コンビニ(220307)
獄寺隼人は、コンビニでバイトをしている。理由は諸々あるが、割愛。広報活動の一環だとリボーンから言われているので、それほど苦ではない。禁煙と笑顔を強要してくる店長と、たまに突っかかって来る客が少しばかり面倒ではあるが。
「ん?」
今日も今日とて新刊雑誌を陳列していた獄寺は、真横に立つ気配が現れたことで手を止めた。丁度進行方向だったこともあり、獄寺は苛々とした心持で顔を上げる。こちらを見下ろす影の顔を見上げ、獄寺は顔を渋く歪めた。
「げ、ヒバリ……」
「何してるの、君」
闇に溶け込むような黒い上着を肩から下げ、雲雀恭弥は腰に手を当てた格好で獄寺を見下ろしていた。
獄寺は舌を打ちながら膝を伸ばす。
「手前こそ、なんでここにいる」
「質問しているのはこちらだ。中学生がこんな時間にバイト?」
言われて、獄寺はレジの方にある時計を確認した。時刻は夜十一時。中学生がバイトをするには、夜が更けすぎている。
「条例が並盛にも適応するとは思わなかったぜ」
「僕が有意義だと思ったものは何であれ利用するさ」
相変わらずの傍若無人。心中で「げえ」と舌を出した獄寺から視線を外し、雲雀はキョロキョロと店内を見回した。
「他の店員は?」
「バイトが少ねぇんだよ。今日はピンチヒッターで入っただけだしな」
「そう」
店長だって何も獄寺にすんなりとこの時間帯を任せたわけではない。のっぴきならない事情で出かけなければならず、何度も頭を下げていった姿は獄寺の記憶に焼き付いてしまっている。
「後で風紀委員を寄越すから、そいつと交代しな」
「は、はあ?」
「安心して。条例に引っかかるやつは寄越さない」
獄寺の引きつった声はそういうことを言いたかったわけではないが、雲雀は理解した様子も見せず取り出した携帯端末で何やらメッセージを打っている。
呆れて吐息を漏らした獄寺は、ふと彼の手に目を止めた。
携帯端末を掴む手の隙間からスルリ、と何かが滑り落ちる。端末の端に紐を括りつけていたそれは地面に落ちることなく、雲雀の手の側で揺れていた。細長く切った革を輪にしたシンプルなストラップだ。彼のもう一つのイメージカラーである紫色。
どこかで似たようなものを見た気がして、獄寺はパチリと目蓋を動かした。
「ねぇ」
獄寺が思考する間に、雲雀はレジの前まで移動していた。携帯端末はさっさとポケットにしまっており、代わりに手にしていたのはお茶のペットボトルとスナック菓子。それをレジ台に置き、更に保温器を指さす。
「さっさとレジしなよ、店員。肉まんも二つ」
「……っち」
思わず舌を打った獄寺は、素直にレジへ入った。不遜すぎる態度だが、今は客であることに代わりはない。
獄寺が合計金額を告げると、雲雀は素直に支払った。ショバ代につけておけと言われると思ったが、このコンビニは並盛の中でも雲雀の管轄から少し外れて五いるのだとか。どういう意味だ。
「……ありがとうございましたー」
棒読みの声を背中に受けても、雲雀は気にした風もなく自動ドアの前に立つ。そこでふと足を止めた雲雀は、肩越しに獄寺へ視線をやった。
「あ、そうそう」
「?」
「あまり根を詰めないように。小動物が心配してた」
口元を僅かに持ち上げた雲雀が、夜の闇へ消えていく。
そこで、獄寺の脳内に閃くものがあった。そうだ、あれは数日前、獄寺が敬愛する彼が照れ臭そうな顔で購入していたものだ。
「あ、の、やろう……!」
ギリ、と獄寺は歯を噛みしめ、グルリと腹を渦巻いた熱のままレジ台を叩く。獄寺が今さら毒ついたところで、何の意味もない。
その後、雲雀の用意した代役が来店するまで、自動ドアが開くことはなかった。
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