菫は青い、砂糖は甘い、てな」
ますます眉間の皺を深くする雲雀へ薄い笑みを返し、γはヒラリと手を振る。暫く小瓶を弄っていた雲雀は、やがて諦めたように吐息を漏らした。彼も、他に丁度良いお返しを思いつかなかったらしい。
「……借りは返す」
「期待しないでおく」
さて自分はどうしたものかと、γはまた店内へ視線を動かした。
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